第10話 結束倫正 4


「……その話は本当なの……か?」


 倫正みちまさ秀治しゅうじに語った内容は信じられないものだった。


 倫正みちまさが休暇を利用して訪れた青森県内の奥地で、過去惨殺された女性の怨霊のようなに取り憑かれたこと。取り憑かれている間の記憶は曖昧で、気付けば同僚の女性を何度も付け回し、家を覗き見ていたこと。その行動が問題となって左遷され、尚且つ左遷された先が、怨霊に取り憑かれた地域を管轄する駐在所だったこと。左遷先で怨霊に取り殺されそうだったところを、鷹臣たかおみに救われたこと。


「信じなくてもいいと言っただろ? 私だって今もよく分かってい──」


 倫正みちまさが言い終える前に、「信じるよ」という言葉が電話口から聞こえてきた。


「……信じてくれるのか?」

「ああ。昔からお前は絶対に嘘はかなかっただろ?」


 その言葉を聞いた倫正みちまさの目が潤む。誰に言っても信じて貰えるはずがないと思っていたことを、秀治しゅうじはあっさりと信じてくれた。気付けば潤んだ目からは涙が零れ、「ありがとう」と何度も呟いていた。


「泣き過ぎだってユイリン」

「この場面で茶化すのかよお前は……」

「それで? その女性の怨霊のようなから助けてくれたのが佐伯鷹臣さえきたかおみってわけか。今回の調査もその佐伯さえき君がお前に頼んだんだよな?」

「ああ。まさか鷹臣たかおみが伽藍胴殺人事件の被害者と関係を持っていたとは知らなかったがな」

「被害者の田村凛花たむらりんかはかなりの数の男と性的関係を持っていた。だけどその中でも佐伯さえき君に対しては特別な感情を抱いていたようだ。その辺のことは佐伯さえき君から聞いたのか?」

「ああ。田村凛花たむらりんかとはふらっと立ち寄ったバーで出会ったらしい」

「それでその日のうちに田村凛花たむらりんかの家に行って性的関係を持ったって?」

鷹臣たかおみ田村凛花たむらりんかの背後によくないものが見えたと言っていた」

「は? 見えた? 何がだ?」

「分からないと言っていた。だが放っておいたらが起きると思い、田村凛花たむらりんかと親しくしていたようだ。すぐに性的関係を持ったのはまあ……鷹臣たかおみは少し女癖が悪いようで……」


 何故だか倫正みちまさの歯切れが悪くなり「ま、まあそれよりお前に頼んでいた調査結果だ」と、強引に話を戻した。実は倫正みちまさ鷹臣たかおみのことは信頼しているし、なんでも話せる友人だと思っているのだが、女癖の悪さについては何度か説教をしている。その度に鷹臣たかおみは柔らかく笑って誤魔化しているのだが……


 このまま鷹臣たかおみの女癖の悪さについて秀治しゅうじと話していたら、説教くさくなりそうで話題を戻したようだ。


「俺も佐伯さえき君に会ってみたいなぁ。出来れば女性を落とす技をご教授頂ければ……」

「いいから調査結果だ。あんまりふざけていると怒るぞ?」

「すまんすまん。ちょっと悪ふざけしすぎたな。俺が調査した結果によれば……」


 「伽藍胴殺人事件の捜査線上に駿我雅隆するがまさたかやナカノタクマという人物が浮上したことは一度もない」と、秀治しゅうじ倫正みちまさの反応を伺うように沈黙する。それに対して倫正みちまさが「続きも頼む」と言葉の先を促す。


「はぁ……ちょっとは褒めてくれよな。とりあえず駿我雅隆するがまさたかやナカノタクマは捜査線上には名前が上がらなかったが、この名前に反応を示した奴はいた」

鷹臣たかおみが言った通りだな。それで? その反応を示したやつは誰なんだ?」

「生活安全部の宮下透みやしたとおるという三十二歳の男だ。都内の監視カメラなどを管理している」

「監視カメラだと!?」

「あ、ああ。すごい勢いだな……」

「す、すまない。鷹臣たかおみの言った通りになって驚いてしまった。それで……その宮下みやしたという男はどんな反応を示したんだ?」

「言っておくが大変だったんだぞ? 地道に駿我雅隆するがまさたかとナカノタクマという人物に心当たりはないかと尋ね回──」


 「それにしては結果が出るのが早くはないか?」と、秀治しゅうじが言い終える前に倫正みちまさが言葉を被せる。


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