新年の猫

ふさふさしっぽ

あけましておめでとうございます

※元日の話です。


ココア「新年あけまして」

マシュマロ「おめでとうございます」

ココア・マシュマロ「今年もよろしくお願いします!」


マシュマロ「……なあココア、俺たち誰に言ってるんだ?」

ココア「そゆこと言わない」


工藤あかり(二十九歳・独身女性)に飼われている二匹の猫、黒猫のココアと白猫のマシュマロは、彼女のアパートで二匹並んで正月を迎えた。

猫に新年とか正月とか関係あるの? 猫っていつも正月じゃん(笑)っていうのはいいっこなしだ。


「あかりちゃん、ずっと寝てるね……」

「ああ。ずーっと酒飲んでるか、寝てるかだ」


 ココアは嘆息し、マシュマロは呆れている。


「せっかくの長いお休みなんだから、一緒に遊びたいよー」


 ココアはベッドの上に飛び乗り、だらしなく眠っているあかりの顔を、前足でちょんちょんした。当のあかりは「ちょっと、私はまだ二十八よ……」という謎の寝言を言い、また深い眠りに落ちてしまった。


「仕方ねえよ。あかりも仕事で疲れているんだ。昨日『私は明日から寝正月! ゴロゴロニャーだ!』とか訳分からないこと言ってだだろ」


 マシュマロはテーブルに飛び乗り、散乱した缶チューハイの空き缶を転がして遊び始めた。ちなみに猫たちが誤って食べてしまいそうなつまみ類はきちんと袋に入れて、片付けられている。人間の食べ物は猫には塩分が多すぎるし、喉に詰まらせたりしたら大変だからだ。

 悲しいかな、猫を飼っている人間というのはどんなに酔っぱらってもテーブルの上に食べ物を出しっぱなしにしなくなるのだ!


「そうだったね。一年間お疲れ様、あかりちゃん」


 ココアがそう言いながらあかりにすりすりしていると、


「ココア、テレビを観ていて知ったんだが、俺が一発芸を披露してやろう。暇だしな」


 マシュマロが袋入りみかんから前足で器用にみかんをひとつ取り出し、テーブルを転がし、床に落とした。

 みかんが床に着く前にマシュマロは素早くテーブルから降り、みかん着地地点で丸くなる。

 みかんは見事、マシュマロの白く丸い背中に乗った。


「鏡餅!」


「下らないことよせよ、マシュマロ。それに鏡餅は二段じゃなかったっけ」


 ココアは冷めた口調でそう言うと、あかりの布団の上で丸くなった。

 丸くなった黒猫と、みかんを乗せて丸くなった白猫。

 一時いちじアパート内は静まり返った。


「ううん、なんか重い……ココア?」


「にゃんにゃん、にゃん!(あかりちゃん、起きたの?)」


 ぐっすり眠っていたあかりがココアの重みで起きた。

 あかりはのろのろと起き上がると、まだ夢から覚めていないような足取りで、猫用フードを出しに行った。アルコールが完全に抜けていないのかもしれない。


「にゃにゃ、にゃんにゃ!(やった、ごはんだ!)」


 ココアがしっぽをぴんと立て、あかりの足にまとわりつく。あかりはフードをトレイに入れ終わると、飲み水を変え、猫用トイレをチェックし、綺麗に掃除した。

 悲しいかな、猫を飼っている人間というのは、どんなに眠たくても、猫の世話のために体が自動的に動いてしまうのだ。


 猫が寒くないように、エアコンの設定温度を確認しながら、あかりはあたりを見まわす。


「マシュー、あんた何やってんの」


 姿が見えないと思っていた白猫、マシュマロはテーブルの下で丸くなっていた。

 丸くなったマシュマロの上に、みかんがひとつ乗っている。


「鏡餅みたい」


 あかりはふっと噴き出した。


「にゃんにゃーにゃん。にゃにゃにゃん(分かったか、あかり。俺の一発芸を)にゃ、にゃーんにゃ(さあ、いつものように撮影していいぞ)」


 あかりがスマートフォンで鏡餅となったマシュマロを撮り終えると、マシュマロもあかりの足元にすり寄る。


「あ、みかんが」


 床に落ちてしまったみかんをあかりが水洗いしているあいだ、ココアとマシュマロはフードを二匹並んで食べていた。

 あかりはスマートフォンを見て「まだ三時か……」と呟く。もちろん夕方の三時である。

 もうひと眠りしようと、あかりは再び布団の中へ。あっという間に夢の中へ。


「ああ、お腹いっぱい。さあ、あかりちゃん、遊ぼうよ~。ってあかりちゃんがいない?」


 満腹となり、顔を洗い終えたココアが叫ぶ。


「あかりはまた寝たぜ」


 同じく満腹となったマシュマロがあくびして言った。


「そんな~」


「俺たちも寝ようぜ。俺は眠くなった」


 鏡餅を撮影してもらい、ご機嫌なマシュマロはあかりのベッドに飛び乗ると布団の中に潜り込んだ。


「あ、ずるいぞマシュマロ。特等席を独り占めするなよ」


 ココアも急いであかりの布団に潜り込む。

 猫は暖かい。

 猫がいると湯たんぽ要らずである。布団の中で身動き出来なくなるけど。


 一人と二匹の寝正月。

 こうして元日は終わって行くのでした。



 終わり。



♦♦♦♦♦


 三が日までにアップするつもりでしたが三日までだらだらしていたので今になってしまいました。

 物語の中は平和ですが、現実はとても正月を手放しで祝えないようなことが起こってしまいました。

 これ以上、災害や事故等、何も起こらないことを祈るばかりです。

 


 



 





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