蒼き月の下で。

天月トワ

プロローグ

『皆さんこんばんはー!解けることのない議会の銀嶺、銀嶺フブキでーす!本日も配信をご覧いただき、ありがとうございまーす!』


明るい声を出して、笑顔を見せているのは白い長髪に猫耳、銀の翼を持った少女。画面の中にいるその少女は、ヴァーチャル配信者グループとして大型の<幻想議会>の、6期生として新しく議員入りをした銀嶺フブキである。




幻想議会は、元々二人の少女が出会ったことによって結成されたヴァーチャル配信グループだ。


かつてこの星にあった『クリフォト』、人間では『ダンジョン』と呼ばれる謎の構造体があった時代。ダンジョン配信を行った大恋マキを名乗る配信者は、蒼い髪のロr...もとい少女に助けられた。配信しているにもかかわらず西川貴子という自らの名前を明かして助けてくれた少女に感謝を伝えて返ってきたのは、「死にたくてやったことだけど、結果的に助けちゃったかな?」という言葉。貴子は彼女に惚れ、いつか彼女のように強い配信者になってお礼することを誓った。しかし、その約2週間後、彼女の近くに隕石が降り始めた。世界中に隕石が降り注いだその天災はしかし、数日で止まった。何故止まったのか、その真実を知る者はあまりいなかったが、貴子は名も名乗らなかった少女が謎の力で止めたのだろうという根拠もないが確信をついた思考をした。その後、ダンジョンは消えダンジョンに関係する武器もほとんどが消え(魔力形成物は消えなかった)、そして人類から魔力の概念が消えたがそれでも貴子はダンジョンでの配信を覚えていた。本来なら、ダンジョンに関係するものもすべて消えているはずだ。しかし、彼女が持っていたダンジョンの写真は...『彼女の写真』は、残り続けた。だからこそ、少女は記憶し続けた。


ダンジョンが消えて数年。普通のOLとして、かつての配信もなくなった『普通』の女性として生きていた貴子は、帰り際ある少女と出会った。




泥を浴びたのか着ている服も髪も茶色になり、身体はやせ絶望したような顔の少女だった。


貴子が声を掛けると、その少女はハッとした表情で彼女を見た。「私が見えるの!?」喜びに満ちたその声に頷くと、満面の笑みを浮かべた少女は貴子に擦りついた。


フブキと名乗ったその少女は、ある人物を探していると言った。青い髪の少女で、蒼月澪と言う名前らしい。貴子はハッとして、自らの懐にしまっていた写真をフブキに見せた。フブキは頷いて、「お礼参りをしたいんだ」と言った。これは彼女が蒼月澪に殺された主神として仕返しをしてやると言う意味のお礼参りなのだが、貴子はきっと何かお礼がしたいんだとそのまま捉えてしまい、同じ人物にお礼をしたいもの同士ということでタッグを組むことにした。既にないダンジョン幻想に身を置いた者同士の、議会。<幻想議会>は、こうして結成された。




2年間かかった。それは、彼女たちが蒼月澪と会うまでにかかった時間。蒼月明を見つけて二人の住む家に招待されたとき、二人の目的は完全に達成された。まず、貴子は澪に感謝を伝えた。姿が一切変わっていなかった澪は、一瞬驚いた後貴子を撫でた。その仕草に貴子は泣きだしてしまい、なだめるのに数分を要した。フブキは、澪にデコピンした。それと同時に、アナウンスが流れて主神の力がフブキに戻った。


そこからは早かった。ヴァーチャル配信者として人気を博している澪に倣ってヴァーチャル配信を始めることにした。機材は、人に見える蒼月の二人同様人ではないと発覚したフブキが、魔力によって創った。元は澪が持っている機材なのだが、元より高性能のものが出来上がったので澪も同様に魔力によって機材を創りなおしていた。配信に必要なPCはというと、地球にあるPCを大幅に超えた能力を持った魔力で構成された謎PCで配信の準備は出来ていた。仮想の姿も、別会社である<Jizz>というヴァーチャル配信グループの3期生も務めているEmiliteという人物に書いてもらった。その時にフブキはある人物と仲良くなったのだが、貴子はまだ知らない。




