第52話 駿我雅隆 11


 そんな中、雅隆まさたかまなぶに会うことを決めたきっかけがある。年齢を知ったことで雅隆まさたかの中ではまなぶは駒候補から外れ、このままフェードアウトでいいだろうと考えていたところで……


 まなぶから一通のメッセージが届いたのだ。


 そのメッセージは「ちょっと愚痴ってもいいですか?」という言葉で始まり「俺も兄貴みたいな普通の異性愛者ならよかった。兄貴はすぐに恋人が出来るし……それに聞いて下さいよみやびさん。噂で聞いたんですが、兄貴が地元で有名な人形みたいに可愛い子と付き合うことになったんですって。高校の時なんて見物人が来るほどの美少女だったらしくて……リンちゃんって聞いた事ありませんか? まあ男遊びが激しいとか、それで留年したとかあまりいい噂は聞かない子ですけど……ズルくないですか? 俺なんて好みだなんだと贅沢なんて言えないのに……俺だって出来れば理想の男と付き合いたいですよ。ああ……みやびさんに会ってみたいな」という、雅隆まさたかにとって青天の霹靂たる凄まじい衝撃を伴った言葉。


 雅隆まさたかはこのメッセージによって、おそらくまなぶの兄は田村凛花たむらりんかの交際相手の男だと確信する。それならば途端にまなぶには利用価値が出てくる。この段階でまなぶをどう利用出来るかは分からないが、駒にしておいて損はないと判断した。さすがに会う前から人物特定をしようとすれば、信用を失ってしまう可能性が高かったので、その場での確認はしなかったが……


 そうしてまなぶと会った雅隆まさたかも、更なる信じられない偶然に衝撃を受けることとなる。まなぶに対しては、これから利用価値が出てくる可能性のある駒程度にしか思っていなかったのだが……


 実際に会ってみて知ったまなぶの容姿。そのあまりにも自分に似た造りの顔に、これはとてつもない利用価値があるのかもしれないと震えた。


 だが相手は十四歳。扱いを間違えればそれだけで犯罪行為に成り得る。それに加え、まなぶは犯罪行為をしている訳でもなく、脅す材料もない。そうなれば……


 雅隆まさたかは余計なリスクを避ける為でもあったが、まなぶとは友人関係から始めることにした。その上でまなぶの信頼を勝ち取り、可能であれば惚れさせなければなと考える。だが幸いなことにまなぶは勝手に雅隆まさたかを運命の相手だと思い込み、特に労することなく目的を達成することは出来た。


 と言っても、やはりまなぶはまだ若い。手を出してしまえば面倒な場面が訪れる可能性がある。まなぶの方から肉体関係を迫るような雰囲気を出されたことが何度かあったが、「君はまだ未成熟だ。だから僕は君がきちんと自分というものを獲得出来るまで、君とは友人関係でいるよ」と、とりあえず手を出さないように努めた。


 そうこうしているうちに田村凛花たむらりんかが大学を卒業し、東京へと引っ越すこととなる。雅隆まさたかは群馬県内での犯行計画を企てていたため、計画の大幅修正を余儀なくされた。


 とりあえずは田村凛花たむらりんかの大学卒業から一年後、雅隆まさたかも滞りなく卒業し、東京の出版社に勤めることとなった。と言っても、この出版社への就職は通常ルートではない。。まあつまり、駒作りの際に出会った出版社の社長をたらし込んだのだ。それは雅隆まさたかの美しく整った容姿だけでも簡単に成せることではあるが、雅隆まさたかは抜群に口も上手い。醸す雰囲気と知らず絡め取る言の葉から、逃れられる者などいないのだろう。


 そもそも雅隆まさたかは就職を必要とはしていない。父の莫大な遺産を相続し、杏香きょうかによる未成年後見人の財産管理期間も終わっていた。駒作りの際に、資金源となる何人もの愛人を作ったし、医者である杏香きょうかや、それなりに売れた作家らしい夫の智治ともはるからも資金を引っ張れる。となると、なぜわざわざ出版社へ就職したのか──


 それはどんな形であれ、名刺が欲しかったのだ。無職では社会的に信用されない。例え実務にほとんど携わらないのだとしても、そんなことは相手には分からない。それに出版社の名刺であれば、取材という体で色々と使い勝手がいい。


 もちろん自身で企業するという選択肢もあったが、そこでの社会的信用度を上げるには、それなりに時間を消費させられる。となれば簡単に社会的信用度を得られる方がいい。もちろん雅隆まさたかは社長のという形で入社したのだが、与えられた仮初かりそめの秘書という仕事を完璧にこなした。社長からすれば、雅隆まさたかはただ自分の体を愛撫してくれていればよかっただけなのだが……


 雅隆まさたかをこなしつつ、秘書としての仕事も、口を挟む余地もないほどに完璧にこなした。更に雅隆まさたかは他の社員とも交流を持ち、時には鋭い助言でサポートし、社員達の信頼も獲得していく。もちろん社長と雅隆まさたかの関係を疑う声もあったが、雅隆まさたかはそれらの声を自身の優秀さでねじ伏せる。雅隆まさたかに言い寄ってくる女性社員には決して手を出さず、かといって放置もせずに、尊敬出来る優秀な社員を演じることに努めた。







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※今後の更新についてのご報告


ここまで目を通して頂き、誠にありがとうございます。現在「伽藍の悪魔」はカクヨムコンに参加中なのですが、ようやくここまでで規定の文字数に到達しました。


なんとか応募規定文字数まで到達しようと急いで書き上げましたので、もしかすれば誤字脱字などが目立ってしまったかもしれません。


今後は更新頻度を少し抑えますが、ここまで読んで頂いた方々が満足頂けるような結末に向け、執筆していければなと思います。


まだ結末まで達していないにも関わらず、評価や応援コメントを頂けたことは、執筆する上で大変励みになっております。また、もしお手間でなければ、応援コメントなどにでもここまでの感想や考察など頂けますと、更に励みになります。


長くはなりましたが、読んでくださる皆様のおかげで私は執筆を続けることが出来ています。皆様に心からの感謝を。


鋏池穏美

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