第14話 忍びよる者
ライカは今度は影に合わせて剣を振った。
ギィイン!!
ダメージを与えたかったようだが、これも剣同士がはじき合っただけのようだ。
影はまた周囲を走る。
何度か同じことを繰り返したが、結果は変わらなかった。
そのうち、シアが残した風の守りも効果が弱まってきた。
「・・・・」
ライカは無言で剣を再び構えたが、先ほどとは構えが違う。
「・・・!!!」
影にかすかな動揺が走った・・・ようにライカは感じた。
ライカの構えは、駆け出すための準備態勢だった。
次の瞬間、ライカは一気に加速した!
迎え撃つのをやめたのだ。
ハイスピードで影と交差し、そして追いすがり、
そして影に何度も剣戟を繰り出す!
先ほどまではすれ違いざまの一撃だけを捌いていた影だったが、
近いスピードで何度も斬りつけられることで、ついにその衝撃を受け流しきれなくなった。
ドカッ!!!
その衝撃に吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
影はすぐに立ち上がるが、その後すぐに駆け出すことはせず、その場にとどまり構えを取った。
ライカも、炎が比較的弱い場所を選んで動きを止め、構えながら相手の姿を見やる。
手には短めの直刀を二本構えている。
軽装の鎧を着ているようだが、その周りに、この広場での保護色となる布を全身、顔にまで巻きつけている。
その奥の目は鋭い殺気を放っている。
先ほどの
それとも、今度こそさらった人間を使っているのだろうか。
それは定かではないが・・・
と、その時、広場に声が響いた。
目の前のモンスターから・・・ではない。
「どうですか?私の秘密兵器は」
ファイレーンだった。先ほど消えた時と同じような位置に、また浮かんでいる。
「・・・どっか行ったんじゃなかったのか」
目の前のモンスターから意識はそらさず、ライカはぶっきらぼうにそう言った。
「とんでもない。言ったでしょう?実験台になってもらうと。
研究の成果はちゃんと観測させてもらいますよ」
そういう命令なのか、目の前のモンスターはファイレーンが喋っている間は襲い掛かってこないようだ。
と、思わせて急に飛び掛かってくるかもしれないので気を抜けないが。
ファイレーンは饒舌に続ける。
「なかなかやりにくいでしょう。
勇者、あなたは確かに人間にしては強い。
グランザとの戦いも見事でしたね。相手がグランザとは言え、あれでも四天王の一人でしたのに」
ファイレーンは口元を手で隠して笑っている。
「私はあなたとグランザの戦いもしっかり研究させていただきました。
あなたを倒すのに必要なのは力でしょうか?いいえ、そうではない」
ファイレーンは口元の手の形を変え、人差し指を立てた。
「必要なのはスピード、と私は考えました。
スピードに特化し、あなたの目にも捉えられることなく影のように斬撃を与える・・・。
スピードだけならグランザを上回る特化型モンスター」
一呼吸おいてファイレーンは続けた。
「
どうです?素敵な名前でしょう」
そう言ってファイレーンはライカの様子を観察しているようだった。
「・・・何が言いたいんだよ」
「何がということはありません。ただ、自慢したかったのですよ。
これを作るには苦労したんですから。色々と、ね。
あなたがこれですぐに死んでしまったら、自慢する相手がいなくなっちゃうでしょう?」
「そうかい」
ライカは、これ以上話しても意味のある会話は生まれないと判断して剣の構えを深くした。
「じゃあさっさと終わらせて、自慢できなくしてやるよ!」
そう言うと、ライカは先ほどと同じような速さで自分からナイトブレードに突っ込んだ!
ナイトブレードに向かって剣を振り下ろすが、今度はナイトブレードが高速で剣を避け、再び高速の影となって四方八方に動き回る。
「チッ!」
ライカは苛立ちながら影の動きを追った。
先ほどよりも速い!
ライカも先ほどのように、高速で動いてナイトブレードを迎撃しようとするが、
何度か切り結ぶが決定的な一撃を入れられない。
ガキィン!!
次の瞬間、ライカの手から剣が弾かれ地面に落ちた!
「!!」
ファイレーンが思わず目を見張る。
勿論ナイトブレードは真剣に、本当に頑張って作り出した自信作だが・・・、
(まさか、本当にこれで倒せてしまう!?)
ファイレーンはライカの動きを注視した。
ライカは急いで落とした剣の方へ向かう、が・・・・
剣にたどり着く前に、ナイトブレードが丸腰のライカに背後から迫る!!
(あ・・・!)
ファイレーンが嫌な予感がしたその時、
まさにナイトブレードの刃がライカに迫った瞬間、
ライカは自分の体をぐるっとひねる。その勢いも使って、
「うぉりゃぁぁぁああああ!!!!」
ライカが吠える!
ナイトブレードは両手の剣を封じられたまま、さらに体をぐるっと回転させたライカによって地面に叩きつけられた!!
ライカはナイトブレードを地面に抑えつけたまま、その片腕を思いっきり蹴り上げた!
すると、ナイトブレードの腕はひしゃげ、関節の部分がぶらりと外れかかった。
中身は空洞。
ライカは、中身が人間などではないことを確かめたようだ。
するとすぐそばにあったライカの聖剣を掴み、ナイトブレードの体に思いっきり叩きつけた!
ドガァァン!!!
斬るというより粉砕する、という攻撃で、
ナイトブレードの鎧はひしゃげ、その下の地面は陥没し、周囲の炎も吹き消してしまった。
(やられた!剣を落としたのはワザとか!)
速さに対抗するより、捕まえることを選んだのだ。
剣を落としたのは油断させて攻撃を誘い込むためだった。
その上、すぐに剣を手に取れる位置まで誘導されていたのだ。
「フン!」
ライカは降ろした剣を持ち上げながら息を吐いた。
「確かに速かったけど、それ以外に工夫がないんじゃな!
これでグランザより強いなんてよく言えたよなぁ!」
そう、ライカがファイレーンを挑発した。
ファイレーンは、顔から笑みは消えていたが、しかしうろたえてはいなかった。
冷たい目でライカと、粉々に倒れているナイトブレードを見ていたが・・・
「フッ」
すぐにまた笑みをこぼした。
「流石ですね。あんなメチャクチャな方法で倒してしまうとは。
しかし・・・」
そう言ってファイレーンが手をかざすと、ナイトブレードの破片が急に大きな火に包まれた。
「!」
ライカが急いで炎から距離をとる。
と同時に、ナイトブレードの破片は浮きあがり、ファイレーンの隣まで引き寄せられ、そして急速に元の形に戻っていった。
「・・・外のモンスターと同じくらい粉々にしておいたんだけどな」
「残念ですね。ナイトブレードは特別製。しかも私がそばにいるので、
回復力が格段に上がっているのですよ」
そう言っている間に、確かにナイトブレードは完全に元に戻ってしまった。
「さあどうしますか?
先ほどは確かに倒されましたが・・・何度でも復活して、あなたを確実に追い詰めてあげます!!」
ファイレーンがそう言うと、ナイトブレードは再び超スピードで周囲を移動しだした。
「ケッ!馬鹿の一つ覚えだな。何度やっても同じだぜ!!」
ライカは構えを取る。
ちょうど、ナイトブレードがライカに向かって突進してくる気配を感じ、ライカも迎え撃つべく駆け出す。
しかし・・・
「もういい。時間の無駄だ」
重く―――、鋭い声が響いた。
「!!」
ライカは急停止した!
だがナイトブレードはそのまま突っ込んできた。
そして―――
ズシュア!!!!
ナイトブレードの体は、突如として現れた銀髪の男・・・・
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