第36話 駿我杏香の手記 4/6
「
彼の言葉が私の中に、みちみちと音を立てて侵入して来るような恐怖が襲う。狂っている。何が狂っているのかも分からないほどに、狂い過ぎている。おそらく彼がその映像データを見たのは、幼い時なのだろう。だが果たして幼い時分にそんなものを見て、
私は涙と嗚咽に
「ああ。それなら簡単なことですよ。父は幼い子供に乱暴するような映像データも持っていましたからね。痛くて気持ち悪くて正直嫌でしたけど、そうすれば父は喜ぶでしょう? 子供は親を喜ばせるものです。幸いにも両親はどちらも整った容姿をしていましたからね。整った容姿の両親を喜ばせるのは、僕も楽しかった部分はあります。母は自分で自分を慰めている時があったので、最初は手伝ってあげたんです。ですが驚きましたよ? 初めは二人とも怒ったんです。訳が分からなかったですね。でも……」
「結局は僕を求めてきましたけどね」と、彼が嬉しそうに笑った。
いよいよもって彼は破綻している。だが話している限りであれば、彼は相当知能が高いように思う。その彼がなぜ、この話を私にしたのか。なぜこのタイミングで話したのか。私にこの話をした場合、どう思われるか、またどう対応されるかを考えなかったのだろうか。彼は「だけどそろそろ話してもいいのだろうと思い、打ち明けました」と言っていたが、
私がまとまらない思考で考えていると、彼は笑いながら「なぜ今なのかと考えています?」と、私の涙を舐め上げた。舐め上げた後で「中身がなければ泣くこともないですし、笑顔でいられるんですけどね?」と微笑む。
私はあまりの恐怖で失禁した。だが彼はそれすらも「ほらぁ、中身があるせいでせっかくの外身が汚れてしまう」と、笑いながら言葉を発する。もはや私は彼が言葉を発しているのかどうかも定かでは無い。歯の根が合わず、がちがちと音を立てる。
そんな私に彼は優しく「なぜ今だったのか気になりますよね?」と囁く。
私は震えながら首を縦に振ることしか出来なくなっていた。
「整ったからですよ。全ての順序が整った。
私はもはや彼の言う通りに返事をするだけの人形となっていた。私の口からは力なく「はい」という言葉が漏れ出る。
「
その問いに対し、私は「あなたをこれ以上追い詰めたくなかったから」と答えたのだが、彼は「違いますよね?」と言って、そのまま話を続けた。
「
「僕の父とあなたの不貞行為だ」と、彼ははっきり言った。私はその言葉に絶句した。私は確かに彼の父──私の兄とそういった仲だった。警察がすぐに捜査を終わらせたことには安堵した。なぜならおそらく私の兄は、私との行為の映像を保管していたからだ。そして先程彼は、父の映像データを見たと言っていた。私の秘密がバレたのは、つまりそういうことなのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます