ヒーロードットコム

宗真匠

ヒーロードットコム

 お電話ありがとうございます。こちらヒーロードットコムでございます。当サービスは人生を変えたいお客様をヒーローに変身させ、心機一転、新たな人生を歩んで頂くことが出来ます。ただし、ヒーローには時間制限や弱点が付き物。それなりの代償はお覚悟頂くよう予めご了承ください。




 電話越しに聞こえる無機質な音声ガイダンス。



 某病により職を失いフリーターに転落。そのせいで彼女にも振られ、友人も少なく頼る先もない。

 月七万二千円の家賃にプラスして数万の諸経費を払い、残りを食費に費やす。娯楽に割く金銭なんざ持ち合わせちゃいない。


 そんな人生から脱却しようと藁にもすがる思いでたどり着いた先が『ヒーロードットコム』なる怪しげなサイトだった。


 『ヒーローになって人生逆転』をコンセプトに掲載されていたそのサイトは、どうやら俺みたいな底辺の人生を生きる人達に、逆転の一手となる才能を与える為に存在するらしい。


 その内容は詳しく記載されていなかったが、ユーザーによると『某大手企業の社長に就任』だの『ギャンブルでぼろ儲けして億万長者』だの怪しさに怪しさを倍プッシュしたような話ばかりだった。



 こんなうまい話があるはずがない。そんなことは誰でもわかる。

 だが、貯金も底を尽き、受けた面接も全て落ちた俺は、一度電話してみるだけなら、と今に至る。



『人生をやり直したい方は1を、今の自分のまま人生を這い上がりたい方は2を押してください』


 なんだこの無茶苦茶なガイダンスは。


 そう思いながらも、1を押して『じゃあ死んでやり直してきてください』なんて言われた日にゃ冗談でも死にかねない為、泣く泣く2のボタンを押す。



 その後も複数の質問を経て、ようやく電話が繋がった。


「お電話ありがとうございます。ヒーロードットコム人生逆転課のカトウです」


 カトウと名乗る男は、若く爽やかで、それでいて抑揚のない無機質な声をしたヤツだった。


「あの、今の人生から脱却したいんですけど」

「かしこまりました。まずはお客様の現状についてお聞かせ願えますか?」


 対応は丁寧で、手馴れている様子だ。

 俺は今までの人生についてカトウに語った。


 あまり期待はしていないが、話を聞いてもらえるだけでも今の俺にとっちゃ神様みたいな存在だ。



「なるほど、人生これからだというところで転落を。深くお悔やみ申し上げます。それで、お客様はどのような人生を歩みたいと思われているのですか?」


 どのような人生……。それについては深く考えたことがなかったな。

 とにかく今の状況から脱却したいという思いだけで手一杯だった。


「悪いんですが、そこまで考えてませんでした」

「左様ですか。では、手始めに安定した職に就く、というのはいかがでしょう。職があれば贅沢とまではいきませんが、少なくともお金に困る心配は無いかと」

「ああ、確かにそうですね。じゃあそれでお願いします」

「かしこまりました。ではお手続きに移らせていただきます」


 そこからしばらく、名前や年齢、住所や家族構成まで細かく聞き出された。


 これ新手の詐欺じゃないよな、と疑いつつも俺は質問に全て正直に答える。追い込まれた人間ってのは単純なもんだ。



「ありがとうございます。お手続きは以上となります。ご質問やご不明点はございますか?」

「あの、不明なことばかりなんですが。これだけ情報聞き出して、結局俺はどうしたらいいんですか?」


 俺について聞くだけ聞いて、なんの進展もないまま電話を終えそうな雰囲気に少し苛立ちながら問いかける。


「近いうちに必ず職に就けるよう手配致しますよ。ご安心ください」


 ご安心出来ないから聞いたんだけどな。

 だが、詳しい内容について答える気は無いらしい。


「もう一つ、ガイダンスで言ってた代償ってなんの事だ」

「そのままの意味でございます。人生は全てが上手くいく事なんてありません。どれだけ完璧に見える人間にもかならず欠点はあります。何かを成すにはそれ相応の犠牲が必要なのです」

