第13話 「邪悪な研究で生み出した秘密兵器」

 ファイレーンの居城に勇者とシルフィアが突撃した時。


「・・・・・」


 一つの影が、勇者とシルフィアの様子を観察し、そして、気づかれないように密かに、別の入り口から城内に入っていった。


 ◆


 勇者ライカとシルフィアは、ファイレーンの居城の中を突き進んでいた。

 城の中にもモンスター達は現れたが、外で大勢に囲まれた時ほどの量ではない。


「モンスターの殆どは外の戦いに集めていたみたいだね」


 シルフィアはそう言ったが、ライカはそういった推察は興味がないようだった。

 出てきたら叩き潰す。それだけだ。


 ただし、外のモンスターも城内に徐々に入ってきているので、あまり悠長にはしていられない。

 数が多すぎて入り口や途中の通路でつまり気味なのが救いだが。


「ライカ!下への階段があったよ!」

「よっしゃ!降りるぞ!」


 取り合えず下に降りて行こう、というのはライカの発案だった。

 地下を後回しにすると、外のモンスターが押し寄せてきたら地下に入れなくなるから、という事だった。


 納得できるような、逆に危険なような、とシルフィアが思ったが。

 その選択の結果勇者が地下で不利になることがあるなら、それはそれでいいだろう。


 どっちにしろ、ファイレーンには「地下に誘導してほしい」と言われていたし。


 地下をしばらく進むと、かすかに人の気配がしてきた。


「ライカ!あっち!」


 そちらの方は灯りが強くなっていた。

 向かうと広場があった。

 地下にしてはかなり大きい。天井の高さもあり、集積場か、実験場が・・・・

 見方によっては闘技場のようにも見える。

 その広場からつながっているいくつかの通路の一つ、その奥の牢屋の中に十数人の人間が閉じ込められていたのが、広場からかすかに見える


 あちらも、ライカとシルフィアを見て驚いて立ち上がっている。


「さらわれてきた人たちが捉えられてるみたい!!」

「そうみたいだな。だけど・・・・!」


 シルフィアはそちらに駆け寄ろうとしたが、ライカがその場にとどまったので、それに合わせて途中で止まった。


 その瞬間。


「フェリアヘイズ!」


 どこからともなく声が響くと、広場の中が炎に包まれた。


「クッ・・・!エアルフェイド!」


 シルフィアは急いで、自分とライカを風の防御壁で包んだ。

 これで焼かれることはなくなったが、それでも炎で行動を制限されることにはなってしまった。


「ふふふ・・・」


 炎の陽炎の中から一人の女性が現れた。もしくは、炎そのものがその女性の形を成したのかもしれない。

 赤命せきめいのファイレーンだ。


「よくここまで来ました。あの軍勢を突破してくるとは・・・。

 信じられない、とは言いませんが、驚嘆に値するのは事実です」


(どんどん大仰な言い方になってる気がするな)


 シルフィアはファイレーンの演出と演技に関心しだした。


「ケッ!うっとうしいだけの雑魚を沢山けしかけて、ボスはさっさと逃げてるくせにずいぶん偉そうだな。」

「フフフ。すいませんね。私は頭脳労働の方が好きなので、あまり肉体労働はしたくないんです」


 ライカは睨みつけながら言ったが、ファイレーンはむしろ嬉しそうに笑いながら答えた。


「しかし、この先に進まれるのは困ります。

 私の大事な研究成果がもうすぐ花開くところなので・・・」


 ファイレーンは困った、という表情を作った後・・・・

 再び怪しく笑って宣言した。


「勇者様には私の作品の実験台になって、そしてここで死んでもらいましょう」

「うるせぇぇえええええ!」


 ライカはしびれを切らして。もしくは、ファイレーンの気勢を削ぐためか、

 とにかく一気に剣を抜いて、炎にかまわずファイレーンに突っ込んでいった。


 だが――――


「!!!」


 キィィン!!


 ライカは急に立ち止まり、何かの衝撃を受け止めた。


 影―――が通り過ぎた気がしたが。


(速い!)


 シルフィアも驚きを隠せなかった。

 この場所で使うモンスターは、これまで以上に頑張って作った自信の新作。

 ファイレーンにそう聞いていたが、実際に見るのはこれが初めてである。


「・・・チッ」


 ライカは傷こそおってはいないものの、舌打ちした。

 先ほどの一瞬の間に、ファイレーンはライカから距離を取って空中に浮いている。


 追いかけるようとしてもいいが・・・先ほど一撃を入れた何者かを警戒せざるを得なくなった。


「気を付けてくださいね。彼は、勇者であるあなたのこれまでの戦いのデータを研究して生み出した全く新しいモンスターです。

 あなたに勝つために生みだされた存在ですよ。

 彼を生み出すのは苦労したんです。たくさんの人間たちにしてもらいましたから・・・」


 ファイレーンは思わせぶりにそう言って、

 再び姿を消してしまった。


 先ほどの影の気配は・・・魔力の炎のせいで分かりづらいが、かすかに感じる。

 しかし捉えるのが難しい理由は、炎のせいだけでないことが分かった。


(気配を消しながら・・・高速で周囲を移動しているんだ・・・)


 そう分析しながら、シルフィアも緊張していた。

 なぜなら、外のモンスターもそうだったが、このモンスターも、シルフィアを敵として認識しており、状況次第で攻撃してくるからだ。



 感覚を研ぎ澄ます―――


「!!!」


 シルフィアに向かって飛び込んでくる陰に、

 間一髪のタイミングで、シルフィアは自分自身を風で吹き飛ばして避けた。

 刹那の差で、シルフィアが先ほどまでいたところは斬撃で大きくえぐられた。


(ゲェ!!)


 正直勘弁してほしかったが、影はまだシルフィアを標的にしているようだ。

 またこちらに向かって気配が迫る。


 同じように風の力で避けるが、広場の所々の壁が崩れていった。


「シア!ここは・・・」

「ごめーん!ボクにはちょっとキツイや!ボクはファイレーンを探すから、ここは任せたよ!」


 ライカが何か言いかけていたが、それに気づかずシルフィアは先にそう言った。

 言った後で、もうちょっと待ってライカの言葉を待てばよかったと後悔した。


(「ここは任せろ」って言おうとしたのかな。

 それなら、ボクが自分から逃げたみたいにならなくてすんだのに)


 予定通りだったとは言え、ちょっと気まずかった。


 ともかく、シルフィアは近くの通路からその姿を消した。


 広場に残されたのは勇者ライカ・・・そして・・・・

 また影が迫る!

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