第8話 再会

インターホンに映った両親だった人達を見て、思わず反応を返してしまう。


「父さん…母さん…」


「その声は明斗か。久しぶりだな」

「元気だった?」


血縁関係がある以上、親に対する呼び方をする。

しかし、それが腹立たしく気持ちが悪い。


そこに違和感を感じとったのか、紗希がやってきた。

「どーしたの?」


「両親が来た」


「え!?明斗くんの?」


「そうだよ」


すると紗希の顔は険しくなり


「この際、私からガツンと言ってやる!」


と言い、玄関から出ようとしたが俺が止める。

紗希は「どうして止めるの?」とばかりに俺を見る。


「自分の過去ぐらい、自分でけじめをつけるよ」


「そう…」

紗希は俯きながら呟いたが心中はというと…

(か、か、か、か…かっこいいッッッ!!!)

(こんなときにときめいちゃうのはダメだけど…流石にずるいよ…)

全然場違いなことを考えているのだった。


❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇

俺はインターホン越しに

「今から行くから待ってて」


そう言って玄関を出る。


そして、エントランスに行くと案の定本当に両親は居た。


「おぉ…明斗久しぶりだな、元気だったか」


「まぁ、ぼちぼち」


「元気そうでなにより」

「しかも、こんな立派なタワーマンションに住んで」


「それは、居候させてくれてるから」


「噂で聞いたんだけど、あの冬野社長の娘さんと婚約してるって本当?」


やや興奮気味で母は尋ねてきた。


くそ…知らないと思ったから隠そうとしたのに、知っていたのかよ。

しかし、どこからその話を聞いたんだ。


「そうだけど?」

これ以上隠そうと誤魔化そうとしても無駄だ。


「おお!そうか!」

「良かったわ」


「いやいや…何で二人は喜ぶんだよ」


「え?だって」

「お前をここまで育てた親なんだから俺らにも金を貰う権利はあるだろう?」


「はい?」


「だーかーらー俺らに金を寄越せってんだよ」


「そうよそうよ」


全く…救いようがないな…コイツらは…

「誰がお前らなんかに金を渡すか」


「なんだよその口の利き方は!?」


「それでも私達の子供なの!?」


もう…相手にもしたくないな…。


「うるせぇ、お前らなんか親だと思ってない。

もうすでに縁は切れてるしな」


それに今の俺にとって親は冬野さん夫妻のみだ。


「言わせておけば……お前は黙って金を渡せばいいんだよ!!」


そう言って俺を殴ろうとしたその時ー


「どうされましたか?」


太田さんと共に紗希がやってきた。


「なんで…来たんだよ…」

「だって…戻って来るの遅いんだもん…いい加減寂しいよ」


「おぉ!これはこれは冬野さん…」


父親がゴマすりモードになる。

しかし、

「そういうのいいから」

と一蹴される。

はっきり言って気味がいい。


「私にとって何よりも大切な明斗くんに嫌な思いをさせた人にあげるものは一つもないよ」


口調はそこまでキツくないが紗希の静かな怒りを感じる。


しかし、二人は怯むことなく、しつこく…もはや能天気と言っても過言ではないだろう、言い返し続ける。


「嫌な思いとは心外ですよ、逆にここまで育てたことに感謝してほしいものです」


「感謝って…あなたたち、ほぼ放置していたじゃない、それは育てるというのではなくネグレクトと言うのよ」


「はっ、あなたが我々家族の何を知っていると言うのですか」


「悪いけど…明斗くんの過去は調べてあるの、だからあなたたちの末路は知ったことではないけれど、明斗くんに関わることについては全て知ってる」


「言わせておけば…馬鹿にしやがって…!」


そう言って紗希に殴りかかる。

俺は咄嗟に間に立って父の腕をつかむ。


「このっ…!?離せ!!」


「もう昔の俺とは違うんだ…お前は衰え、俺は成長した…力関係は変わったんだよ」


「チッ…」

舌打ちを漏らす父。


「俺とお前らはもうすでに縁が切れている、だから、離婚したはずの二人が一緒にいる理由も金が欲しい理由も興味はない、だが、紗希に危害を加えようなら話は違う、死にたいのか?」


俺の脳内は怒りで支配されている。

紗希を傷つけようとしたクズに対してその怒りをぶつける。


俺は掴んでいる腕を思いっきり握りしめる。


「ぃ゙、ぃ゙痛ぃ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙!!!?」


「もうお前らは帰れ、そして2度とここに近寄ってくるな」


そうして、一件落着(?)した。


❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇


「ふぅ…」 


ソファにもたれかかりため息を付く。


一悶着あったが、なんとか解決とまではいかなくとも解消はされたのかもしれない。


空は真っ赤に染まり一日の終焉を示しているかのようだ。

そして、同時に完全に俺らの親子関係も終焉を迎えた。



「お疲れ様」


そう言って、俺の目の前にコーヒーの入ったマグカップを置き、俺の隣に座った。

俺は「ありがと」と言って紗希の肩を抱く。

紗希が露骨に密着してきたときはスキンシップを求めているのだ。


紗希は「むふー」と満足げな吐息を漏らし俺の肩に頭を乗せる。


「ありがとね、かっこ良かったよ」


「かっこいいって、思ってくれて嬉しいよ」

やっぱり大事な人の前でくらいはかっこいい自分で居たい。

だから、尚更守ることができてよかった。


「私、最高にかっこいい人と結婚するんだね」


「あのとき、紗希が踏み出してくれたから今があるよ、そうでなければ俺は周りを見る余裕もなかった」


「うふふ、やっぱり運命の人は早めに唾つけておかないとね」


「言い方が気になるな…」


お義父さんの言うことも間違いではなかったようだ。そんなことないだろって思っちゃった…ごめんなさい…。


「細かいことは気にしないの」


そう言って紗希は目を閉じる

これは完全にキス待ちだ…。


本当に困った“奥さん”だな。

そう思いながら向かい合い抱きしめて二人の距離を限りなくゼロにした。

 

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親に捨てられたら、なぜか美人お嬢様に拾われ同棲することになった キサラギ @novelsriteskamise

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