第3話 御道光と桐谷千佳




千佳ちか。最初、ぜんぜん食べてなかったね。仙涯実と丹賀歩に集中しすぎて」

「あはは。ばれてた?」

「ばれる。ばれる」


 御道光みどうひかりこと、私は友人の桐谷千佳きりたにちかに話しかけた。

 六人から四人になった合コンが終わって今、朝方。

 同じマンションに住んでいるので、一緒に家路を辿っているところだった。

 合コンがあった大衆居酒屋から徒歩十五分である。


「全員狙っている発言もだし、黒の丸サングラスもだし。危ない人かなと思ったんだけどさ。なんか、すごい、いい雰囲気で。あんなに二人だけの世界って見た事ないし。しかも、癒されるし。こう。浄化されるっていうの?あっという間にってわけじゃなくて、ゆっくりゆっくり、さ。日頃の疲れとかが取れていってさ。最初は、初めて合コンに参加するからって緊張して、今度は二人を見逃さないようにって、緊張して。でもいつの間にかその緊張も消えて。すごいなー。って」

「また合コンに参加していいって思えた?あんな風に二人だけの世界を紡げる人に出会いたいって」

「う~~~ん」


 腕を組んだ千佳の横顔を見下ろしながら、私は白い息を吐き出した。

 吐息は小さかったはずなのに、どういうわけだか、顔を覆い隠すくらい大きい。


「どうだろう。わかんない。すごいなーって。いいなーって。でも、うらやましい。はなかったから。私はまだ出会いを求めてないのかも」


 千佳は両の手を組み合わせて、ゆっくりと上げて、空へと掌を向けた。


「一回くらいは合コンに参加してみたいって、背伸びしたけど。実希みたいに、恋人がほしいって人じゃないと、失礼だよね。合コンに参加してる人たちに」

「まあ、私は実希に参加費を持つからって買収されて参加したわけだけど」

「あはは。いっぱい食べていっぱい飲んでたね。黙々とひたすら。でも、全然お腹も出てないし、すらっとしたままだし。顔も赤くなってない………わけじゃない、か。今、赤い」

「太陽に照らされているからだし。私が食べ物如きに体形を変えられるわけがないし、お酒如きに顔色を変えられるわけがないでしょうが」

「なんじゃそら」


 千佳が笑った。

 そよ風に舞うわたげのように、ふんわりと、そっと、やさしく。

 千佳に笑顔を向けられると、手で決して触れられる事ができない胸の奥が、こそばゆくなる。

 もっと向けてほしくなるような、もう、向けてほしくないような。


「………ねえ。今日はさ。朝と昼はさ。もう帰って寝る事くらいしかできないだろうけどさ。夜には復活してるだろうし。近所のレンタル屋さんに行ってさ、好きな映画を一本ずつ選んでさ、スーパーに寄って好きなものをいっぱい買ってさ。私の家で映画鑑賞しない?」

「うん。いいよ。起こしに来てね」

「電話するから起きてよ」

「電話無理。起こしに来て」

「肉まんひとつ奢ってね」

「電話頑張ります」

「肉まんひとつけちるなよ」

「けちります」




 じゃれ合いを続ける私と千佳が住むマンションはもう、すぐそこだった。












(2024.1.3)



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これが合コンか(個人の見解です) 藤泉都理 @fujitori

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