「納得出来るか。詐欺なんじゃないのか」

「滅相もございません。一週間以内に何も起こらなければ警察に届出ていただいても構いませんよ。私共は必ず仕事を完遂致します」


 なんの根拠もない。が、そこまで言うのなら……。


「わかった。もし何も起こらなければこの会社を訴えて賠償金で人生のし上がることにするよ」

「逞しい限りです。では、私はこれで失礼致します」


 カトウの態度に多少苛立ちはしたものの、今の俺がどうこう言える立場じゃないのは分かりきっていたため、俺は素直に電話を切った。


 胡散臭さは拭えないが、それでも一旦は信じて待つことにした。


 とはいえ、何もせずに待っていても気が気でない。



 翌日、俺はいつも通り買い物に行くことにした。


 家にはほとんど調理器具がない。

 同棲していた彼女が持って行ってしまったからだ。

 元々料理はあまりしないためそう不便でもないが、毎日のように袋麺や惣菜ばかり食べていたせいで体には少し肉が付いてしまっていた。


 新しい仕事に就いても、清潔感がない人間は嫌われるかもしれない。

 そう思いこの日はできる限りヘルシーな野菜や豆腐、肉も油の少ないモモ肉を選んで買った。


 もしかするとこういう積み重ねが人生逆転に繋がるのかもな、なんて思いつつ。



 その日、俺は帰り道の川辺で少し夕日を眺めて帰る事にした。


 特に理由はない。ただの気分転換だ。

 前日にあったことを整理しようとしていた。


 ゆっくりとビルの谷間に沈む夕日をぼうっと眺めていると、後ろから声をかけられた。


「何してんだよ、こんなところで」


 風に髪を靡かせる爽やかな雰囲気の男。そいつは、高校時代の俺の親友だった。

 毎日のように一緒に過ごし、ふざけ合って、よく先生に怒られていた。


「高松……お前なんでこんな所に?」


 高松とは高校卒業後、大学に進学してからめっきり連絡も取っていなかった。

 確かここからかなり距離のある大学に進学してたはずだ。


「仕事で異動になってな。今は地元の支店で働いてんだ」

「なんだよ、それなら早く教えてくれよな」

「悪い悪い、ケータイ替えた時に連絡先全部消えちまってよ」


 全く、相変わらず適当なやつだ。


「また集まりたいから皆の連絡先教えてくれよ。もちろん、お前のも」

「ああ、わかった」


 高松には友達が多い。適当だけど気さくなやつで、いざとなれば頼りになる男。

 その性格のおかげでクラスメイトにも友達が多かった。俺はそのついで。高松と仲が良かったからそのよしみで他の連中とつるんでいただけ。


 だから、高松と居ると少し劣等感がある。


「それで、お前今何してるの?」

「フリーターだよ、フリーター。某ウイルスのせいで仕事なくなったんだよ」

「マジかよ!」


 高松は腹を抱えて笑った。


「お前な、こちとらほんとに困ってんだぞ」


 それでも高松と一緒に居ると、どこか心が安らぐ自分もいた。


「いや、ちょうど良かったと思ってさ」


 どういうことだ?


 俺の訝しげな視線に気づいたのか、高松は笑うのをやめ、説明を始めた。


「俺さ、ある会社の支店長になったんだけど、その店これから開店なんだよな。ただ、タイミングが悪くてあんま人集められなくてさ。今絶賛人員募集中」

「マジか!」


 俺は驚きのあまりバランスを崩してその場に倒れた。


「なんだよ、そんなに驚いて。焦らなくてもお前ならちゃんと雇ってやるって」

「いや、それもそうなんだけどさ」


 まさかこんなにすぐ効果が出るとは思わなかった。

 昨日の今日だぞ。しかも何か特別なことをされたわけでもない。ただ俺のことを話して電話を終えただけ。


 それなのに、こんなにもすぐに仕事の話が舞い込んでくるなんて!


 首を傾げる高松にヒーロードットコムの話をするか迷ったが、あんな美味しい話、他のやつに教えるのは勿体ないと思い、俺はあえて黙っておくことにした。


 それにこいつは人生の成功者だ。わざわざ教えてやることもないだろう。


「バイトで……とかじゃないよな?」

「正社員採用しかしてないから安心しろよ」

「さすが大親友だぜ!」

「ほんと、現金なやつ」


 その日は俺の部屋で朝まで作戦会議という名の宅飲みをして、眠りに就いた。



 翌朝、会社で準備をするという高松を見送り、俺も身支度を始めた。


 形だけでも面接をすると言うので、履歴書の準備とボロくなったスーツの修繕を行うためだ。



 クリーニング屋に向かう道中、俺はヒーロードットコムに報告をすることにした。


 ついでにもう一つ、叶えたい願いもあった。


 またしても長ったらしいガイダンスを終え、ようやく電話が繋がった。


「お電話ありがとうございます。ヒーロードットコム人生逆転課のカトウです」


 応答したのはまたしてもカトウだった。

 だが、俺にとっては都合が良かった。


「ああ、カトウさん、俺だよ。この前電話した……」

「ご就職希望のお客様ですね。進捗はいかがですか?」

「ああ、就職の話が入ってきたよ。本当は確定してから電話しようと思ったんだけどな」

「ご報告ありがとうございます。私としても喜ばしい限りです」


 社交辞令はどうだっていい。とにかく今は、もう一つの願いだ。


「それでな、もう一つ願いがあるんだよ」

「如何致しましたか?」

「彼女が欲しいんだ。前の彼女よりもとびっきり可愛い子。そうだな、俺の高校時代の同級生のアヤナちゃんとか」

「申し訳ございません。相手の人生にも関わることですので、個人をお選びすることは出来ません。ですが、お客様に少なからず好意を持っている方であれば近いうちに手配できるかと思います」

