第44話 駿我雅隆 3


 そうとなれば、二人の喜ぶことをすればいいのだと思い至る。幸いにも父の。まずは父からだと行動に移す。気持ち悪く、吐きそうだが……


 これも自分の理想の人生を手に入れるためだと我慢して頑張った。予想外にも父は最初、雅隆まさたかの行動に怒った。怒ったのだが、結局は求めて来るようになる。


 次は母だ。母は最近、父がいない時を見計らって、を家に呼ぶようになっていた。そこで覗き見た、母が喜ぶ行為をしてやった。ここでも母は最初怒ったのだが、結局は求めて来るようになった。だが……


 愛されると思ってした行動だったのだが、愛されるよりも、怖がられていることに気付いた。確かにと、感じる瞬間もあったのだが、それにも増して、自分へ向けられる畏怖の念を強く感じた。最近では「こいつの中には悪魔が住んでいる」「お前の中身は悪魔なんだ」と、責められることも増えた。


 予想に反した両親の反応に戸惑った雅隆まさたかは、計画を変更出来ないかと考え始める。両親の力に頼らずとも、自分一人で生活出来るようになるまでは利用しようと思っていたのだが……


 別に利用するのはこの二人でなくてもいいのではないかと思い始めた。そう思った瞬間、雅隆まさたかの脳内を凄まじい量の情報が駆け巡る。金庫を開けてから一年、両親に愛されることや、理想の人生を手に入れるための知識の吸収に没頭していた。小学校にも通い始めて一年が経過。いい生徒、いい友達を演じている。年相応の話し方も得意だ。


 とにかく理想の人生をスタートさせるまでは、他のことなどどうでもよかったし、考えるのも邪魔だった。学校の先生やクラスメイトなど、話していて色々と察する部分はあったが、考えないようにしていたし、記憶に留めないようにしていた。


 だからこそ思い出した。別の小学校に通っている、学年が二つ上の従姉いとこの存在を。確かあれ従姉は金庫を開けてすぐの頃、唐突に家を訪れたのだ。父親と一緒に家を訪れ、何か大切な話をしているようだった。正直それまで従姉いとこの存在など知らなかった。とりあえず興味はないが、名前を聞くと「自分の名前、嫌いだから言いたくない」と、言われてしまう。一緒に来た父親と、陰でこそこそをしていたが、興味がなかったので気にもしていなかった。


 父に従姉いとこのことを聞いてみれば「お前には関係ない!」と激昂し、母は何かを察したように、従姉いとこの話を一切してくれなかった。むしろその辺りから母の精神は一層不安定になっていった気がする。それから従姉いとこは定期的に訪れるようになって……


 無駄だと判断し、考えないようにしていた記憶がどんどんと繋がっていく。


 今まで知らされていなかった従姉いとこの存在。


 従姉いとこの話題に激昂する父。


 何かを察した母。


 自分の名前が嫌いだという従姉いとこ


 陰でこそこそとをしている従姉いとことその父。


 これはもしかすれば、想像以上に自分の両親、更にはと思った。


 だがまだ想像の域を出ない。確かめなければ───と、次に従姉いとことその父が訪れた際、じっくりと観察した。そして目撃したのだ。


 


 従姉いとこは必死に自分の父を庇っていたが、父の方はそうはならなかった。「誰にも言わないでくれ」と、懇願してきたのだ。それに対してこれは利用出来そうだと考えた雅隆まさたかは、「定期的に娘を連れて家に来て下さい。でなければ全てバラします」と脅した。更に「今の状況も全て話して下さい」と、現在の状況も把握。


 そこで父の不倫相手がだと知った。つまり従姉いとこは、実の兄妹の間に誕生した子供ということだ。そしてその従姉いとこに対して性的虐待をする、まったく血の繋がっていない、もはや他人の父。更にこれは確定ではないが、父の妹は以前にも父との間に子供をもうけ、殺しているのではないかという疑惑。


 登場人物ほぼ全てのがぐずぐず過ぎて、雅隆まさたかは笑った。こんなにも人は汚いのか、これほどにも狂っているのかと、笑うしかなくなってしまう。


 父や母は自分に対して「こいつの中には悪魔が住んでいる」「お前の中身は悪魔なんだ」と言っていたが、それはお前らじゃないのかと思う。汚くぐずぐずで、ぬたぬたと穢れた悪魔はお前らの方だと。


 その上こんな調子ならば、他の人間もみんな一緒なのだろうと思う。中身がぐずぐずの悪魔なんだと。やはりそれならば


 自分は容姿の整った完成品だけに囲まれて生きていきたい。自分に、と思う。ぬたぬたでぐずぐずののような中身を引き摺り出して貰えて、感謝されるだろうなとも思う。

 

 つまり、自分は正しいことをしているのだろうと思う。そう、と思う。


 そうなれば、正義執行のキャラクターが必要だろうと、年相応の語呂遊び、中not悪魔──ナカノタクマを作り出した。作り出してみれば、これがまたしっくりくる。まるで自分の中にぽっかりと空いていた穴に、ぴたりと当て嵌る感覚。常人には理解することなど到底出来ない、自分だけの整った論理。

 

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