第12話 勇者VS赤命軍団

 動く鎧リビングメイルを斬ればバターのように切り!

 動く人形リビングドールを蹴れば土くれのように粉砕し!

 石を投げれば動く石像ガーゴイルの翼がもげる!


 勇者ライカと赤命せきめい軍団の戦いはそんな感じだった。


(うわー。改めて見ても本当に怖いなー・・・)


 シルフィアはライカの邪魔にならないように、少し距離を開けながら、

 風の魔術でモンスターを適度に倒しながらライカの戦いぶりを観察していた。

 勇者の力の秘密を探るのも彼女の重要の仕事の一つだ。

 ここまでの道中で出会った野良モンスターたちとの戦いは、相手が大した強さではなかったので参考にならなかった。

 今回、ファイレーンが用意したモンスターの軍勢は、それらのモンスターよりも格段に強力な、魔王軍の中でも先鋭と言える実力だった。


 これはファイレーンがその錬金術と魔力で生み出すものなので、今回ファイレーンはかなり頑張ったことだろう。


 しかし・・・。

 その結果は先ほどの様子のとおりである。


 そこらの野良モンスターとの戦いと大差ない結果であった。


(このモンスター達は、地方の前線隊長クラスより強いくらいだから・・・。

 前線隊長たちに見せたらショックでやる気無くしちゃうね)


 シルフィアは魔術の杖を振って生み出した無数のカマイタチでモンスター達を切り刻みながらそんな事を考えた。


 ただし、戦いはじめは少しひと悶着あった。


 ◆


「おい、シア」

「な、なに!?」


 いざモンスター達と戦おうとしていたところに呼びかけられて、シルフィアは気勢を削がれた。

 ライカはモンスターの攻撃を捌いて避けながら続けた。


「あのファイレーンってやつは、そこらの村人をさらって人体実験してる・・・って話だけど、このモンスター達は、その村人が材料・・・ってことか?」


 ライカは表情も口調もいつも通り攻撃的なものだが、


(・・・元人間と戦わないといけないのか、ってことか。

 流石に気になるところか・・・)


 もしここで、「あのモンスターは元人間だ」とか、「まだ人間に戻せるかもしれないから攻撃しない方がいい」と言ったら、どうなるだろうか。

 要するに人質戦法だが、魔族も人間も時々やる奴が出てくるものである。

 つまり悪趣味ではあるが珍しいわけではない。


 これで勇者の手が鈍って倒せる可能性が出てくるなら、それでもいいのかも知れない。

 ファイレーンの演出は「残虐非道」な魔族という事なので、その設定に合っているようにも思える


 ただ、人質戦法は諸刃の剣である。

 逆にブチ切れて徹底的に叩きのめされる、ということもある。

 ライカの気性だとその可能性も高いだろう。


「・・・さぁ、分かんなよ。そうかも知れないけど、魔王軍ではよく見るモンスターだから、そうじゃ無いかも知れないし」


 結局シルフィアは「人間の魔術師シア」が言いそうな範囲の回答をした。


(本当はファイレーンの生み出したモンスターが元人間とか人間が材料なんてことはないんだけど)


 そこまで知っているのは不自然だろうし、そこまで教えてあげる義理もないだろう。


「チッ。そりゃそうだよな」


 そう言うとライカは攻撃に転じたが、それは剣ではなかった。


 動く鎧リビングメイルを蹴り飛ばすと、鎧の中身は何もなかった。いわゆる普通の動く鎧リビングメイルだ。中に人間が入っていたりはしない。

 動く人形リビングドール動く石像ガーゴイルも、少し砕いてみて普通と変わらない事を確認する。


「まあホントのところは分からねぇが、この状況じゃ仕方ねぇか。

 もし人間だったらすまねぇな。化けて出てくれたら頭くらい下げてやるよ!」


 そう言ってライカは思いっきりモンスター達をぶち壊しにかかった。


 と言うことが、戦いのはじめにあったわけだ。


 ◆


「ソリドエアリア!!」


 シルフィアは空気を固くして敵の動きを鈍くする魔術を唱えた。

 ただし、この魔術は鍛えていない人間相手なら、その動きを大きく阻害することができるが、今戦っているレベルのモンスター相手だと気休め程度だ。


 ただ、シルフィアも一緒に戦っているフリはしないといけないので、

 サポート魔法としてはちょうどいいだろう。


(まあ実際は、サポート魔法何て必要ない感じだけど)


 相変わらずライカはモンスター達をちぎっては投げ、ちぎっては投げしている。


 ただし、その表情に余裕はなく、かなりイラついているようだ。


「チッ!こりゃ確かに面倒な相手だな」


 ライカとシルフィアは、先ほどから殆ど先に進めていない。

 モンスター達が、地上と空から、いくら倒しても倒しても、絶え間なく攻撃を加えてくるからだ。


 元々の数が多いこともあるが、壊しても壊してもその場で勝手に修復されて甦ってくるのが大きな原因だ。


「こいつら不死身か!?

