7月19日 6

 ココロが持って来たのは白い四つの湯飲み。

「緑茶?」

 小声。

「うん」

 小声っぽい。

 夫と呼ばれて動転しかけたヤマトは天井を仰いで一服。隣に妻が座ったところで、ようやく話が始まった。

「ん……それでは改めて。私が所長の中津国ナカツクニココロ。こちらは助手で夫の中津国ナカツクニヤマトです。よろしく」

 いつ用意したのか、名詞など差し出して挨拶。

(仕事の話に入るだろうから、「僕は葦原じゃないんだね」なんて野暮な突っ込みはナシだ)

 胸の辺りまで頭を下げたココロに、来客二人が姿勢を正す。

「えぇと、黒銀クロガネタケルです。北駅の近くのコンビニでアルバイトをしてます」

真堂シンドウハルカと申します」

 黒銀クロガネ――タケルと呼ぶことにしよう――に続いて女が名乗った。もちろんヤマトには、彼らの名前の中身などわからない。読み方を知っただけだ。

「そのお名前、もしや真堂御本家の?」

「ええ」

「次期公爵閣下にご訪問いただけるとは、光栄の至りにございます」

 背筋を伸ばしたココロが、頭を下げ終えた二人に閉じかけのまぶたを向ける。

「こうしゃく? 貴族ってこと?」

 こぼしてしまってから、邪魔をしたかと少し後悔。

「そうだよ、ここには爵位を持つ方々がいるの……申し訳ありません。お気づきかと存じますが、彼はまだこちらに来て日が浅いもので」

(ココロは納得具合を見るに、貴族ってのは鼻が利くのかな)

「お構いなく。そうした方にお会いできて、私も彼も嬉しく思っておりますわ」

 さっそく本題に移らせていただきます、と女――ハルカが続ける。ココロがうなずき、タケルがパーカーのポケットから赤い携帯端末を取り出した。

「この二人を探してるんです。手伝ってほしいと思って」

 差し出された長方形のディスプレイの中身は、やさしげな少年とおとなしげな少女のツーショット。

(おしゃれしてる。デートの途中かな)

 二人は肩を寄せ合ってほほ笑んでいる。

「詳しいお話をお伺いさせていただきます」

 ん、とココロの喉が小さく鳴る。四つの湯飲みの中で薄い緑が揺れた。

「実は――」

 ハルカと頷き合ってからタケルが語り出す。このとき、階下でゴキブリ退治が続いていたというのはまた別の話。

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Charisma 広茉杏理 @capybara7

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