第3話 私に迫ってくる元護衛はどうやら天才だったらしい

 初恋の相手(と言っても、人違いと最近知った)が他の人と婚約し、その披露パーティーに招待された私。

 当然エスコートの相手も無く、他の令嬢達にヒソヒソされる惨めな姿を晒す予定だったわ。


 それが当日になって私をエスコートしたいと言う人が現れた。

 彼はフローレンティン。つい先日まで女装して私の護衛を勤めた、本当の初恋の相手。


 平民で身分差があると思ったら、なんと彼は王宮に武官として就職していた。

 そしてパーティーで彼は私と見事なダンスを踊ったの。


「この為に徹夜で特訓しました」


 微笑むフロー。えっ、一夜漬けで身に付けたの? 天才じゃない?

 彼の美貌とダンスの腕前に頬を染めて近寄る令嬢もいたけれど、彼は手袋をはめた私の手にキスをしてこう言った。


「私はずっとマリエ様だけのものです」


 もうね。私だけじゃなく、それを見た令嬢達も真っ赤になったわよ。なんなのフローって。人を恥ずかしがらせる天才よ。





 それから暫くして、王宮の剣術大会があったようなの。彼はどうやら剣の天才だったらしい。初参加で四位に入ったそう。


「ご褒美を下さい!」


 彼は私の髪にキスをした。また恥ずかしくなったわ。





 また暫くして今度は事件が起きた。王女様が慰問中に不届者ふとどきものに狙われたのだとか。それを女装していたフローが防いだのですって。

 彼は騎士の称号を獲たの。


「ご褒美を下さい……」


 彼が私の隣に座る。私の指に彼の指が絡み、そのまま口許に引き上げて、今度は素手にキスをされた。私を熱く見つめながら。

 なんなのフローって。実は女遊びの天才とかじゃないでしょうね。





 父が又聞した噂によると、男の世界にも嫉妬はあるそうよ。

 平民だったのに異例の出世をしたフローは妬まれる存在なのですって。嫌ね。

 だけど私は知っている。彼の剣の腕は努力の賜物だと。今回も努力して乗り越えたそう。


「どうやったの? 人たらしの天才さん」


 私が半ば揶揄からかうと、彼は微笑んだ。


「本当の事を話しただけですよ。まあ少々根回しに時間を要しましたが」


 根回し? 男の世界でははかりごとも有ると言うわね。





 あるお茶会に出席したら私を見てヒソヒソする人達がいた。何の噂かしらと不快に思っていたら、とんでもない事を言われたの。


「マリエ様の為だけにフローレンティン様は出世に励み、遂に伯爵家の養子になったんでしょう? 愛の力は偉大ね」


 なんですって!?


「一途な恋物語として噂の的よ」


 根回しの意味を知った私は、外堀を埋める天才でもあった彼に遂に陥落した。

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ひまわり畑の初恋の君 黒星★チーコ @krbsc-k

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