LUCA~ルカ~

坂家まさたか

ENCOUNTER~出会い~

あの時、君に出会い、初めて声を掛けたとき、君は驚いていた。

僕は嬉しかった。その表情の意味はきっと初めましてではないと思って。


1


人は言う。かつてこの魔法の世界には昔、天使と悪魔が存在したと。

天使と人間、悪魔と人間は共存できても、天使と悪魔は共存できない。

やがて天使と悪魔は争い、お互い人類に魔法を与え、散っていった。

実にありきたりな昔話だ。

僕はこのような戯言に興味はない。それよりも僕にはやらなくてはいけない事で頭を回さなくてはね。


僕は唐突にパンを食べたくなった。読書の途中ではあるものの、散歩がてらに買いに行こう。

「お昼ご飯はバタールに卵とベーコン、レタスを挟んだたまごサンドを作らうと思うけど、君もいるかい?ジェシー。」

「うん、私も食べたい。」

僕の仕事のお手伝いさんは素直で良い子だ。

有料のワープホールを使い、田舎から都会へ移動。

趣味が悪いそびえたつ時計塔に向かい、必要な材料を買い込む。用件はそれだけ。それ以外は面倒だ。

街は大いににぎわっている。道化の魔法使いが子どもたちを喜ばしている。結構な事で何より。

この何気ない日常が本当に永遠に続けばいいと、思っていたりする。

でも、この光景はあくまで表の世界。裏の世界はこうもいかないのさ。

僕が歩く反対方向から慌ただしい人影が迫ってくる。

「待ちやがれっ。」

「誰か、その女を捕まえてくれっ。」

この間も物騒なものを見たばかりなのに。どうやら悪事は僕に付きまとうようだ。

「そこの兄ちゃん、捕まえてくれっ。」

おいおい、冗談だろ。

追いかけられている女、17歳ぐらいかな。髪はぼさついていて、ボロボロの服を着ている。盗み取ったであろういくつかの果物は自分用か他人用。

いかにも金銭と食料不足で犯した罪。

シカトしよう。言っただろ、面倒事はごめんだ。

「ありがとっ。」

感謝を伝える体力を使うなら、走る体力に使えばいい。なんちゃって。

「なにシカトしてんだっ。」

「ちくしょー、待てーっ。」

僕には僕の予定がある。たまごサンドを食べる予定がね。



ローグがたまごサンドが食べたいなんて。ちょっとかわいいって思っちゃった。

ローグの机はいつも本だらけ。棚もいくつかあって本だらけ。この本だらけの仕事部屋を私はいつも掃除をしている。本当にこの本を全部読んでいるのかな?掃除しながらつい思っちゃう。

部屋の掃除はおしまい。次は外回りの掃除をしょうかな。

あぁ、でも、ちょっとだけ休憩しよう。

ローグがたくさんの本を読んでいる所を見習って、私も魔法の勉強しよう。

そもそもローグってなんの仕事をしているのかな?掃除の仕事させてもらっているけど、ローグのこと、全然知らないな。

ここで、黒くて赤い線の模様がいくつか入った鳥から一通の手紙が届いた。

【広大で、木々が茂る湖。数多あまたの魔法を感知した。 鷹の羽の魔法団 補佐官ロドリー】

ロドリー先生からの手紙だ。

先生は手紙を滅多に送ることはない。だから先生からの手紙はよほどの出来事だと思う。

【急な用事ができちゃった。出かけてきます。 ジェシーより】

ローグに置き手紙を残し、必要な勉強道具を持ち、私は思い当たる名前のない湖へ向かう。

新しい魔法の出会いに胸が高鳴っている。


3


面倒事は避け、無事に自宅に着いた。

おや、ジェシーからの置手紙だ。そうか。一緒にたまごサンドを食べれないのか。

ジェシーが僕と同じ時間を過ごしていること、これはきっと何かの前兆か。この事に関しては今のところ解析中だ。まだお話することじゃない。

せっかく二人分の食材があるんだ。ジェシーの分も作ろう。

お気に入りの蓄音機ちくおんきを起動し、クラシック音楽を流す。音楽が僕の脳を落ち着かせ、料理に夢中にさせてくれる。

バタールをパンナイフで二つに分け、切れ目を入れる。お湯を沸かして、卵を茹でる。ベーコンを焼き、レタスを一口サイズに切っていく。茹で上がった卵を料理魔法で殻を剝く。そして潰す。

