遇えない人に遭いたい話
曲輪ヨウ
前編 夏を呼ぶ
「え?
「就職してからは一回も帰ってないよ」
昼休みの給湯室は夏休みは誰とどこに行くかの話題でもちきりだった
そこに帰省という話題が上がってしまった
「就職してからって、じゃあ18で家出てそれっきり!?」
「まあ、そんなとこ」
世話焼きで心配性な子だから、帰れって言うんだろうな
「アンタのことだから、実家に連絡とかもしてないんでしょ?」
「半年に一回くらいは向こうから連絡来るから、元気にしてるから心配しないでって言ってる」
だとしてもさあ...と付け加える友人
帰った方がいいというのは分かる
10年も顔出してないのは、流石にヤバいよなあ
「
「電話で彼氏できたくらいなら...」
「ダメですよ!!あんないい男、早々いないんですから!!」
私だって狙ってたのにとぼやく後輩
「今年は帰るよ。プロポーズされたし」
「アンタまた、そんなサラッと爆弾落として...」
「事実だし」
「今、初めて聞いたわよ。こっちは」
そういや言ってなかったっけ?
言ってないな。忘れてた完全に
「もうそろそろ休憩終わるし、先に戻ってるね」
プロポーズについて色々聞かれそうな気がして、逃げるように給湯室を出ていく。
「逃げたな」
「逃げましたね」
「嫌な話題になるとすぐ消えるんだから、全く」
「そういえば、半井さんのあの腕時計って彼氏さんからのプレゼントですかね?」
「絶対違うでしょ。デザイン子供っぽいし」
「安そうですしね」
・
『今年はお盆、帰るから』
「送信...と」
「淡白すぎない?」
「あんまゴテゴテしてんの苦手」
「夏呼らしいね」
あ、プロポーズされたこと書くの忘れた
後で電話かかってくるだろうし、その時でいっか
「夏呼って、俺のこと好き?」
「嫌いな奴にバックハグされたら急所蹴り上げて、逃げるから」
「かなり遠回しな“私も好き”をありがとう」
「逆に直接言うの苦手でごめん」
ふと腕時計を見る。いい加減吹っ切れないと
......前に進まなきゃ
「ごめんね」
「いーよ。忘れられないことくらい、誰にだってあるよ」
「エスパー?」
「夏呼は顔に出てるんだよ」
・
「夏呼は分かりずらい」
「....うるさい、ほっといて」
「ほら、またそうやって誤魔化す!!」
「ロングからショートにしても、気づかないこうちゃんに言われたくない」
「......!!」
今漸く気づいたのか、え?髪切ってたの?いつ?と聞いてくるこうちゃん
「こうちゃんなんて嫌い」
「は!?なんで!!?」
家が特別近いとかではなかったけど、親同士が仲良くていつも一緒にいた
田舎だから幼稚園から高校までずっと一緒
だからなのか、私は素直に好きだとは言えなかった
昔から大好きなくせに、それを口にすることはできなかった
でもそれでいいと満足している自分がいた
告白してフラれて、今の関係が崩れるのが怖かった
一回くらい言ってみればよかった
あの日、そう後悔した
今となってはもう好きどころか
馬鹿もうるさいも、嫌いも伝えられない
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