第2話
店員から注文を受け取り、俺たちは席についた。
単品のハンバーガーの包み紙を開いて、中身にかぶりつく。安っぽいケチャップの味と、もそもそとしたバンズの食感が口に広がった。
少女の方はというと、ちゃっかりとチーズバーガーのセットを頼んでいた。しかもダブルで。
「で、理由くらいは説明してもらえるんだろうな。えーと……」
「
どう呼んだものかと思っていたら、少女は自分の名前を名乗った。
「へんな名前」
「うっさいわね。そういうあんたは?」
「俺は……
「たまきぃ? 何か、女の子みたいな名前ね」
「ほっとけ」
こいつ、人が密かに気にしていることをずけずけと……。
俺は、トレイに乗ったセットのポテトに手を伸ばした。
「あ! ちょっとそれ、わたしのポテト!!」
「金払ったのは俺じゃねーか」
「ポテトくらいでケチケチしないでよ」
「お前が言うな、お前が」
少女にツッコミを入れ、俺は再度質問する。
「さっきの男から、逃げてるみたいだったけど」
「あー、うん……」
俺の質問に、音々は歯切れが悪そうに言葉を選んでいる。
プロレスラーもかくや、といった体躯の男のことを思い返す。その身から放たれる異様な存在感は、周りの通行人から明らかに浮き上がっていた。何らかのスポーツでもやっているのか、そうでなければ、もっとヤバげな、自由業的な仕事にでも就いているのか。いずれにせよ、あまり関わり合いになりたくない類の人種だ。
男と音々との関係性が想像できなかった。一瞬だけ悪の組織に追われている謎の美少女、とかいう単語が頭に浮かんだが、流石にそれはないだろうと即座に否定する。漫画やラノベじゃあるまいし。
だとすると、余計に接点がよくわからない。恋人や友人……というには、歳が離れすぎている。というか、恋人だとしたら軽く犯罪である。かと言って、親兄妹というにはまるで似ちゃいない。
「あいつとは、その……仕事仲間、みたいなものよ」
「仕事……? お前、バイトでもやってんのか?」
「あ……うん、そんなとこ」
バイトしてるということは高校生くらいなんだろうか。てっきり中学生くらいだと思ってた。
「なんか、すごく失礼な想像されてる気がするんですけど」
「き、気のせいだ、気のせい」
ジト目で睨みつける音々の言葉を、俺は慌てて否定する。
それにしても、なるほど。バイトの同僚か。タネが判ればどうということはない、普通のオチだ。おおかた、バイト先でなんか嫌なことがあってバックれたといったところか。なんというか、変な心配をして損した気分だ。
「さて、それじゃあ俺は行くぞ」
包み紙をくしゃりと丸め、俺は席を立つ。
「えっ……?」
「え、じゃないだろ。見ず知らずの人間にハンバーガーまで奢らせといて、まだ何かあるのか?」
「べ、別に、ないけど……」
「じゃあな。サボりもほどほどにしとけよ」
立ち去ろうとした俺のジャケットの裾を、音々がぐっと掴んだ。
「ちょ、ちょっと待って!」
「……なんだよ?」
「そ、その……さ。せっかくだから、どっか遊びに行かない? わたしもこの後ヒマだし、一人で歩いてると、またあいつにまた見つかりそうだし……」
「あのなあ……」
裾を掴んでいる手を払おうと振り返った瞬間、音々と視線がぶつかった。
「……はあ」
俺は大きくため息をついて、再び席に座る。ついでにトレイから、ポテトを一本摘まんでやる。
「珠樹……?」
「ほれ、早く食べろ。遊びに行くんだろ?」
音々はきょとんとした表情で、俺の顔を見ている。
「ほ、ほんとにいいの?」
「よくないなら帰るけど、それでいいのか?」
「あ、ウソウソ! ちょっと待ってて、すぐ片しちゃうから!!」
そう言って、目の前のハンバーガーをパクつき始める。
「いや、そんながっつくなって。一応、女の子だろ」
「一応は余計よっ!」
音々はハンバーガーを喉に詰まらせ、慌ててジュースで流し込む。その様子を眺めながら、俺は自分の甘さ加減に苦笑していた。
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