第30話 転生者
「転生者とは・・・そして世界の秘密とは・・・」
ファイレーンが重々しくそう言うのを、
シルフィアも、ウォーバルも、ライカも、神妙な面持ちで聞いていた。
「とりあえず魔王城に移動しながら話しましょう!
さあ、出発です!!」
ファイレーンが突然声高らかに、両手をパンと打ってそう言ったので、
3人は肩透かしを食らってしまった。
いや、ライカとウォーバルは怒っているか。
「テメェ・・・いい加減にしろよ・・・・」
ライカがファイレーンの胸倉をつかんでそう睨みつける。
おそらく、ライカがしなかったらウォーバルがそうしていただろう。
ファイレーンは慌てて二人を制した。
「き、気持ちは分かります!!
でも、できれば一刻も早く魔王城に戻りたいんです!!
移動しながら説明させてください!
魔王城に着くまでに必ず説明しますから!!」
なるほど、と、シルフィアも加勢に入った。
「お願いだよ、ライカ!ウォーバルも!!
ファイレーンが何を説明してくれるのかは分からないけど・・・・。
ボクはライカもウォーバルも必要だと思ってるんだ!!」
その言葉に・・・・
ライカもウォーバルもしばらく考え込んだが、
先に答えを出したのはライカだった。
「チッ!まあいいよ。
どうせ元々魔王城に行くつもりだったんだ。
魔王軍自ら連れて行ってくれるんなら手間が省けるだろ」
ただし、剣先をファイレーン達に見せて釘を刺した。
「もし途中でだまし討ちしようとしても無駄だからな。よく覚えておけよ」
そう言って剣を鞘に納めた。
それを見て、ウォーバルも覚悟を決めたようだ。
「いいだろう。
だが、魔王城に着くまでに納得のいく説明がなかったら、
俺は一人でもファイレーンや勇者と戦ってでも止めるからな」
「あぁん?できるもんならやってみろよ。返り討ちにしてやるよ」
「さ、さあ皆さん、出発しましょう!」
「そうそう!みんな行こうよ!!」
ライカとウォーバルが睨み合いを始めそうになったので、
ファイレーンとシルフィアは慌ててその場を収めて移動の準備を促した。
◆
シルフィア、ファイレーン、ウォーバル、そしてライカは、魔王城へ向かっていた。
ちなみに、死の谷の迷宮に作戦のために集めていた魔王軍には、ファイレーンが魔王城への帰還を指示したが、
4人はそれらの兵士のより速いスピードで移動していた。
「うう・・・何でこんなことに・・・」
泣き言をもらしたのはシルフィアだった。
4人は、シルフィアの風の魔術に包まれて飛ぶように迷宮の中を進んでいた。
要するに、シルフィアが他の3人を運んでいるわけである。
「ボクってこの4人の中で一番重傷だったはずなんだけど・・・」
シルフィアは迷宮の外で仮面の剣士・・・グランザに斬られたり、吹き飛ばされたり、その後ずっと抱えられていたりと、散々な目にあったのだが・・・・。
「何度も文句言わないでください!
ちゃんと治療してあげたでしょう!?」
ファイレーンがすでに何度も言った言葉を繰り返す。
傷を負ったとは言え、そこは四天王である。
シルフィアはそもそも自分である程度の治癒魔術を施していたし、先ほど治癒魔術が得意なファイレーンがきれいに治してあげたのだ。
だらか、シルフィアの泣き言は傷の痛みではなく、心情的なものである。
シルフィアは器用に4人を飛行させながら、お互いの声が聞こえるように魔術を調整している。
迷宮内は狭いのでそこまでスピードが出るわけではないが、歩くよりましだ。
それに、この4人でのそのそ歩きながらお話しする、という雰囲気でもないだろう。
ファイレーンはコホン、と一つ咳して、それを話題に入る合図とした。
「では説明します。
まず転生者・・・転移者とも言いますが・・・・。
簡単に言うと、こことは別の世界、別の次元から、この世界に召喚された者のことです。
転生者は、はるか昔、魔王軍と人間軍の戦争が始まるより前から発生が確認され、そして戦争の最初のころ・・・・これも大昔ですが、そのころには特によく現れていた、と記録には残っています。
ただ、大昔すぎて基本的には魔王軍の中でも、そして人間族の中でも忘れ去れていて、一部の伝説やおとぎ話に残っているくらいですね。
私は過去の文献を研究していたので、先ほどの記録を見つけたわけですが・・・」
(なるほど、ボクも聞いたことある気がしたけど、確か子供のころの絵本に『転生者』って言葉があった気がするな。それか)
シルフィアは話の腰を折らないように、心の中で勝手に一人で納得していた。
「そして、転生者はほとんどの場合、強大な力を持っていました。
人間族は勿論、魔族をもはるかに凌ぐ力を。