そして迎えた初配信。自己紹介の後、コメント返信をしていったのだが...すぐに、ガチガチになって何も答えられなくなっていた。そしてその代わりにフブキがコメント返信をはじめ、それが議会最初にして伝説の配信事故『議長無言の初配信』と呼ばれるようになるのは少し後の話。


フブキは個人勢の『銀嶺フブキ』として配信をするとともにフブキが議長と呼ぶようになった貴子...『大恋マキ』のサポートもしていた。そして配信を始めておよそ5ヶ月後。フブキが、少女を連れてきた。青い髪に所々銀髪を持った、子供としか思えない少女。4人ほど切れ者そうな女性を連れていたのでお嬢様なのかと思ったが、それが<Jizz>の元3期生、天音旻の成れの果てである天音ゼロだと言う事を聞き、彼女が議会に入りたいと言った時議会は本格的に始動し始めた。たった二人だけの議会は一気に7人の小さな事務所と化し、天音本人をそのまま動かしている様な姿の2期生『永久ゼロ』が議員入りしたことによって議会人気が発生した。そして5ヶ月後、フブキの独断によってゼロの付き人4人を巻き込んだ3期生の議会入りを賭けた面接が行われ、4人が議員入りを果たした。そのうち一名は天音ゼロとすごいかかわりがある人物だったのだが、それを知るのはゼロとフブキぐらいだったりする。その人物が、『常夜ユキ』と名乗った事もあるだろうか。




そして、一年に一回議会入りのための面接が行われるようになり。謎にフブキから分裂した口の悪い少女が『堕闇ルア』として5期生で議会入りし、フブキ本人も6期生兼すべての元凶という意味の0期生として議会入りを果たした。


ただし、此処までは全て前置きである。留意頂きたい。では本編どうぞ!








『皆さんこんばんはー!解けることのない議会の銀嶺、銀嶺フブキでーす!本日も配信をご覧いただき、ありがとうございまーす!』


何処かの弩級の田舎町。かつては村だったここら一帯だが、近くの市に吸収されていた。盆地にある事で太平洋側、しかも地球温暖化が騒がれる今の世でも10㎝程度の積雪が連日降っていた。今は年末ということで昼間でも平均気温は氷点下に行くかどうかというほど寒く、正直こたつの中か布団の中でぬくぬくしていたいと思うのが人の性である。しかし、そんな中でも吹雪いている中ほんの少しだけ入っているインターネット回線で流している歌枠の配信をイヤホンで聞きながらジョギングする少年の姿があった。アウターを4枚ほど着てすっかり着ぶくれしているが、結局身長に関係はないので140㎝程度の彼の背は雪の中にあった。


髪色は銀髪で、彼の親ともいうべき存在には無い色だった。しかし、彼の生い立ちを考えれば血の繋がった(正しくは遺伝子がつながった)親に白銀の髪の人間がいるのでおかしい点ではない。


彼の名前は蒼月瑠依。蒼月澪と蒼月明、そしてそれを入れた明本人しか知らないが、フブキをもとにして創り出された存在である。




親と言うべき存在達は全て人間ではなく、彼も勿論人間ではない。彼は神としての力を持っており、神としての制約も持つ。それは、『日の光を浴びなければ狂う』と言うもの。本物の神であれば一年に一度、数分光を浴びる程度で良いのだが本物どころか力をはく奪した神とはく奪された神が親では身体も相当弱くなるらしく、一週間に2時間はこうやって外に出ることを義務付けられていた。瑠依は寒い外が非常に嫌いなのだが、明の強制力の前ではそれも無に帰すらしく、こうやって外に出ていた。


とはいっても、結局身体が弱い事には変わらない。1時間半ほど歩きとおして国道4号線に出る少し前、ちょっとした傾斜になっている所で足を滑らせ、交差点に出てしまう。そして、黒いリムジンが目の前に迫り...今は配信しているはずの銀嶺フブキ推しの事を考えて、黒いリムジンに轢き潰された。人ならざる彼の身体からあふれた青い血に塗れたイヤホンが、何かにぶつかるものの音を拾っていた。

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