第7話 記憶
『しゅうちゃん、その絆創膏はどうしたの?』
俺の母さんは、何かと心配性な人だ。
学校へ行くだけなのに、忘れ物の確認はもちろん、誘拐や不審者の心配、事故の心配などを毎日していた。
友達と遊びに行くだけでも、何かと心配していた。
『しゅうちゃん、見て見て~! 雪よ!雪!』
そんな母さんは、子供の俺よりも子供だ。
雪が降れば、俺よりも喜んでは、雪遊びをしていた。
俺も雪は嫌いじゃないから、一緒になって遊んだ。
かまくらや、雪だるまを作るのに夢中になって、気付けば夕方なんてのはしょっちゅうだった。
『全く、こんなに冷えるまで遊んで……風邪をひいたらどうするんだ』
そして、二人揃って、父さんに怒られる。
『ふふ、怒られちゃった』
そう言って、母さんは笑うんだ。
そんな母さんを見て、父さんは溜め息を吐きつつも、笑顔だった。
『そうだ、秀一。今度の休みに、買い物に付き合ってくれ。』
そんな父さんは、母さんと俺が大好きな人だ。
こうやって休みの日は、特別な理由が無い限り、俺達と過ごしている。
仕事で自分も疲れているはずなのに、普段は母さんに任せているからと、家事を率先してやっている。
『あ、ずるい! ママも一緒に行きたい!』
『ママは留守番だよ。今回は、男同士での買い物だからな』
そう言って、父さんは俺の頭を撫でた。
母さんは、納得いっていない表情で、俺達を睨んだ。
睨んだと言っても、不良のような睨みじゃなく、怖さは無い。
『そう怒るなって、一緒に、洗剤とかの買い物も済ませてくるから。』
『違うわ! ママも欲しいものあるのよ!』
『? 前に言ってた、ワンピースか?』
『それも欲しいけど、違う。パパの誕生日プレゼント買いに行きたいの!』
母さんは、しっかり者に見られるが、この通りちょっと天然な所がある。
本人を目の前にして、誕生日プレゼントを買うとバラしてしまうなんて、サプライズにならないだろう。
父さんは、もう慣れているのか、笑っていた。
『ははっ、それは楽しみだな! でも、一緒に買いに行ったら、袋で何を買ったか予想できちゃうぞ?』
『あ! それは、駄目!』
『それじゃ、ママは留守番を頼むよ』
『も~、しょうがないか……』
『次は、ママと秀一で買い物に行くといいさ』
そう言って、俺に『頼んだぞ』と、父さんは笑った。
父さんは、母さんを一人で外出させるのを極力避けていた。
結婚する前に、母さんがストーカー被害にあっていたらしく、それ以来母さんが一人で外出するのが心配らしい。
『パパは心配性なんだから~。これじゃぁ、どっちが子供か分からないじゃない』
『はぁ…そう言って、この間も声を掛けられていたじゃないか』
『あれは! 仕方ないじゃない。外人さんで、道が分からなかったんだから』
『教えたあとに、ランチに誘われていただろ』
『うっ……しゅ~ちゃ~ん! パパが怖いよ~』
『あ、ママ!』
母さんは、泣き真似をしながら、俺の背中へと隠れる。
今日も、母さんも父さんも元気だ。
二人が本気で喧嘩をしている所は、一度も見たことが無い。
俺も本気で怒られたとしても、それは、本当に危ないことだったと思う。
中学生になった辺りからは、怒るというよりも、俺の話を聞いて、話し合いをするという感じだった。
母さんも、父さんも、家族の変化にはすぐ気付いていた。
『しゅうちゃん?』
あの日も、そうだった。
『秀一?』
大学で、友達で、悩んでた。
両親にも、その悩みは相談していた。
『しゅうちゃん、お友達は平気?』
『学校の先生には、相談したのか?』
二人とも自分の家族のように、友達の事を心配してくれていた。
『秀一、あまり気負いすぎるんじゃないぞ』
俺は、平気。でも、友達は苦しんでる。
友達が……て……俺は……
狭間 Ouranos @Montesqu
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