第31話 魔族と人間族
ドカァァァン!!!!
シルフィア達4人は迷宮の壁に激突していた。
「ちょっと、何やってるんですか!シルフィア!!!」
「いや!ファイレーンが急に変な事言うから!!」
ファイレーンとシルフィアは地面に転がりながらお互いを非難し合った。
ライカとウォーバルも地面に転がっていたが、ファイレーンとシルフィアのどっちに詰め寄ればいいか決めあぐねているようだ。
取り合えずウォーバルはファイレーンをターゲットにした。
「どういう事だ!ファイレーン!
貴様も転生者だと!?
それじゃあやはり、人間族の味方ってことじゃないか!!」
それに対してファイレーンは、困ったような怒ったような顔をして反論した。
「違います!私は魔族として転生したんです!!」
これには、ライカも驚いたらしい。
「転生者って、魔族にも転生するのか?」
「そうですよ!少なくとも、私はそうなんです!」
ファイレーンは立ち上がって眼鏡の位置を直しながら言った。
「だって転生者が人間の勇者だって言ってたじゃないか」
「そうは言ってません。人間の勇者はその多くが転生者だった、と言ったんです!」
シルフィアの質問にそう答えて、ファイレーンは「はぁ~」と大きなため息をついた。
「だから言いたくなかったんですよ。話したら絶対こういう展開になるし」
そう言いつつも、ずっと秘密にしていたことを告白して、気持ちはスッキリしているように見える。
ファイレーンは元気よくハキハキとシルフィアに告げた。
「とにかく、のんびりしている暇はないんですから、もう一回皆を運んでください!」
そう言われ、シルフィアは渋々、再び風の魔術で4人まとめて移動を再開した。
ファイレーンの正体にはまだ釈然としないまま、しかし断る雰囲気にもなれず、ライカとウォーバルも含めて、大人しく従ったのだ。
◆
「そういう訳で、私は自分自身のためにも、転生者の事を調べつくしたんです。
転生者とはどういう存在で、なぜこの世界に来たのか・・・。
そうこうしているうち、転生者としての力もあって、魔王軍の中でどんどん認められていき、魔王軍の四天王にまでなっちゃったんです」
ファイレーンは自らの異世界転生成り上がりストーリーを簡単に説明していた。
「それなりに魔王軍での研究者生活を楽しんでいたのに、まさか他の転生者にメチャクチャにされるなんて・・・」
そう言って頭に手を当ててため息をついた。
「ちょっと待てよ。
じゃあ同じ転生者だって分かってたのにオレを抹殺しようとしていたのか?」
ライカは、怒っているというわけではないが、気分はよくないらしい。
だがファイレーンはちょっとだけ困った顔をしただけで、あっさりとした口調で答えた。
「うーん、それは、いざこういう状況になると申し訳ないとしか言いようがないですが。
私はもう転生前より魔王軍として生きてる時間の方が長いですし・・・。
気分的にも相手が魔王様を狙う勇者なら、何とかしないと・・・・。
それに、絶対に魔王様を倒させるわけにはいきませんし・・・」
「・・・そういうもんかねぇ」
「そう言うなら、ライカさんはどうして勇者として魔王軍と戦おうと思ったんですか?」
そう言えばそれは聞いたこと無かった、とシルフィアは思い、ライカの返事を待った。
ライカは少し考えた結果、珍しくはっきりしない口調で答えた。
「それは・・・まあ。
転生して魔王軍に人間が苦しめられてるって聞いて、
お世話になった村の人たちのためにも・・・って。
自分が他の人より強いことも分かったてから、転生者はそういうもんかなって。」
「それですよ!!」
ファイレーンは予想通り!というように、ライカを指さした。
ライカはちょっとビクッとした。
「人間族に転生したから人間側の視点でそういう気持ちになったわけで、
私は魔族に転生して魔族として育ったので、
魔族の味方をするのは当然なわけです」
「うーん」
ライカは腕組みして少し考えたが、改めて疑問を呈した。
「でもなぁ。魔族は人間を苦しめてる悪役だろ?
転生した後に育ててくれた魔族の人たちがいい奴らだからって、そんなに割り切れるか?
それとも、せっかく転生したから悪役ムーブをしたかったとか?」
悪役悪役と面と向かって言われると、シルフィアもウォーバルもいい気分はしなかったが、ファイレーンにとってはそれこそが核心に近づく話だった。
「そこですよ、ライカさん。
あなたは『転生した世界』で『魔族と魔王』がいて、人間と戦争していたから、『魔王を倒す勇者』になろう、と思ったんですよね?
何となく、そういうものだから」
「?」
ライカは何が言いたいのか分からず、怪訝な表情だけを返した。
「確かに魔王軍と人間軍は戦争状態です。
・・・えーと、
戦争自体がよくない事じゃないか・・・と言われたら、
転生者のあなた・・・・
どこから転生してきたかは聞いてませんが、もし私と同じ世界からなら、
戦争自体がよくない事、と思うかもしれません。
それは否定しませんが・・・」
ファイレーンは我ながら回りくどい言い方をしている、と思った。
先にライカの出身地を聞いた方がよかったかも知れない。
相手の常識や倫理観が分からないからだ。
説明の仕方を間違えるといらぬ反感を買うかもしれない。
しかし、話の流れで仕方がないので続ける。
「とにかく、魔王軍と人間軍は戦争状態ですが、これはいわゆる領土戦争です。
お互いに領土を広げたいがための戦争です。
こういった戦争は人間族同士の国家間でも発生していることですよね?
実際のところ、魔王軍がやっていることは特段、人間族がやってることと変わりは無いのですよ。
もちろん、モンスターや人間族より強力な魔術を持っているので、戦力的な差はありますが」
「人間は魔王軍での戦場以外でもモンスター達の被害にあってるじゃねぇか」
「まず、魔王軍と関係ない野良モンスターはどこにでもいますからね」
「うーん、でも、旅の途中でメチャクチャ悪い魔族や、凄ーく嫌なヤツな魔族にひどい目に合わされたりもしたからなぁ」
「それはまあ、魔族や魔王軍にも無法なヤツや極端に外道な奴もいますよ。
でもそれは人間族だって同じことでしょう?
それに、戦場以外、人間の領土内に魔王軍が現れることがあるってことなら、
あなただって魔王軍から見れば『魔王軍の勢力内に現れて大暴れする人間』なわけだし」
そう言われてライカは、自分のこれまでの旅路を思い出していた。
確かに、人間の国同士で戦争していることもあった。
その状況と、魔王軍と人間との戦いは、言われてみると同じようなものだったようにも思う。
ライカが反論してこないので、ファイレーンはそのまま続けた。
「ではなぜ魔族と魔王軍だけが、人間族の様々な国家から共通して敵意を向けられているのか?
それは・・・・」
そこまで言ったとき、ちょうど4人は迷宮の出口を抜け、外に出た。
辺りは夕焼けに染まっている。
シルフィアの魔術はそのまま、空に向かって高度を上げた。
目の前には深い森が広がり、
その先には、高台の上に広がる巨大な城塞と、その中心で一層高くそびえる鈍く黒く輝く城・・・・
魔王城があった。
魔王城と周囲の城塞は、先ほど魔術映像で見たように、ドラゴン達との戦いをいまだ繰り広げていた。
その姿をライカが見つめるのを確認してから、ファイレーンは続ける。
「それは、魔族と人間族・・・・そしてドラゴン族の成り立ちに関りがあるのです。」
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