ここまでは順調だ。だが、どうやら僕にお客さんが来たようだ。

「二人分作ってそうだが、それは真面目に仕事をしてる俺に感謝の印か?」

「ハイド、突然来るのはやめてくれって言っているだろ。本が驚く。」

「本が驚くだぁ?相変わらず天才で罪人のお前が言うことはいちいちよくわかんねぇ。こんな文字ばっかのもん、俺は嫌いだわ。」

「本は君のこと、もっと嫌いだよ。」

「やっぱわかんねぇわ。」

もうすぐ、たまごサンドが出来上がりそうなのに。

「僕の楽しみの邪魔をしてまで来たってことは、よほど大きい獲物なんだろうね。」

「ああ、たぶんな。」

「たぶん?」

「まぁ聞け。ここ最近、ガキが行方不明になる魔法犯罪が密かに動いてるみてーだ。ガキをマインドコントロールさせて、自分の思い通りの操り人形になる。人形になったガキは主と一緒に籠ってるみてぇだ。ここからは俺の憶測だが、その主ってのが相当なガキ好きで自分の周りをガキいっぱいで埋もれてぇ女。なんだろうよ。」

「君に足りないのは行動力だ。君の頭脳が幼稚なら、そのムキムキな体でケルベロスに立ち向かえるぐらいにはなってほしいな。君じゃあ喰われるのがオチか。このたまごサンドのようにね。」

「食いながら言ってくれるぜ。」

内容はだいたいわかった。意思の操作マインドコントロール魔法は宝玉の魔法団によって禁止されている。それにこの魔法を扱える魔法使いはかなりの猛者だろう。

最近じゃ雑魚ばかりだったから久々の大物にうずく。

「歯を磨いてから出発しよう。」

「俺は準備できてるぜ。」

僕の目的は魔法犯罪者。僕はこれから魔法犯罪者を始末する。


4


ちょっと待って。私、聞いてない。

ロドリー先生の手紙に記された湖に私は着いた。着いたのは良いんだけど、ここまでの道中、私はボロボロの服を着た女の子とすれ違いざまに体と体がぶつかった。その女の子は私に謝らずに、落としたりんごとかバナナとかを拾わずに一目散に逃げていった。

一瞬の出来事だったけど、あの女の子、追いかけられていたようだから泥棒なんだって理解できた。

「姉ちゃん、大丈夫か?」

私に声をかけてくれたのは女の子に果物を盗まれたお店の店主かな。

「うん、私は平気。」

「そりゃよかった。」

「あのガキ、顔覚えたからな。」

都会出身の私からすれば、都会の事件は多く起きていたけれど、泥棒と鉢合わせしたのは初めてかも。

二人とはここでお別れ。私は湖へ向かう。しかし・・・。

あれ?財布がない。鞄の中を見たら財布がない。辺りを見回しても財布がない。近くの人に聞いても財布がない。

私の背中に冷たい水が通る。そう。きっと、あの女の子は果物を拾わずに、私の財布を拾って逃げたんだ。泥棒の被害者になったのは本当に初めて。

私はすぐさま、タッチリング(通話できる指輪)で魔法団の騎士に連絡をとった。今までの出来事を説明した。騎士の方は迅速に対応してくれるって。

でも、財布がないんじゃ、湖に行けないよ。どうしよう。

「姉ちゃん、全然平気じゃなそうだな。」

あ、さっきの店主。

「えーと、もしかしたら、さっきの女の子に財布盗られちゃったみたいで・・・。」

こんなこと、とても言いにくいよ。でも、嘘が苦手な私は正直に言った。

「そうか、俺んとこに商品は戻ってきたが、姉ちゃんのとこに財布が戻ってくるかはわからねぇよな。」

「うん・・・。」

「いくら必要なんだ?」

「えっ・・・。」

「さっきから慌てた様子だったし、なんか約束事があんだろなって思ってな。3000ENありゃ足りるか?」

「そんな、大丈夫だよ。私にそんな・・・。」

「お互い泥棒の被害者だ。こういう時は助け合い。だろ?」

体が大きくて、髭モジャな店主は心も大きかった。

「ありがとう。絶対に返すからね。」

「いつでもいいさ。」

おかげで汽車に乗れて、私はロドリー先生がいる湖に着いた。

まぁそんなこんなで、泥棒の被害者になっちゃったけど、人の優しさに触れた。

こんな唐突な出来事にびっくり。帰ったらローグに話そう。

「先生お待たせ。」

「ふむ・・・・。」

いろんな魔法を勉強して、魔法学校の先生になること。それが私の夢。





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