 今まで同じモンスターを倒してきたけど、こんなに復活してこなかったぞ!?

「ファイレーンが近くにいるからかも!」


 シルフィアはそう言った。

 実際のところ、理由はその通りだった。


 ファイレーンは自分が生み出したものに命を吹き込む。

「命の炎」がそれぞれのモンスターの中にコアとして納められている。

 それがある限り、よほどのことがなければ自動的に復活するのだ。


 もちろん、吹き込まれた魔力が切れれば復活しなくなるが、

 ファイレーンが近くにいると供給される魔力量が上がり、より何度も復活することができる。

 さらに今回用意されたモンスターは特別製で、普通より多くの魔力を注入されているからなおさらだ。


(このままジリ貧させれば勇者を倒せるかな?)


 ライカが疲れたところをシルフィアが不意打ちすれば・・・。


 そんなことを考えていたが、次の瞬間ライカが吠えた。


「じゃあこれならどおだぁあああああ!!!」


 剣を力いっぱい振りかぶるとモンスターの集団に向かって思いっきり振り下ろした。


 ドガァアアアアアアン!!!!!


 とんでもない音をたててモンスターが4、5体まとめて粉々になった。

 隠されていたコアもろともだ。

 地面には大穴があいている。


 続いて襲ってくるモンスター達を吹き飛ばしながら、先ほど粉々にしたモンスターの様子をしばらく観察し・・・・。


「よし!細かく潰せば復活しないぜ!!」


 ライカはガッツポーズを取った。


「いや、剣を振り下ろしてできる跡形じゃないだろ、それ!」


 ライカの剣は普通サイズの剣だ。

 魔力は込められていない様子なのに、なんでそうなるんだ?


「こういうのは気合いだよ、気合い!

 お前もそんなチマチマ壊してないで、ここら辺まとめて全部すりつぶすような魔術でドグチャアっとやってみろよ」

「イヤだよ!そんな擬音を出すような魔術」


 四天王としての力を隠さなければ似たようなことはできるとは思うが、このモンスター達をシルフィアが全部処理したらさすがにファイレーンが怒るだろう。


「じゃあどうすんだ・・・よっと!」


 そう言ってライカはモンスターをまた6体くらい粉砕した。


「全部倒すわけ?できなくはないだろうけど、面倒くさいよ」

「そうだな。オレもそう思ってたところだ。

 さっさと城の中に入ってファイレーンをぶっ飛ばした方が早いよな」

「3秒、モンスターを近寄らせなければ、何とかしてみるけど」

「よっしゃ!任せろ!ちょっとしゃがんでろ!」

「えっ!?」


 ライカは言うやいなや、剣を両手で持って肩に担いで片足を上げて横向きに振りかぶった。

 シルフィアは、ライカが何をしようとしているか、ピンと来てしゃがむ・・・だけでは不安なので、慌ててその場に突っ伏した。


「おりゃぁぁぁあああ!」


 ライカは剣を思いっきり横向きに振りぬき一回転した。


 衝撃波が周囲一帯を―――シルフィアの頭の上スレスレも通って―――思いっきり吹き飛ばした。


「ひぇぇ!」


 シルフィアは小さく悲鳴を上げたが、

 注文通り、モンスターがいない時間と空間が現れた。

 ここはやるしかない。


「ガスティカノン!!」


 地面に這いつくばったまま、そう魔術を唱えると、魔力の風がライカとシルフィアを包み込み―――

 凄い勢いで二人をモンスターの大軍に向かって吹き飛ばした!!


「ゲェ!?」


 今度はライカが悲鳴を上げる。このままだと・・・・


「モンスターにぶつかるよ!ぶっ飛ばして!!!」

「そういうことかいぃぃいいいい!!」


 ライカは叫びながら目の前に迫るモンスター達を粉砕して突き進んだ。

 シルフィアはその後ろで小さくなってモンスターの破片をやり過ごした。


 そして―――


 ドッォオンン!!!


 そのまま城の入り口に突っ込む!!


 何とかモンスターの大軍を突破したのだ。


「てめぇ!何でモンスターじゃなくてオレたちの方をぶっ飛ばすんだよ!」

「キミだっていきなり剣を振り回して!当たったらどうするんだ!!」


 大騒ぎでケンカをしながら、

 また囲まれないように、取り合えず城の奥に二人で急いで走りだした。


 ◆


「なんか・・・本当に仲良くなってますね。

 シルフィアは元々明るい子だけど、人と仲良くなる才能があるのかしら・・・」


 勇者とシルフィアの様子を映像でのぞき見しながら、ファイレーンは感心していた。


「まあともかく、ここまでは計画通り・・・。

 さて次は、の出番ですね・・・・」


 ファイレーンは、部屋の中心、魔術陣の中で出撃の時を待つ「秘密兵器」を眺めて、不敵な笑みを浮かべた。


「フフフ・・・・。

 ・・・何か演技でやってるつもりだったけど、この喋り方もだんだん楽しくなってきましたね。フフフ・・・」






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