第43話 規格外

 一連のドタバタで、グリードの攻撃は止まっていたが、

 ファイレーンは炎の鎧巨人を解除はせずに、制御のために未だ空中にいた。

 なので、地上にいるグランザとは距離が離れているのだが、

 どうしても我慢できず、遠くから大声で問いただした。


「ちょっと、何なんですかあれ!」


「どうした?ファイレーン」


 グランザはキョトンとしている。


「あなた、あんなにすごい攻撃まで出来たんですか!?」


 強いことは前から分かっていたが、あんなに大量のドラゴンを一気に!?

 それなら、これまでのドラゴンとの戦争でも使ってくれてもよい気がするが・・・。


「なるほど、そのことか」


 グランザは真面目な顔で頷いて説明を始めた。


「俺はグリードに操られている間も、かすかに自意識は残っていた。

 その意識の中で、自分への不甲斐なさから、精神修行を続けていたのだ。

 あと、勇者ライカと死闘を繰り広げたことで、

 何か強くなる切っ掛けを掴んだような気もする。

 そのおかげだな」


「えええ・・・」


 これはウォーバルのうめき声だ。


 自分も頑張って修行したのだが、グランザは精神修行でこんなにパワーアップを?

 いや、その修行後のグランザに勝ったのだから、別にいいのか?


「グランザは何かやっぱりおかしいよ・・・・」


 シルフィアは警戒のため空中にいたままだが、話を聞いて呆れてそう呟いた。


 だがそれ以外にも気になることがあった。

 グリードが何も行動を起こさないのだ。


 先ほどから、時々体を蠢かせているだけだ。


 そう言えば、と思い、シルフィアはグランザとウォーバルの近くに降りてきた。


「さっきの攻撃で、グリードも倒せないかな?」


 せっかくなら、このまま倒せてしまう方がいいのだが。

 だが、グランザは淡々と否定した。


「さっきの術では難しそうだな。

 先ほども、剣の何本かはグリードに攻撃したが、

 さすがに本体は防御が固いようで弾かれてしまった」


 もうグリードにも攻撃していたのか。

 グランザは、このようにそつなく淡々と仕事をこなす男だった。


「グリードが行動を起こさないうちに何とかすべきだが・・・」

「何であいつは何もしなくなったんだ?」


 四人は改めてグリードの方を見る。

 炎の鎧巨人と対峙したままだが、そちらの方すら見ていない。

 顔はうなだれているが、よく見ると目は見開き、歯を食いしばっている。

 そして時々体を蠢かせながら・・・

 何か喋っている?


 シルフィアは再び上空に飛んでいき、グリードの様子を見に行った。


『・・・たい・・・たい・・・たい・・・』


「??」


『いたーーーーーい!!!!』


 急にグリードが体をのけぞらして叫んだ!!


 と、同時に――――


 グリードの背中、首の付け根辺りで


 バリィ!!


 と、短く鈍い音が鳴った。


「うりゃぁあああ!これでもくらえぇぇええ!!!」


 そして、シルフィアにとっては聞きなれた罵声が聞こえる。



「ええ!?ライカ!!?」


 声のする方を見に行くと、

 ライカがグリードの背中で・・・・

 グリードの巨大な鱗を剣でガンガン叩いた後、素手でメリメリと引きちぎっている。


「うわっ・・・!」


 シルフィアは自分の爪がはがされたら、という想像をして寒気がしてしまった。


 ライカはその鱗を力任せに引きはがした。


 バリィ!!


 さっきの音はこれか。


『痛い!!さっきから!やめろぉおおお!!』


 グリードは身を悶えさせるが、ドラゴンの体型では首の付け根には手も口も届かない。

 それでも耐え難く、天を仰ぐように体を垂直に立てたかと思うと、

 思いっきり背中から地面の方に倒れこんだ。


「おっとっと」


 ライカは軽く声を上げると、潰されるギリギリ前にジャンプしてグリードから離れた。


 ドォォォオオン・・・!!


