神の血に溺れる~Re:キャンパスライフPART1

出っぱなし

入学へ

 眼前に煌めく南十字星サザンクロス、肌を優しく撫でるかのように穏やかに吹き抜ける潮風シーブリーズ、そして新たな旅路に高揚する身体を柔らかく支える大地に横たわる。


 始まりは何も無かった。

 僅かな荷物をバックパックに詰め込み、スズメの涙ほどの貯金だけでほぼ己の身一つでこの地にやってきた。

 家も決まっていない状態、連休で宿も空きがなかった。

 運よく見つけた町外れのキャンプ場でテントも無い状態で野宿だ。


 ただ、僕の新たな旅路を見送ろうと日本から飛んできた友がいる。

 長距離バス降り場から暗い夜道を共に歩き、途中で見つけた酒屋で買ったビールで疲れた身体を癒やして夜を明かした。

 応援してくれる友がいるだけで凍てつく孤独とはならないと思える。


 その翌日、このキャンプ場を家探しの拠点とするため、テントと自転車を買いに町のホームセンターへと向かった。

 最低限の生活必需品が揃うと地元の神の血ワインをいくつか試してみた。

 二日酔いになったことは愛嬌だ。


 そのさらに翌日、ついにこの地にやってきた目的、ブドウ栽培とワイン醸造を学ぶ学校へ入学となった。

 ワインの道をさらに深く進むためには、キャリアアップが必要だと考えたのである。


 僕はこの当時30歳を過ぎていたが、何も躊躇う理由などなかった。

 やりたいことに挑戦したまでのことだ。

 それが自分の人生を本気で生きるということではないだろうかと思う。


 さて、この日が来るために、三年間とある全国規模のワインショップで働きながら、英語の勉強をし直した。

 入学条件であるIELTS、グローバルスタンダードの英語4技能試験で最低限のレベルに達しないといけなかったので必死だった。

 他にも、高校卒業だけは必須だったので退屈な授業に耐えてきたことも無駄な時間ではなかったと沁み沁みと実感している。


 青空に輝く太陽の下、僕は一歩踏み出し門をくぐる。

 僕の門出を見送ると、友は日常へと戻っていった。

 そして、僕もまた新たな旅路に歩みを進める。


 ニュージーランド・ギズボーン、豊かな太陽と穏やかな潮風が吹き抜ける北島東海岸に位置し世界で最初に日が昇る町が物語の舞台となる。


 ワインと食事を味わいながらその当時を語ろうじゃないか。

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