第65話 佐伯鷹臣 5


 鷹臣たかおみの鋭い視線に駿我するがは微動だにせず、「続けてくれ」とでも言うように僅かに微笑んだ。


「……それを踏まえて考えると、あなたは高校時代に興味を持った凛花りんかさんを十数年の時を経てから殺したことになる。偶然ですか? いえいえそんなことはない。伽藍胴殺人事件を紐解けば、あなたは用意周到に事を成したことが分かる。つまり初めから凛花りんかさんを狙っていたということだ。となれば、その執念は凄まじい。そしてここで繋がってくるのが、あなたが群馬在住時に起きていた多数の行方不明事件です。これらはなんの偶然か、あなたが凛花りんかさんを見に行ってから起きている。まあつまり、あなたは凛花りんかさん殺害の練習をしていたんですよね? と言っても、先程も言いましたが、これは本当に無理やりな論法であり、根拠も何もありません。あくまで僕がだけです。これによって何が言いたいのかと言えば、。整った容姿の相手に執着し、恐ろしいほどの計画性で事を成す。群馬在住時の犯行はそれを物語っている。凛花りんかさん殺害時には宮下みやしたという協力者がいたので、監視カメラの網を上手くすり抜けた。ですが群馬での犯行はそうではない。にも関わらず、あなたは見事に監視カメラを避けている。二件の犯行では少しミスがあったようですが、あなたは徹頭徹尾、凛花りんかさん殺害時もそうです。正直な話、あなたが凛花りんかさんの内臓を送ったりしなければ、凛花りんかさんは行方不明のまま終わっていたはずだ。本当にあなたの犯行は完璧なんですよ。ですがどうでしょう? 実際にあなたは凛花りんかさんの内臓を実家に送り、下野兄弟殺害時も。もちろんそれは下野兄弟に罪を擦り付けるためなのでしょうが、やはりんです。凛花りんかさん殺害の罪を。あなたの言葉を借りれば、。よく考えてみて下さいね? 今まで? いませんよね? ……となると、なんのために罪を擦り付けたんですか? 疑われていたなら話は別ですよ? むしろあなたの行動のせいで事件は表沙汰になり、あなたに辿り着きはしなかったが、執拗な捜査はされた。場合によっては下野兄弟に罪を擦り付けて暗躍している存在がいる──と、捜査方針が変わる可能性すらあった。まあ……結局はあなたの思い通りに事が運んだのですが、それも結果論でしかない。考えれば考えるほどに、群馬での犯行と伽藍胴殺人事件では行動様式が違いすぎるんです。僕が考えるあなたの犯人像であれば、もはやこの群馬と東京での犯行は。それほどあなたの行動様式──思考は変化を遂げた。いったい何があったのですか? があればこれほど変わるのですか? 織笠香おりかさかおりの件もそうです。織笠香おりかさかおりもあなたが殺したんですよね? 自殺に見せかけていましたが、全裸で首を吊る人がいますか? いませんよね? 織笠香おりかさかおりの件も、僕はあなたがやったと思っている。調査結果によれば、織笠香おりかさかおり凛花りんかさんに異常な執着を見せていた。邪魔になったから殺したんですか? でしたらいつも通りにしてしまえばよかったのではないですか? なぜあなた──」


 「やっていない」と、鷹臣たかおみの言葉を遮り、駿我するがが言葉を発する。


「確かに織笠香おりかさかおりは邪魔だった。だが僕は殺していない。僕が織笠香おりかさかおりの死を知ったのは、田村凛花たむらりんかを殺してしばらくしてからだ。いずれ織笠香おりかさかおりも完成品にしようと思っていたんですけどね。気付けば死んでいた。ですが織笠香おりかさかおりは殺されたんですか? 僕が知っている情報では、不審な点は見受けられるものの自殺だったと……」


 「鷹臣たかおみ君」と、駿我するがが話している途中、鷹臣たかおみのイヤホンに冬湖とうこの声が響く。

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