第2話 ポーカーフェイスの想い人

「お嬢様」

「なあに? フロー」

「愛してます。ずっと貴女に恋い焦がれていました」

「そ、そう」


 フローレンティンの言葉に、私は危うく挙動不審になりかけた。でも無表情で返事をする。

 ポーカーフェイスってやつね。賭け事のポーカーで、良い手が来ても表情に出さないことを言うらしいわ。


 一方、フローは寂しい仔犬みたいな表情を見せるし、メイド達はニヤニヤ顔をこらえながら私達を見ている。


 そんな顔をしないで! 色々まずいわよ。私はフローの主人だし、なにより彼は今、女装して私にお茶を給仕しているのに。



 フローは小さな頃から私と共にいた。金髪が美しい女の子だと思っていた。

 実際は私の護衛役として、女性のふりをしていたそう。

 それを知らない私は彼と幼馴染のレイ様とを間違え、レイ様にずっと恋をしていた。

 レイ様に振り向いて貰うにはどうしたら良いか、なんてフローに何度も相談して、友のように心を許していた。


 まさかフローが男性で初恋の相手だったなんて。

 しかもそれがわかった途端、グイグイくるんだもの。


「あなた身分をわかってるの?」

「存じてます。ですからただこの気持ちを伝えたいだけです」


 嘘つき! さっきのシュンとした顔は何よ! 絶対にポーカーが弱いわね。


「御馳走様。美味しかったわ」

「それはようございました。私の最後の勤めですので精一杯心を込めました」

「えっ!?」


 フローは美しい微笑みを見せる。


「私の気持ちを表に出した以上、お嬢様にお仕えする事は難しいかと。今日でお暇を頂きます」

「そんな!」


 思わず声が上ずる。もう無表情ではいられない。


「さようならお嬢様」


 フローは微笑んだまま去っていった。





 今夜はレイ様の婚約披露パーティー。

 多分、彼の婚約者が私を疎ましく思って見せつける為に招待したのね。今更人違いでしたなんて言えないけれど。

 そんな私をエスコートしてくれる相手なんて勿論いない。父と一緒に行くしかないと憂鬱だった私に突然来客の報せが。


 先触れもなく不躾だと思った相手は、長い金髪で細身の美青年だった。


「お嬢様。いえ、マリエ様。私にエスコートする栄誉を下さいませんか」

「はい? だから身分差が……」

「王宮に士官しました。まだ身分は低いですが、きっと出世して見せます」


 私は開いた口が塞がらなかった。


「まさか、その為にうちを辞めたの?」

女装できる護衛私のような人間は使い勝手が良いんですよ」


 微笑むフロー。

 ああ、この人意外とポーカーが強いかもしれない。

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