くだらないことのすべて、一秒後に胸を揺らすことのすべて

長月瓦礫

くだらないことのすべて、一秒後に胸を揺らすことのすべて

絵の具で塗ったような青空は、私の届けたい想いすらも飲み込んでしまったのだろうか。何を言っても、私の言葉は虚空に押しつぶされる。

それが証明されてしまった。


今日、彼女は自由になる。

それだけを信じて、彼女は生きてきた。


自由になる、それは喜ばしいことだ。

あらゆるしがらみから解放され、重さを感じることなく、大空へはばたける。


私はなぜか嫌な予感がして、階段を駆け上がって、屋上のドアを開けた。

何度も走って走って、手を伸ばす。


毎日のように遊んだり、遠くへ連れ出したりした。

タピオカミルクティーを飲んだりカニパンをちぎってみたり、ゲーセンで太鼓を叩いて激辛ピザに悶える人の動画を見たり、小さな幸せに満たされる日々を送った。


それでも、意味をなさなかった。

彼女は何も言わずに、今日を迎えた。


「だから、無事に明日を迎える! それでいいじゃん!」


私が堂々と宣言してから、今日で1000日目を迎えた。

今日で1000日目だからか。ようやく終わると思ったからか。


その間、ずっと迷っていたんだ。

何で気づけなかったんだろう。


迷いがあったから、助けたかったのに。


「待って!」


そんな声も言葉も今は届かない。

彼女の体は宙に放り投げだされた。

真夏の熱気が広がる道路、人々が行きかっている。


彼女は重力に従って落ちていく。

私は息を止めて、それをずっと見ていた。


昔は辿っていけばどこまでも行けそうな気がしたひこうき雲も、今は私を置いてどこかへ飛んでいくだけになった。


何をやってももう遅い。私は無力だ。


被っていた麦わら帽子を脱いで遠くの空を見上げる。

そこに大きく存在していた入道雲と、目が合ったような気がした。

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くだらないことのすべて、一秒後に胸を揺らすことのすべて 長月瓦礫 @debrisbottle00

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