第28話 香 4


 思えばかおり凛花りんかに出会ってから、頭の中は凛花りんかのことで溢れかえっていた。支配したつもりで支配されている。凛花りんかで溢れた自分の中から、ゆっくりと凛花りんかが漏れ出ていく。満たさなければ。今度はもっともっと熟成させた凛花りんかで自分の中を満たさなければ。このままでは自分はになってしまう。


 乾く。乾いていく。凛花りんかがSNSで男漁りを始め、堕ちる所まで落ちていく。だが乾きは満たされない。男を使って凛花りんかを追い込んでいくが、やはりどんどんと自分の中から凛花りんかが漏れ出ていく。早く、早く凛花りんかで自分の中を満たさなければおかしくなってしまう。


 「だがどうやって?」「ただ同じように時間をかけてもだめだ」「これ以上凛花りんかを追い込んだところで、着地点はおそらく自殺」「そんなのは面白くない」「何か、もっと私が気持ちよくなれる方法を──」と、考えを巡らせ、ある計画を思いつく。


 そう。MASAマサを使うのだ。MASAマサを使って凛花りんかを救い出し、長い長い幸せな日常で凛花りんかを熟成させて──


 この計画を思い付いた瞬間、かおりは絶頂した。部屋に一人。誰にもれられていないし、自分でもさわっていない。それなのにかおりは震えた。「こんなの本当に死んじゃうかもしれない」と、一人呟いた。


 だがそれだけではまだ足りない。もっともっと自分が全てを支配しなければ──


 そうしてかおりは動き出した。凛花りんかウェブサイト【紳士淑女の集い】を利用するように、男を使って根回ししたのだ。紳士淑女の集いに登録させ、顔写真を登録させることにも成功した。顔写真の登録は必須ではなかったが、出来ればクリアして欲しい条件だったので、成功させた男にはしばらく自分の体を好きに使わせてやった。


 これによってかおりが何をしたかったのかと言えば──


 MASAマサだ。MASAマサも紳士淑女の集いを利用している。だが基本的にMASAマサは幼い見た目の女にしか反応しない。かおりも当時高校一年生だったことでMASAマサの目に留まったのだ。凛花りんかは誕生日を迎えていたので、現在二十二歳。だが見た目は高校生……いや、場合によっては中学生。その上、誰もが目を奪われる程に容姿が整っている。もはや人形。そう、人形なのだ。老けることなく、美しい見た目のまま歳を重ねていく人形。周囲の人間を魅了し、遊ばれるだけ遊ばれる人形。


 そんな凛花りんかMASAマサが見たとしたら、放っておくわけがない。MASAマサが今利用しているのは紳士淑女の集いの凛花りんかが登録したのはだ。


 MASAマサの居住地は東京なのだが、かおりと出会った時点では群馬県に住んでいた。そこから数年間は群馬県にいたのだが、転職で東京に移り住んだのだ。東京に移り住んでからもかおりMASAマサの家に泊まりに行く形で関係を続けていた。それもあって今現在MASAマサが利用しているのは北関東掲示板ではなく、南関東掲示板。


 そしてこの掲示板の違いこそが、かおりが計画を思い付いた一つの要素でもある。


 もし仮に凛花りんかMASAマサが同じ地域の掲示板を利用していたとしたら、凛花りんかが登録して間もなく、MASAマサが気付いてしまう可能性がある。そうなるとMASAマサは勝手に凛花りんかにメッセージを送ってしまうだろう。


 それではダメなのだ。おそらくそうなればMASAマサ凛花りんかになれない。凛花りんかの上を通り過ぎ、欲望を吐き出していく大勢の男と同じになってしまう。熟成させなければならない。時間をかけて熟成させ、熟れてじゅくじゅくになった凛花りんかで自分の中を満たさなければ──


 あくまで。この計画をMASAマサに話し、協力して貰ってはダメなのだ。MASAマサすらも知らず巻き込み、支配する。MASAマサと見せかけ、裏から支配する。考えただけでぞくぞくする。凛花りんかを支配し、MASAマサを支配し……


 死ぬほどの快楽で自分の中を満たす。

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