第45話 駿我雅隆 4


 自分は今まさに完成したのだと、雅隆まさたかはこの時に確信した。完成した脳内で、異常な速度で様々な情報ががちがちと組み上がっていく。


 やはりまずは準備だ。当面はこの生活を続け、邪魔な両親を壊していく。最終的には自殺でも殺し合うでもさせて排除すればいい。自分が殺して誰かに罪を擦り付ける方法でもいいが、出来うる限りは自分が疑われない方法を取りたい。駿我家するがけを色々と探られるのも面倒なので、やはりすぐに結論が出るような状況へと持っていきたい。まあそれに関しては上手くやれる自信はある。


 問題はその後だ。両親が死んだ後の自分の居場所。おそらく従姉いとこの父──智治ともはるというのだが──は自分の提案を断ることが出来ないだろうから、養子縁組でも未成年後見人でも利用すればいい。だがそうなると遺産相続のことも考えなければならないし、未成年後見人の場合であれば、家庭裁判所が司法書士や弁護士等の専門家を選任する可能性が高く、行動を監視されることになる。


 まあそれに関してはだけだな、とは思う。結局は成人してしまえば未成年後見人の役目は終わる。理想の人生の為ならば、時間はかかってもかまわない。計画を早める為に、変に遺言書などを偽造してしまえば面倒なことになることも分かっている。


 自分が見たところ、駿我家するがけの財産は莫大だ。上手く相続し、投資なりなんなりすれば仕事をしなくても生きていける程。となれば、やはりそこは手を出さない方がいい。下手に手を出せば怪しまれる。


 ただ幸いなことに、父の両親──雅隆まさたかの祖父母は早くに他界している。母は詳しく調べた訳では無いが、天涯孤独の身。例え法定相続人がいたとしても、連絡がいくことはないはずだ。つまり余計な横槍が入ることはないと言える。


 後は父の妹──智治ともはるから聞き出した名前は杏香きょうかだった──をどうするかだ。智治ともはるから聞き出した杏香きょうかの情報は「医者である」「娘を溺愛している」「娘が性的虐待を受けていることに気付いている節があるが、特に行動を起こさない」「本当は精神科医になりたかったが、向き不向きの問題で諦めた」「実の兄との不倫や、托卵たくらん行為がバレていないと思っている」「昔から雅隆まさたかのことを気にしているが、会おうとしない」「一年程前から、さらに雅隆まさたかのことを気にかけ始めた」「妻はその辺りから少し精神が不安定になっている」「詳しくは教えてくれなかったが、雅隆まさたかを父親から離さなければと呟いているところを何度か見た」と、予想以上に杏香きょうかも狂っているのであろうことが伺える情報。


 他にも色々と探ってみなければとは思うが、この情報だけでも杏香きょうかの状態を様々と想像出来る。例えば「娘を愛している」ということだが、これに関してはではなく、いとおしく思っているのだろうし、つまりそれはということの現れなのだろうという推察。それによって雅隆まさたかに対して興味を持った経緯や、一年程前から情緒不安定な理由も推察出来る。


 狂おしい程に愛している兄。その兄が自分以外に産ませた雅隆まさたか雅隆まさたかはとても可愛い天使のような子で、兄は自分だけでなく、雅隆まさたかにも愛情を注ぎ始めた。狂おしい程の嫉妬。兄からは「兄妹での不倫がバレたら大変だ」と、家に近付くことを禁止されていた。また、杏香きょうか自身も兄が自分以外に愛情を注いでいるところなど見たくもない。兄が他の女とも不倫をしていることは知っているが、それはであってではない。


 そして一年程前から、そんな何よりも愛してやまない兄の様子が変わった。おそらくそれとなく探りを入れたであろう杏香きょうか。どういった経緯で知ったかは分からないし重要ではないが、をしていると知った。兄に自分以外のを満たす相手が出来てしまった。だがどうすればいいか分からない。兄の家には近付けないし、近付いたところで表立って動けば色々とバレてしまうだろうし、かといって……


 といった具合に情緒不安定となっているのが、今の杏香きょうかの状況なのだろうと雅隆まさたかは考えた。情緒不安定となっているならば、おそらく簡単に思い通りに動かせるだろうと思う。


 とまあ、ここまでで様々なことを考えてはみた雅隆まさたかだが、とりあえず動いてみなければと行動を始める。差し当って父と母とはこれまで通りの異常な関係を続け、精神を追い詰めていく。智治ともはるからも杏香きょうかの状態をつぶさに報告させ、それによって杏香きょうかが昔勉強していた精神科医の専門書などを引っ張り出している事実を知る。


 まあつまり、杏香きょうか雅隆まさたかを精神病だということにでもして、病院にでも隔離させ、兄から引き剥がそうとでもしているのだろうと察する。それに関しては精神病判定されない自信はあったので、放っておいたまま観察することにした。


 それから変わらぬ狂った日々を積み重ね、三年の月日が経過。歳も十歳となり、この頃には従姉いとこともある程度会話をするようになっていた。正直従姉いとこも容姿はかなり整っており、いつかコレクションに加えてやろうと雅隆まさたかは考えている。


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