中編 夏の空


「なっこー」

「新村くん呼んでるよ、なっこ」

「なっこじゃないもん」

「だってさー新村ー」


俺もう帰るからーと謎の報告

私はお前のオカンか


「ってかなんで、なっこ?」

「夏呼が“なつこ”にしか読めないって、中学の時からかわれて...」

「まー、確かに読めないけど」

「悪ノリしたこうちゃんが、なっこって付けた」

「うわあー......最悪じゃん」


昔は夏呼って呼んでたくせに

こうちゃんの馬鹿


「そういや、夏呼の誕生日もうすぐじゃん」

「あーうん」

「相変わらず、興味無さげだね」

「一番祝ってほしい人は、私の誕生日忘れてるし」

「彼女持ちだしねー」


いい加減、諦めたいのに

捨ててしまいたいのに、無下に扱うことのできない

そんな不思議なもの



『新村くんって私のこと別に好きじゃないよね、他の子が好きだってこと分かってるから。もう別れて』


「で、フラれたんだけどさ。どう思う?なっこ」

「私に聞かれても困る」

「えー真面目に考えてよ。なっこ」

「こうちゃんの問題でしょ?私には関係ない」


他の子が好き...それが私だったらいいのにとか

別れたと聞いてホッとしてしまう自分がなんか嫌いだ


「次、移動教室だからもう行くね。こうちゃんもそろそろ授業始まるんだから、教室戻りなよ」

「まだ時間あるよ?」

「今日実験するから、早く行って準備しなきゃいけないの」

「そっか...いってらっしゃい」

「いってきます」


嫌だな。好きだって思うと、同時に自分の汚い所も浮き彫りになる


「え!?お前、半井に告んの?」

「うん、明後日の半井さんの誕生日」

「何話してんのー?」

「お、新村。コイツさ、明後日の半井の誕生日に告るんだってよ」

「告るって、なっこに?」

「うん。新村くんって半井さんと幼馴染みだよね?半井さんのこと聞かせてよ」



高三の7月6日、誕生日の前日に

こうちゃんが死んだ


自転車での帰宅途中、車と衝突

最初は“大丈夫です”、“平気です”と言っていたらしいが

突然倒れて、救急車で運ばれた


そのまま搬送先で死亡が確認された


次の日は学校を休んだ

その次の日も、次の次の日も

一週間休んだ辺りで両親がリビングで話している所を見た

母が泣いていて、父が母の背中をさすっていた

それを見て無理矢理にでも、学校に行くようにした


こうちゃんが死んでから二週間が経った頃

綺麗な箱に入った腕時計を、こうちゃんのお母さんから貰った


死んだ日、こうちゃんは私に誕生日プレゼントを買って告白すると息巻いていたらしい。帰宅途中ではなく、私の家に向かっていたらしい


いつもなら絶対にやらないようなことするから、死んだんだ

馬鹿...馬鹿......馬鹿.............知ってる、知ってるよ

そういう馬鹿なとこが好きだから

大好きだから


馬鹿なとこも、趣味が変なとこも、誕生日忘れてるとこも

髪切っても気づかないとこも、いつもより可愛い格好しても気づかないのも

でもちゃんと後で似合ってるって言ってくれるとこも

急に思い立って実行するとこも、全部全部


全部、大好きだから

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