第11話 結束倫正 5


「はいはい。そうですそうです。地道に聞き回ってなんてないですぅ」

「……」


 軽薄な調子の秀治しゅうじに、倫正みちまさが無言という返事を返す。


「お、怒るなよ倫正みちまさ。地道に聞いて回るつもりではいたんだぞ?」

「それで?」

「はいすみません。俺の同期に顔が広いやつがいるんだよ。そいつに『駿我雅隆するがまさたかとナカノタクマって知らない?』って聞いたら……」

「聞いたら?」

「そいつ『知らないけどちょっと聞いてみる』って言って……」

「言って?」

「そいつが連絡取れる知り合い全員に『駿我雅隆するがまさたかとナカノタクマという人物に心当たりがある方は、折り返し連絡下さい』って一斉にメッセージを送ってしまって……」

「それで反応を示したのが宮下透みやしたとおるというわけか」

「そういうことだ。メッセージを送ってすぐに宮下みやしたから電話があったんだ。何か焦っているような感じで『わ、私は知らないけれどその人が何かしたんですか?』『な、何か事件の捜査ですか?』ってな。怪しいだろ?」

「いや。怪しいどころか確定だな、これは」

「何を一人で納得してるんだよ。そもそもお前はこの事件をなんのために調べているんだ?」

「……友人を救いたいんだ。私と鷹臣たかおみの友人である、奥戸雪人おくどゆきひとを救いたい」

奥戸おくど君ってのは、前に話してた作家の男か?」

「ああ。雪人ゆきひとには駿我雅隆するがまさたかという担当編集が付いているんだが……」

「お、おいおい。まさか……」


 「その駿我雅隆するがまさたかが事件の真犯人だとでも言うつもりか?」と、秀治しゅうじが驚きの声を上げる。


「話が早くて助かるな。お前が言う通り、鷹臣たかおみ駿我雅隆するがまさたかが伽藍胴殺人事件の真犯人だと確信している」


 衝撃的な倫正みちまさの言葉に、秀治しゅうじがしばらく黙り込んでしまう。しばしの沈黙の後で先に言葉を発したのは、秀治しゅうじだった。


「言いたいことは色々とあるが……なんで佐伯さえき君は駿我するがが犯人だと断定しているんだ?」


 ここで再び沈黙が訪れる。どうやら倫正みちまさがなんと説明すればいいのか考えているようで、秀治しゅうじの数度にわたる「もしもーし」「おーい聞いてるかー」の声かけの後に、意を決したように言葉を発した。


「……と言っていた」

「は? 見えたって何がだ?」

「初めて駿我するがと対面した時に、背後に禍々しいが見えた……らしい」


 それを聞いた秀治しゅうじが「おいおいおい……」と絶句し、次いで「本気か?」と倫正みちまさに問いかける。


「本当にそんな理由で駿我するがを疑っているのか?」

「だが実際に警察内部で駿我するがの名を聞いて反応した宮下みやしたという男はいただろう?鷹臣たかおみが言っていたんだ。、とな」

「ダメだ倫正みちまさ。それだけじゃ俺はこれ以上動けない。そんなの偶然宮下透みやしたとおる駿我雅隆するがまさたかやナカノタクマの名前を知っていたというだけで片付けられてしまう。それに警察内部に協力者がいるかもしれないことは前から言われている。この事件は監視カメラを上手く避けすぎているし、映っていたとしても顔がはっきり分からないものばかりだからな。だが捜査過程で犯人と警察内部の人間が通じていた証拠は何一つ……」


 そこまで言って秀治しゅうじの言葉が止まり、代わりに倫正みちまさが言葉を発した。


「それはそうに決まっているだろう? 警察が調べていたのは指名手配中の下野正樹しものまさき下野学しものまなぶと繋がっていた警察内部の人間だ。そもそもが駿我雅隆するがまさたかやナカノタクマは捜査線上で名前が上がっていない」


 「い、いや……だけど……」と、秀治しゅうじが困惑する。倫正みちまさが言っていることも分かるが、だからといって駿我雅隆するがまさたかが真犯人だと断定するには早計に過ぎる。秀治しゅうじが考えを巡らせて沈黙していると、「今お前の携帯電話に写真を送ったから見てみろ」と倫正みちまさに促された。


「写真? なんのだ?」

「いいから見るんだ。おそらくお前も見覚えがあるはずだ」


 倫正みちまさにそう言われ、秀治しゅうじが携帯電話のメールに添付された写真を見る。そこには少し長めの茶髪に切れ長の目をした、整った容姿の男性が写っていた。

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