呼び出されて、なんだと思ったら。

緑茶

わたしの、目の前で。

「昨日の話は、無かったことにして頂きたい」


 そう言って、幼なじみの男は額を床にこすりつけている。わたしはその前に立っていて腕を組み、顔を真紅に染めている。


「あああ、あきらかに湯気立ってるよな、いやほんと、酒の勢いだったんだ、いやそれは失礼か逆に。くそっとにかく謝る、聞かなかったことにしてくれ」


 あきれるほどに、こいつはものわかりがわるい。


「だから、無かったことにしていただきたいっ、あのことば、『この俺と、けっこ……」


 実を言うと、そのあとを、聞くつもりはなかった。こいつは大きな勘違いをしている。

 ――なかったことになんて、できるわけがないのだ、このおおばか。


 わたしの顔は、たしかに真っ赤で。いつになくペースを、気持ちをかき乱されていて、そのせいで不整脈を起こしそうになっていて。あたまからはほんとうに湯気が立っているようだ。

 だけど、ここからがいちばんだいじ。


 こいつはわたしの表情を見ていない。口元が笑みでゆるんで、ちょっぴり泣きそうになっているわたしの表情を見ていない。


 だからわたしは、無粋な言葉が、それ以上聞こえてくる前に、しゃがんでくちびるをちかづけて、こいつの口をふさぎにかかる――。

 

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