夢のマイホーム


 透き通るような青空と自然豊かな美味しい空気は十分に堪能できたので、そろそろ行動を開始しよう。


 そう考えて立ち上がろうとしたが――


「キエェェェェ‼」

「ギャアァァァアア‼」

「……」

『……』


 森の方から魔物の断末魔らしき叫び声が響き渡った。


 どうもこの辺りはかなり治安の悪い場所らしい。


 流石に白銀竜のお墨付きを貰ったとはいえ、いざ戦闘の事を考えると不安が残る。


 ここに居る限りは結界があるから安心だろうが、自衛のための力が欲しい所だ。


 少しでもレベルを上げて、不意に魔物に襲われてもいいように備えておきたい。


「白銀竜が帰ってきたら、レベリングを頼もうか」

『……!』

「また一緒に戦ってくれるか?」

『……!!』

「ありがとうな、ノア」


 俺の問い掛けに、ノアはふるふると揺れて肯定した。


 ノアがいれば戦闘は安心だ。


 ダンジョンでの戦闘はノアが前衛として魔物を蹴散らし、後衛の俺が支援をするといった戦い方で魔物たちに勝ってきた。


 危ない場面ではいつも助けてくれた、最も信頼の置くことのできる相棒だ。


「さてと……何から始める?」

『……!』

「そうだな。まずは拠点の確保だな」


 ダンジョン攻略では、何よりも安全確保が優先された。


 特に、休息や食事、睡眠を取る際には、周囲の魔物を入念に排除しなければならない。


 もしも索敵が甘く、魔物を取り逃がしていたりすると、油断しているところを攻撃されることになる。


 今回は白銀竜の結界のお陰で魔物に襲われる心配は無いけれど、雨風を凌げる場所は欲しい。


「魔法ならどうにかなるか?」

『……!』

「そういえば、白銀竜から魔導書を貰ってたっけ?」

『……?』


 ダンジョン踏破の報酬として、白銀竜から魔導書を貰った。


 その数、数十冊。


 一冊一冊が辞書のような分厚さで、ページを開くと小さな文字がびっしりと書かれている魔導書は、完読するだけでも数年はかかりそうだった。


 だけど、俺にはスマホ――グリモアがある。


 グリモアは魔導書を読み込ませることで、自動的に記載されている魔法を解析し、俺が使えるように最適化してくれる優れものだ。


 グリモアを取り出し、新しくインストールされた魔法を確認していく。


「【空間魔法】【破壊魔法】【即死魔法】。白銀竜のやつ、何渡してくれてるんだよ……」

『……?』


 画面にある魔法は、一目見てどれも危険なものばかりだった。


 消費魔力も馬鹿にならないし、余波でこちらが怪我をしそうで怖い。


 使うにしても、事前に試射をする必要がありそうだ。


 そんなことを考えながら、物騒な字面の魔法が並ぶ画面をスクロールしていくと、使えそうな魔法があった。



――迷宮作製ダンジョン・クリエイト


 白銀竜も高難度ダンジョン【絶望の虚】を作ったって言っていたから、ダンジョンを作る魔法があっても不思議じゃない。


 魔法の説明を読んでみると、作製できるダンジョンは洞窟タイプだけでなく、空飛ぶ島や遺跡、城なんてものもある。


 取り敢えず、グリモアからから【迷宮作製ダンジョン・クリエイト】を発動させた。



【作製するダンジョンをデザインしてください】

「どんなのが良い?」

『……!』

「もっとこじんまりしたので良くないか?」

『……!!』


 ノアが選んだのは、屋敷タイプのダンジョン。


 それほど大きくなく派手さは控えめだが、どことなく品があって落ち着いた雰囲気のある屋敷だ。


 ノア曰く「広い自室が欲しい」とのことだ。


 俺の手からスマホを掻っ攫うと、サクサクと自室をデザインした。


 広さ12畳でクローゼット付き。


 オプションでソファーやテーブル、ベッドを完備している。


 しかもセンスが良い。


「お前、俺よりグリモアを使いこなしてないか?」

『……!』


 そう来られると、俺も自分の部屋をデザインしたくなる。


 ノアみたいに広い部屋は要らないけれど、6畳くらいの広さで、椅子や机、本棚なんかを付けてみる。


 そして、一度凝りだすと止まらなくなるのが人間という生き物だ。


 キッチンはダイニングキッチンにしてみたり、書斎を組み込んでみたり、プールみたいに広い風呂場を設計したりと次々に追加していく。


 あの家具が欲しい、こんな部屋いいんじゃないかとノアと話していたら、気付けば2時間近くが過ぎていて、画面には大豪邸が出来上がっていた。


「ちょっと……いや、かなりやり過ぎたなか?」

『……!!』

「問題ない? それなら、これで完成でいいか?」

『……!』

「じゃあ、作るぞ。――【迷宮作製クリエイト:ダンジョン】」


 魔法名を唱えると、目の前に光の粒子が集まり出し、それが屋敷の姿を形作っていく。


 数秒後、光が収まると、そこには俺たちが設計した屋敷が建っていた。


 ノアはボールのように弾み出すと、玄関のドアを体当たりで開けて中に入っていった。


 レベル400台のノアの体当たりを受けて傷一つ付かないところを見ると、ドアの耐久性は十分のようだ。


 俺もノアを追って屋敷に入る。


 玄関をくぐると、そこはちょっとしたホールになっていて、天井からは小さなシャンデリアが吊り下がっている。


 この辺りはノアが力を入れて作っていた場所だ。


 周囲を見ると、ホールには設置した覚えのない壺やモニュメントが飾られている。


 一体、いつの間に追加したんだ?


 それにしても、ノアは美術的な感性が良いのか、どれもデザインが素晴らしい。


 どこか既視感のあるクマ型の魔物が魚型の魔物を咥えている木彫りの像を眺めていると、遠くで部屋のドアが開く音がする。


 二階か?


 音のした方に向かってみると、ノアが自室のベッドの上でポヨポヨと弾んでいた。


 修学旅行の宿泊先で興奮する小学生みたいなリアクションだ。


 喜んでくれているようで何よりだ。

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ラック極振り転生者の異世界ライフ 匿名Xさん @yoimati_tukuyo

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