第1話 悲しきかな、異世界
時は少し戻って。この後瑠依少年を轢き殺すこととなる黒いリムジンの中で、現在吹雪いている中、コメントに乞われて自らのオリジナル楽曲である『Diamond Flower』を歌っている白髪の少女がいた。
彼女の名はフブキ。ヴァーチャル配信グループ【幻想議会】の六期生にして立ち上げメンバーである人物で、ヴァーチャル配信者として銀嶺フブキを名乗っている。
自らを模したような白銀の長髪に、彼女の趣味で猫耳と銀の翼を自らの分身のような存在であり彼女的には『姉』であるルアに書き足してもらった姿の絵を持っている。
『華ひーらくー、そーのひー―――』
そして歌い終わろうかという、直前。黒いリムジンが、突如停止した。そして同時に配信の回線も切れ、その歌枠配信を見ていた視聴者たちは突然終了した歌枠配信に驚いた。
「...ひゃぁぁぁっ!?」
「わぁぁぁぁぁぁっ!?」
同じぐらい高い、二つの絶叫が森林の中に響いた。片方は白と銀の髪。片方は蒼銀の髪。フブキと、瑠依少年である。
「あたっ!?」
「とぅっ!」
片や墜落、片や知っていたかのように背に生えた数対の黒い翼でふわりと舞い降りる二人。
悪い意味で瑠依少年が目立ったが、あいにくそんなものを見る人は誰も...
「?お主ら、どうしたかの?」
いや、いた。金髪の巨漢が。
「あ、ローゲインさーん!おひさー!」
異世界に来るのは初めてなはずだが、なぜか気安く挨拶を行うフブキ。しかも、老人の方はそれで反応し、「もしや、幾万年前に来たあの賑やかな連中のフブキとかいう嬢ちゃんかの?...ただ、ルカとか言ったそっちのはフブキさんの方ににているのう」とやや意味深な回答をした。
勿論、ついていけないのは少年...この際ルカと呼ぼう、彼だけである。
「以前もそうじゃったから」と言われて二人が連れて行かれたのは、フブキと同じ白銀の髪を持つものばかりが集まっている町だった。
以前がどうだったのかは知らないが、少なくともイレギュラーは銀髪であるルカやフブキを入れてもローゲインぐらいである。
ただ街の人とはよくしているのか、ロー爺などと子供大人問わず呼ばれていた。実際、彼らからしても爺だったのだろう。
「おや?今日は早い帰りでしたね。...って、外からフブキの民拾ってきたんですか?私の個人スペースが少なくなるからやめて欲しいと言ったのに...。」
「何を言うか。レンなど個人スペースと言って衣服やら下着やら散らかしているだけではないか!」
「あーはいはい、私は爺の説教など聞く耳持ちませんよーだ。...あがっ!?」
そこに、「てとてと」という擬音が合いそうな小さい歩幅でやってきたのは、ルカよりは流石に背丈があるもののフブキには到底及ばない、白銀の髪にやや黒髪が混ざって碧眼の少女だった。ゴツんと拳が振り下ろされて星が出ているのは、いかにもヒロインである。作者としてはヒロインにする気などさらさらないが。
「...それにしてもお主、白髪になっておると言うことはケィオスを放ったな?あの物騒な技は封印しろと言うておるのに」
「あれは辞められませんよ!師匠から受け継いだものだし、何より...私の奥底に眠る厨二病患者としての心が、その道を極めろと...」
謎にクネクネしてトリップし始めたレンにもう一度鉄槌を振り下ろしたローゲインは、「。。。まあ、ゆっくりして行ってくれ」と言いかけ...そして二人の後ろを見て、驚愕した。
そしてその後ろにいた人物は、「僕も混ぜてよ?知らない仲じゃないし。...特に、そっちの紛い物は」とフブキを指さして、純白の羽を一振りした。
蒼き月の下で。 天月トワ @Althanarou
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