結束倫正/全6話

第7話 結束倫正 1


 【伽藍胴がらんどう殺人事件】の概要


 事件発生から四年。あまりにも猟奇的な事件だったことに加え、被害者である田村凛花たむらりんかの年齢を感じさせない可憐な少女のような見た目。週刊誌によって晒されてしまった田村凛花たむらりんかの奔放な性生活。警察が流出させてしまった日記の内容や薬物使用疑惑なども相俟あいまって、覚えているという方も多いだろう。警察の情報流出という失態や、容疑者の二人が逃亡中ということもあり、定期的に話題にのぼる事件である。


 伽藍胴殺人事件という名称は週刊誌がセンセーショナルに報じた通称であり、正しくは【板橋区○○町二丁目女性殺人事件】である。当時三十二歳の田村凛花たむらりんかが惨たらしく殺された事件となるが、犯人は田村凛花たむらりんかの元交際相手である下野正樹しものまさき(当時三十五歳)。共犯者として下野正樹しものまさきの弟である下野学しものまなぶ(当時二十三歳)も指名手配中である。


 伽藍胴殺人事件の大まかな流れに関しては以下に纏めた。


 始まりは二〇一二年の七月、田村凛花たむらりんかの実家にが届いたことに端を発する。この届いた荷物なのだが──


 箱詰めされた田村凛花たむらりんかだったのだ。


 中身とは文字通りの中身である。心臓や肺、胃や大腸、小腸。田村凛花たむらりんかを構成するが届いたのだ。今現在、田村凛花たむらりんかである身体は見つかっていない。警察はあまりにも猟奇的な犯行から、当初という情報を伏せていた。だがどこかから情報が漏れ、中身を抜かれてにされた死体という意味を込め、【伽藍殺人事件】として週刊誌が報道。


 事件当時、田村凛花たむらりんかは二年前に別れた元交際相手である下野正樹しものまさきからストーカー被害を受けていた。警察にも何度も相談しており、これを以て警察は下野正樹しものまさきを容疑者として捜査。


 強引な家宅捜索なども行ったのだが証拠が出ず、田村凛花たむらりんか殺害から一年の捜査の末、下野正樹しものまさきを容疑者から外した。


 その他にも事件直前、田村凛花たむらりんかに「あなたとの子供なの!」と掴みかかったがいるという情報もあるが、真偽の程は定かではない。※これに関しては後に「田村凛花たむらりんかに執着していた大学時代の友人ではないか」と言われているが、その友人自体が田村凛花たむらりんか殺害可能期間前に死亡している。


 更に事件の半年前、田村凛花たむらりんか下野正樹しものまさきの弟である下野学しものまなぶが接触していたという目撃情報もある。※この目撃情報は匿名で捜査本部に届いた情報であり、信頼のおける情報ではない。情報提供者の身元も分かっていない。


 その情報によれば、田村凛花たむらりんか下野学しものまなぶは路上で抱き合い、長い時間唇を重ねていたとなっている。それを踏まえて下野学しものまなぶの捜査も行ったのだが、結果はシロ──ではなく、という結果に終わる。


 なぜなら下野学しものまなぶは事件から二年前、二十一歳となったばかりの頃に家出をし、そのまま失踪しているのだ。捜索願も出されているが、未だ見つかってはいない。


 この事件、田村凛花たむらりんかが見つかっていないことも踏まえ、捜査は難航した。だが捜査を難航させた最大の要因は他にある。それは──


 田村凛花たむらりんか下野正樹しものまさきと別れてからの二年間で、ことだ。その上、そのほとんどが田村凛花たむらりんかの自宅で行為に及んでいた。それもあって田村凛花たむらりんかの自宅には数え切れない程の男性の痕跡があったのだ。田村凛花たむらりんかは基本的には一夜限りでの関係を楽しんでいたようである。※部屋に残った日記にも様々な男性との関係が事細かく書かれている。田村凛花たむらりんかの自宅は古いアパートであり、監視カメラなどはなかった。


 日記によれば、田村凛花たむらりんかは情緒が不安定となっていたようである。「みんな私の外見しか見てくれない」「もう疲れた」「SEXしている時は何も考えないで済むから楽」「死んじゃいたいなぁ」と、日記には書かれていた。更に日記には全てではないが、関係を持った男性の名前や感想なども記されている。


 その中でも複数回関係を持ち、田村凛花たむらりんかが強く依存していたであろう人物が二人いた。一人は佐伯鷹臣さえきたかおみという当時二十一歳の大学に通う男性だ。この男性に関して日記には、「今日バーで出会った鷹臣たかおみ君を家に連れてきた」「黒髪の短髪で切れ長の目がすごく素敵」「弱みを見せたらすごく優しくしてくれた」「鷹臣たかおみ君は私の中身を見てくれる」「大好き」「鷹臣たかおみ君と付き合えたら幸せだろうなぁ」「でも学生の鷹臣たかおみ君からしたら、三十越えた私なんておばさんだよね」と書かれている。この佐伯鷹臣さえきたかおみという男性にも警察は事情聴取しているが、結果はシロ。田村凛花たむらりんかが殺害されたであろう期間中、父親の実家である東北地方に数ヶ月滞在していたということで、裏も取れている。

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