下野正樹/全6話

第19話 下野正樹 1


 ── 二〇〇二年、十月


「ここまで長かったなぁ」


 そう言って電話を切った男に「お疲れ様MASAマサさん」と、裸の女性が抱きつく。二人はそのままベッドの上で絡み合い、一時の快楽を貪った。


MASAマサさんって正樹まさきって名前だったんだね」

「そういえばかおりちゃんとは長い付き合いだけど、お互いに名前教えてなかったね。かおりってハンドルネームだろ?」

「どうかなぁ? ハンドルネームと見せかけて本名かもよぉ」

「まあ名前なんてどうでもいいけどな。俺は

「本当にMASAマサさんって変態だよね。サイコパスってやつ?」

「そりゃそうだろ。かおりちゃんとは変態が集まるサイトで出会ったんだからさ。だからこそかおりちゃんも……」


 そう言ってMASAマサかおりの髪を鷲掴みにし、乱暴に唇を重ねた。この二人だが、特殊な性癖を持つ人物が集まる【紳士淑女の集い】というウェブサイトで知り合い、お互いの欲望をぶつけ合う仲になっていた。出会った当時かおりは高校一年生だったのだが、紳士淑女の集いには形だけの年齢確認画面があるだけ。高校生だったかおりにも、簡単に利用することが出来た。


「でもMASAマサさんそろそろ私じゃ興奮しなくなってきた?」

「いや、確かに一番好きなのはだけど、可愛い子も綺麗な子も好きだよ。外身が良けりゃ中身なんて腐ってようが気にしないし。たまたまリンちゃんが好みにドンピシャだっただけ」

「愛しのリンちゃんゲット出来てよかったね?」

「それもこれもかおりちゃんがリンちゃんのこと教えてくれたおかげだよ。俺の信じてるリンちゃんに思わず笑いそうだったけど」

「私がリンちゃんの情報教えたからって、よくあんなにすらすらと嘘の話を言えたね?」

「あの作り話は半分本当だからな。SNSでポエム垂れ流してる女に優しくて……呼び出して薬盛って撮影しながらのは俺だから。当時本当に自殺されそうでヤバかったんだよね。まあ俺は運良く捕まらなかったけどな」

「うわぁ……本当のサイコ野郎じゃん。まあでも、そんなサイコ野郎のMASAマサさんだから私のって要望にも応えてくれるんだけどねぇ。加虐嗜好でロリコンとか最高の変態……」


 そう言いながらかおりMASAマサの両手を自分の首に引っ張り、ゆっくりと締めさせる。MASAマサも満足げな表情でかおりの首を締めあげ……


「か、かはっ……げほっ……げほ……本当にMASAマサさんは最高の変態だね」

「いやいや、かおりちゃんには負けるよ。それより結局かおりちゃんってリンちゃんのなんなの? いつもその話題はぐらかすしさぁ」

「普通に友達だよぉ」

「いつからの友達なんだ?」

「いつからだろうねぇ? 高校かな? 大学かな? それともぉ……」


 「そもそも友達なんかじゃないかもよ?」と、かおりが怪しく笑う。


「本当にかおりちゃんは怖い女だよ。中学の担任とリンちゃんを繋げたのもかおりちゃんだし……」

「他にも色々とやってるかもよ?」

「なんでそんなにリンちゃんにこだわるんだ? まあ俺はそのおかげで最高にどストライクなリンちゃんゲット出来たわけだけどさぁ」

「なんでだろうねぇ? 不思議だねぇ? 怖いねぇ?」

「またそうやってはぐらかす。まあ……結局俺らは頭がおかしい者同士ってことでいいか」

「そうそう。まあでも一つだけ言えるとしたら……」


 「私って自分が場を支配してないと気が済まないの」と、かおりが真顔で言い放つ。


「まあとりあえずMASAマサさんは普通に凛花りんかを幸せにしてあげて?」

「うわぁ……何となく読めてきた。その後でぶち壊すつもりだろ?」

「そんな訳ないじゃん。ちょっともう凛花りんかのこと考えるの面倒になっちゃって。MASAマサさんが凛花りんかのこと東京に連れて行って私の視界から消えるならそれでいいかなぁ。あ! でも私とは定期的に会ってね? MASAマサさん、私の中で三本の指に入るくらい体の相性いいから」

「まあ俺もかおりの体は手放したくないな」

「ふふ。それじゃあこれからもよろしくね?  正樹まさきさん?」


 その後、凛花りんか正樹まさき優香ゆうかを含めた周囲の友人に支えられ、留年した翌年に何とか大学を卒業した。卒業後、凛花りんか正樹まさきを頼って上京。自分の中身だけを見てくれる正樹まさきを心から愛し、偽りの幸せな日々を送ることとなる。

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