第53話 駿我雅隆 12


 田村凛花たむらりんかの完成品作成の舞台が東京へと移ったことで、雅隆まさたかは準備しなければならないことも増えた。まず、圧倒的に多い監視カメラである。東京は監視カメラの数が群を抜いている。その目を掻い潜ることなど不可能に近いと雅隆まさたかも思っているが、まずは現状把握のために動く。


 その際に利用したのが、以前に駒とした宮下透みやしたとおるだ。同性愛者である東京在住の警察官。実はこの宮下透みやしたとおる、都内の監視カメラなどを管理している部署に所属していたのだ。雅隆まさたかはこの宮下透みやしたとおるを上手く使い、監視カメラの位置を網羅していく。ただ、ここで誤解のないように言っておくが、雅隆まさたか宮下透みやしたとおる。脅してしまえば、それ自体が犯罪である。雅隆まさたかは完成品作成以外で、余計なリスクを負わないように動いている。多数いる愛人も単身者であり、民法上での不法行為も一切していない。


 そういった違法行為は最終手段であって、適法内で動けるものはそうしていた。宮下透みやしたとおるに対してもそうであり、この段階で宮下透みやしたとおる雅隆まさたかの虜になっていたのだ。少し前にも書かせて貰ったが、雅隆まさたかは抜群に口も上手い。宮下透みやしたとおるは既に雅隆まさたかの提供する快楽の沼から這い上がれなくなっていた。


 その上宮下透みやしたとおるは警察官でありながら、薬物を摂取して性行為をするような性質の男。自身のに忠実な、扱いやすい存在。そこで雅隆まさたかは提案したのだ。と。前々から外ですることに興味があり、と。


 もちろんこれは宮下透みやしたとおるに、監視カメラの隙間を縫える場所を教えて貰うための提案なのだが、もしこれでこの話に乗ってこなければ、雅隆まさたかは別の手を考えるだけ。自分にそっくりなまなぶを使ったアリバイ工作も考えているし、そもそも多少のリスクを犯せば田村凛花たむらりんかを人知れず攫う方法などいくらでもある。


 だが予想通りと言えばいいのか、欲に忠実な中身のない馬鹿だとでも言えばいいのか……


 宮下透みやしたとおる調。この段になって雅隆まさたかは恐ろしくなってきた。もちろんにである。周囲の人間がいつも自分の思い通りに動いてくれる。まさに神からのギフトだとでも言わんばかりの展開。


 ああ、神がいるのだとしたら、神も田村凛花たむらりんかの完成品が見たいのだろうな──


 と、雅隆まさたかは自身の強運に酔いしれた。と言っても、約一名だが、雅隆まさたかの計画を阻む人間はいる。そう……


 織笠香おりかさかおりだ。


 ここまで順調過ぎるほど順調に事が運んでいる雅隆まさたかだったが、やはりここでもかおりが邪魔をする。かおり自体は地元である群馬にいるのだが、定期的な田村凛花たむらりんかの監視は続けていた。それもそうだろう。かおり田村凛花たむらりんかに対する執着は常軌を逸している。それこそ雅隆まさたか田村凛花たむらりんかの完成品に抱く執着と同じ程に常軌を逸しているのだ。この段階でかおりは、田村凛花たむらりんかの住むアパートに部屋を借りていた。そこへかおりを住ませ、田村凛花たむらりんかを監視させていたのだ。おそらく盗撮や盗聴もしていることだろう。いや、雅隆まさたかは思う。


 もはや雅隆まさたかかおりは表裏一体と言える程に知らず交わり、田村凛花たむらりんかを中心にしたに囚われていた。かおり田村凛花たむらりんかの墜ちていくそのを求め、雅隆まさたか田村凛花たむらりんかのそのを嫌悪する。


 お互いにに導かれるように、常軌を逸した田村凛花たむらりんかへの執着が絡み合い、果てのない悪意が醸成されてく。人の中に住まい、待ち侘び、纒わる、穢れのようなを生み出したのはかおり雅隆まさたかか──



 ──それから長い時間が流れた。田村凛花たむらりんかが上京してから六年。かおりは自身の目的を達成し、遂にその監視の目が田村凛花たむらりんかから離れた。まるで雅隆まさたかに対して「次はお前の番だ」と、いざなっているかのように。と言っても、かおりのことだ。いつまた田村凛花たむらりんかに対する監視や干渉が始まるとも知れない。だが……


 雅隆まさたかかおりがしばらく動かないと確信していた。いや、かおりと自分は表裏一体なのだ。

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