ヨークシャーテリアの花屋第3話

@peacetohanage

第1話

さて太陽がてくてくとと天頂を目指す頃、花屋にはまた一人てくてくとお客が現れます。

店主のヨークシャーテリアは額の汗を拭い、お客に声を掛けました。

「はい、いらっしゃい。白鳥さん、遠くの湖からよく来ましたな?」

白鳥はまず礼儀正しくお辞儀をします。

「こんにちは。あぁ、この気持ち!一体どうしたら良いと言うのでしょう」

それから舞台役者のごとく両翼を勢いよく広げました。

ただならぬ様子に、ヨークシャーテリアは目をぱちくりとさせます。

「どうかしたのですかな?一体何があったのです」

白鳥は再び翼を降ろします。

そうして荘厳な溜め息を吐くなり、嘴を開き出しました。

「私はね?お城の近くの湖に住んでいるのです。それでふとお城の塀の先が気になって…勇気を出して飛んで行ってみたのです。そしたらかつて見た事の無い美しいお姫様が、一人青空の下でお歌の練習をしていたのですよ!」

「はぁ?」

ヨークシャーテリアはそれでと腕を組みます。

「私は雷に撃たれたかのごとく一目惚れをしてしまい、次の瞬間には思わずこう叫んでいた!どうか…どうか、お姫様!私を貴方のフィアンセになさってくださいませ。すると美しいお姫様は歌を止め私を一目見てから、こう言ったのです。『残念ですわ!白鳥さん、白鳥と人間では恋は出来ませんの』」

白鳥は話し終わるとがっくりと項垂れました。

「そうですか…。それならこのウイキョウはどうです?」

ヨークシャーテリアはそう言って、側にあったウイキョウの鉢を指差します。

今度は私の番だと、ヨークシャーテリアが口を開き出しました。

「ウイキョウの花言葉は背伸びをした恋です…。まさに失恋をした今のあなたにはぴったりかと。それからウイキョウは伝統的なハーブの一つ、ハーブティーとして飲めば、食欲増進の効果があるのです」

「それは本当かい?何だか失恋してから、胃の辺りがもやもやしていたのさ。今日はこのウイキョウにするとしよう」

「それはどうも、どうも。お買い上げ、ありがとうございます」


こうして落胆をしていた白鳥が、ちょっと元の調子を取り戻して鉢を抱えて歩き出すと、ヨークシャーテリアは丁重にお客を見送ってやりました。

さて、花屋の仕事は盛沢山!

ヨークシャーテリアは、せっせと仕事に戻るのでした。


おわり

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