 グリードが地面に倒れこむ。


「すげぇな。あれが『逆鱗に触れる』ってやつか。

 あんなに怒るとは」


「いや、『逆鱗』って、鱗を逆向きにに引っぺがす、って意味じゃないですよ・・・」


 ライカの天然発言にファイレーンが突っ込む。


 取り合えず、グリードが倒れたから・・・と言うか、

 気になるところが多すぎて、ファイレーンも地上に降りてきた。


 ライカの周りに、四天王が集まった。


「おっ!グランザじゃねぇか。やんのかぁ?」


 ライカはグランザを見るなりガンつけてきた。なんでそんなにケンカ腰なのか。

 グランザはグランザで「遠慮しておく」の一言でスルーしたが。


「そんな事より!無事だったの!?」


 シルフィアが問いかける。


 ライカはグリードの雷の直撃を受けて、その背中から剣だけ残していなくなったはずだ。

 シルフィアは、ライカが死んだとは思っていなかったが、まさかグリードの背中から出てくるとは。


 よく見ると、ライカは雷のせいかちょっと焦げてるような気がするが・・・。

 それよりもグリードの鱗を引っぺがした時のものか、返り血まみれになっている。

 見た目かなり怖い。

 それ以外は全く元気なようだ。


 ライカは面倒くさそうだが、一応説明してくれた。


「ああー。驚かせちゃったか。

 あの雷は正直結構ヤバかったな。ビリビリしたし。

 ヤバい!と思ったけど、グッと体に力を入れたら何か体が光って、

 何か無事だったんだよね。ちょっと体の表面は焦げたけど」


「そんなことあるの!?」


 シルフィアはとても信じられない!という顔をしたが、

 ファイレーンは思い当たることが合って考え込んだ。


(そう言えば・・・最初にグランザと戦ってピンチになった時も、体が光ってましたね。

 やっぱりあれがライカさんの転生者としての力・・・?)


 そんな考察は知る由もなく、ライカは説明を続ける。


「でもまあ、ちょっとダメージはあったし、体の表面は焦げてるから、

 しばらくグリードの鱗の下に隠れて休んでたんだ。

 で、回復してきたんだけど、

 最初の攻撃で鱗を破壊できなかったのがムカついたから、

 鱗の下にもぐって、鱗を破壊できるまでひたすら剣でぶっ叩いてたんだよね。

 そしたら段々壊せるようになって・・・」


『そうだ!!貴様ぁあああ!!』


 倒れていたグリードが素早く起き上がり、ライカに顔を迫った。


『よくも俺の鱗の下で、ずっと暴れてくれたな!!!』


 だがライカは煽り顔で反撃した。


「へっ!偉そうに!!

 俺にやられて痛いくせに、シアたちにバレるのが恥ずかしくて、何でもないふりして戦ってたんだろ!?

 見栄っ張りはろくなことにならないな!」


「え!じゃあ、ボク達が戦っている間、ずっとライカさんはグリードに攻撃してたたの!?」


(なるほど・・・・)


 ファイレーンは声に出さずに納得した。


(私たちも頑張ったとは言え、グリード相手にここまで粘れたのは、

 ライカさんの攻撃で本調子じゃなかったからなんですね)


 自分たちの力だけではなかった事はちょっと残念だが、納得ではある。


(それにしても、威厳を保つために痛いのを我慢して虚勢を張るなんて・・・)


 ファイレーンは、自分たちが威厳を保つために強いふりをしようとしたことを思い出して、すこし恥ずかしくなった。


『おのれ・・・・』


 グリードはすっかりペースを奪われて苦々しく唸った。


 勇者ライカがこんなでたらめをするとは思わなかった。

 雷で消し飛んだと思ったら、しばらくしたら背中に違和感を覚え・・・

 その後すぐに、自分の背中でひたすら破壊され続けるとは続けるとは・・・。



「でも戦ってる最中も、背中から雷出したり、色々されたでしょ?」

「ケッ!あんな雷なんて、一回耐えるコツ掴んだら平気平気。

 むしろ何か水の槍みたいなのにもうちょっとで刺されそうになったけどな」


 ライカはそう言うとウォーバルの方をジロリと睨んだ。

 ウォーバルも睨まれる筋合いはないので、睨み返したが。



『そんなデタラメなことが・・・・』


 グリーズは困惑と屈辱で歯ぎしりした。

 ドラゴンの体型が災いして直接つまみ出すこともできなかった。

 こんなことならグリーズを吸収するんじゃなかった・・・。


 そんなネガティブな考えが浮かぶことが我慢ならなかった。


『絶対に許さん・・・!

 貴様らだけは、この身がどうなってもぶち殺してやる!!』



 そう叫ぶと、グリードは再び空に浮かび上り・・・・

 そして、彼自身、使うつもりのなかった、使いたくなかった禁断の魔術を発動した。


『全てを焼き尽くしてくれる!!!!

 メルド・メギオン!!!』


 そしてグリードの体から、灼熱の炎が噴き出した。

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