君の石

@rabbit090

第1話

 きれいな星が出ていた。

 しかしそれは少しの間だった。

 だから僕らはずっと、それを見つめていた。無くなって消えてしまうまで、ずっと。

 

 朝、いつもうるさいくらいの音量で目覚ましを鳴らしている。

 だってそうしなければ起きれないから、仕方ないことだけど、いい加減会社員なんてやめてしまいたくなる。

 「行ってきます。」

 母にそう告げて、僕は家を出た。

 いつも心配そうな顔で見送ってくれるけど、それが少しだけ僕の心を、痛めた。

 まあ、こんな大の大人が、まだ実家で暮らしているだなんて呆れてしまうけど、それでも今の僕には、これが現実でしかなかった。

 「昼飯行こうぜ。」

 「おお。」

 同僚の大木は、いつもご機嫌だった。

 そりゃそうか、金もいっぱい持ってる、勉強もするし、それに追いつける強さがある。

 僕はへとへとになって、家に帰ってからまた、仕事に関して知識を習得できるほど、強くはないらしい。というか、能力が無いのだと痛感する。

 だから、こうやって同期のよしみでたまに食事に誘ってくれるけど(まあランチだけど)、ちょっとだけ顔が引きつっているのかもしれない。

 「お前さあ、結婚しないの?」

 はあ、やっぱり。

 「ああ、しない。てかできない。知ってるだろ?僕、一回休んだの。」

 「知ってるけど、そんなの俺の周りでもよくあるぜ?でも、小さな会社だとさ、休ませてもらえないし、ここはまだいいよ。」

 「そうだけど、遠慮してくれよ。」

 「もう、あのさ。お前直球過ぎるんだよ。だから疲れるんだ。疲れたら何にもできないぜ?だから俺は、疲れないことに必死になってるんだ。」

 「…そうかよ。」

 大木は、考えて居なさそうで、いつも物事を洞察している。そういう所が嫌いだった。

 そして家に帰って、風呂に入って、母に適当にお金を渡して、寝る。

 それ以外、することがない。

 実家にいさせてもらう分、毎日お金を渡さなくては心が許せなかった、自分を。

 そういう確信は必要だと思う、なあなあにすると、僕はいつまで経ってもこどものままだった。

 じゃあいけないの?ってこともないけど、僕は一刻も、世間に大人として、認められたかった。

 

 この小さなかけらは、近くの公園で拾った。

 その公園に通う事しか、一日の中でできることが無かった。

 僕は周りの目も恐れたし、母の表情ですら嫌だった。

 なぜ、自分が倒れてしまったのかは分かる。

 僕は昔からいつも、どこかが不自然だった。

 その不自然さが、どうしても歪を生み出してしまって、物事が順調に進まなくなる。

 そうだな、こんな風に思い出したのはきっと、あいつのせいかもしれない。

 僕は、別の世界が広がっていることを知っている。

 それを教えてくれたのは、あいつだった。

 小学生だった僕は、いつも誰かをからかって、泣かせて、そんな男だったんだ。

 そんな中、僕がからかっていた男の子が、ある日僕にくれたのが、これ。

 この小さな人形。

 見た目はボロボロで、人形というか雑巾というか、だけど動物のような形をした、でもこの世にはいないような、そんなものだった。

 「これで、勘弁して。」

 その子は、そう言って僕の目を見ず去った。

 僕は、嫌がらせをされたのかと思っていたけれど、違った。その人形は、ネットで調べたらプレミアがついていて、だからくれたのか。

 でも、僕はそれを売らずに大事にしまっていた。

 しかしそれ以来ずっと、僕には別に視点ができてしまった。

 それはなんていうか、僕の頭の中に、僕以外の何者かの、頭が詰まっているというか、だから僕は、ここ以外の世界があるという常識を、常識のまま捉えることができるし、それを不思議にも思わなかった。

 そして同時に、この不可解な現象のせいで、僕の人生が後、普通の人間の1/3ほどで終わってしまうことも分かっていた。

 だったら、と思ったけれど、なぜかとてつもない無力感に襲われ、僕はそれまでに行っていたいじめをやめ、大人しくなった。

 そして、今も会社員として働いているけれど、この小さなかけらは、どんどん成長している。

 死へと向かっている僕とは裏腹に、どんどん、どんどん。

 僕は、不思議なものが見えるし、それを自然と理解することができる。

 だから、本当は手放したいこの石を、手放せない。

 僕の掌の中で大きくなる、小さな存在、いや、小さかった存在。


 しかし、僕はそのまま絶命した。

 それも、本当は最初から、分かっていることだった。

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