歴史に伝わる数多くの『勇者』は―――特にその戦争の初期に現れたものは、
その多くが転生者だったと思われます。
まあ、実際のところは、転生者の強力な力を讃えて、『勇者』という立場が生まれた、と言った方が正しいでしょう。
その後、徐々に転生者は現れなくなったようです。
しかし人間族は、魔王軍と戦うために、転生者でなくてもそこそこの実力を持つものを『勇者』として持ち上げていたのでしょう。
なので、最近の記録に残っている勇者がそんなに強くなかったのは、そのためですね」
「転生者が現れなくなった?」
ウォーバルが気になったところを問いかけた。
「記録によると、そうですね。
基本的に転生者は、魔王軍と人間軍の戦争の初期に現れていた、と思われます。
なので、とても長い期間、転生者は現れていませんでした」
「それで、ライカが凄く久しぶりの転生者、ってこと?」
「そう・・・ですよね?ライカさん?」
それまで黙って聞いていたライカは、話を振られて肩をすくめながら答えた。
「まあ、隠す必要もねぇからいいけど。
別の世界からこの世界に来た、ってことならその通りだよ」
本当か?と言おうとしたウォーバルに先んじて、
「まあ、信じるかどうかはお前らの自由だけど」
と付け加えていた。
「じゃあライカがこんなに強いのは、転生者だからってこと?」
「転生者が全員デタラメに強いかは分かりませんが、転生者ならこの強さも納得・・・ってことです」
「ハッ、だったら、それこそ何でそのことを秘密にしていたんだ!?
勇者の力の秘密を調べるのも作戦の内だっただろうが!!」
シルフィアはウォーバルの意見に同感だった。
秘密にする理由がない。
ファイレーンはそれに対して、気まずそうに答える。
「だって・・・過去の記録を調べてみても、何で転生者が強いのか分からないんですもん・・・」
「えっ、そうなの?」
「はい・・・強い理屈とかは全然分かってないんです・・・。
『何か知らないけど強い』、としか」
そこまで言うとファイレーンはライカの方を見て質問した。
「ちなみにライカさんは、転生するときに何か、神様みたいな人に転生の説明とかされました?」
ライカはちょっとだけ眉を動かしてから答えた。
「いや、オレの場合はそう言うの無かったな・・・。
気付いたらこの世界にいたというか・・・」
「何で自分が強いのか知ってます?」
「知らねーよ、そんなの。
こっちの世界の誰に聞いても転生者の事知らねーから、
転生者だから強いのかな?くらいしか思ってなかったよ」
「ほらね?」
ファイレーンは思った通り、というようにシルフィアとウォーバルの方を見た。
(転生するときの神様?とかの話は何だったんだ?)
シルフィアにはよくわからない事だったが、聞く前にファイレーンが続けた。
「転生者だって分かっても強さの秘密は分からないから・・・。
私たちの作戦には何のメリットも無い情報ですよ・・・・。
本当は別の理由、例えば強い装備のおかげとか、どこかの精霊の加護のおかげ、とかなら対処方はあるかと思いましたが、そうじゃないみたいでしたし・・・・」
ライカは、自分を倒す作戦の事を話されて少しむっとしたが、すぐに別の疑問が浮かんだ。
「その割には、あの城でオレに『転生者か?』って聞いて、俺がそうだって言った時に、想定通り、みたいな顔で笑ってたのはなんでなんだ?」
「だって・・・あの時は、ライカさんに『四天王は強敵だ』って思ってもらうために、余裕ありそうな態度をしなきゃいけなかったんですもん・・・」
「なんじゃそりゃ・・・・」
ライカは四天王の実態を知るたびにあきれ果てていた。
シルフィアとウォーバルは、自分たちの醜態が知られるところになって頭を抱えている。
こんな事実を部下たちには知られたくない。
やはり勇者は抹殺すべきではないか。
そんな事を考えるが、シルフィアはとりあえず別の疑問をファイレーンに問いかけた。
「でもさぁ、それにしたって、ライカが転生者だってこと、秘密にしなくてもよかったんじゃない?
言っても仕方なかったかも知れないけど、言わない方がいいってことも無いでしょ」
それを聞いて、ファイレーンは少しだけ押し黙ったが、意を決したように顔を上げた。
「それは・・・・『転生者』という存在をできれば二人に知られたくなかったからです。なぜならば・・・・」
元々覚悟をしていたことだ。順を追って説明していただけだから、と自分を納得させて。
彼女にとって重大な、ずっと秘密にしていた事実を口に出した。
「私も・・・・転生者だからです」
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