「可愛いのか?」

「可愛さは個人の主観によるものですので、私の口からはお答えしかねます。ですが、きっとお客様のご期待に添える女性かと」

「それならそれでいいや、頼んだぜ」


 仕事に続いて女まで。

 最初は怪しいと思ったがとんでもない。ヒーロードットコム、最高だな。


 電話を切ろうとして、その手を止めた。

 ああ、そういや一つ気になることがあったな。


「代償ってのは?」

「それなら既に」

「受け取ったってか!客の喜びの声が代償ですってな!だったら代償って呼び方はちと不適切だと思うぜ。じゃあ、彼女の件よろしくな!」


 俺は電話を切り、浮き足立ってクリーニング屋に向かった。


 仕事も女も手に入る。あとはそうだな、彼女が出来たら金も頼むことにしよう。




 数日後、俺は修繕を終えたスーツを身につけ、高松に言われた会社へ向かった。


 二階建てのオフィスは白く塗装され、新築では無さそうだが、結構綺麗なものだった。


「お、来たか」


 扉を開けると、底にはダンボールを開封している高松の姿と、その奥に一人、女性が居た。

 俺は、その顔に見覚えがあった。


「え、その人……」

「ああ、彩奈だよ、坂本彩奈」

「久しぶりだね!最後に会ったのが成人式だから十年振りくらいかな?」


 忘れるはずがない。高校の俺の初恋相手。

 この前ヒーロードットコムに電話した時に言っていた、アヤナちゃん本人だったからだ。


「今はもう高松だけどね」


 アヤナちゃんから出た言葉を反芻する。


 今は高松、なぜあの高松と同じ苗字に?

 答えはひとつしか無かった。


「え、もしかして、二人結婚したのか?」


 高松とアヤナちゃんはお互いに目を合わせて、実は……と左手を差し出す。

 薬指に同じ指輪を嵌めていた。


「四年前から偶然近くに住んでて、付き合うようになったんだ。結婚したのは二年前」


 まじかよ。そりゃあアヤナちゃんと付き合いたいって言っても無理に決まってる。


 十年振りに会ったアヤナちゃんは、昔のようなあどけなさを残しつつ、大人の色気を兼ね備えた俺好みの女性になっていた。



 正直、笑えなかった。

 おめでとうと言えなかった。


 偶然近くに住んでて結婚? それが俺だったら俺と結婚してたかもしれないのに。

 そしたらこんな人生歩まずに済んだし、今の俺と高松の立場は逆だったかもしれないのに。


 完璧な奥さんがいて、これから仕事で成功していくのも見えてる。

 そんな人生を歩んでいたのが俺だったら良かったのに。



 そんな気持ちを必死に抑え、落ち着くように小さく深呼吸をした。


「いやー、そんな偶然もあるんだな」

「お前に出会えたのもありがたい偶然だよ」


 高松が肩を組んできた。

 こういうところがアヤナちゃんに好かれたんだろうか。

 だから俺じゃなく高松だったんだろうか。


「と、取り敢えず面接やっちまおうぜ。終わったら荷物の整理手伝うからさ」

「さんきゅー、助かるよ」


 履歴書を渡し、本当に形だけの、面接という名の雑談を終えた俺たちは、大量のダンボールの整理をしていた。


 その間も仲良さそうに話す高松夫婦の姿を見ていた。

 嫉妬で狂いそうになるほどに。



 そんな気まずさを打ち破ったのは、ひとつのノックだった。


「あの、面接で来たんですけど……」


 その女性にも見覚えがあった。


 端正な顔立ちにメガネをかけ、髪をひとつに結んだ20代前半くらいの女性。


「君、近所のスーパーで働いてる子だよね」


 俺がよく行くスーパーで働いていて、地味だが顔は好みだったので、俺はよく彼女が居るレジに並んでいた。


「あ、はい。パートじゃなくて定職を探してた時、御社の求人を拝見しまして……」

「そう固くならなくていいよ、リラックスして」


 高松はそう言いながら彼女を招き入れる。

 そしてそのまま、椅子とテーブルを置いただけの場所で面接を始めた。


 ダンボールを片しながら聞いた情報によると、彼女は二十三歳でサトウマキと言うらしい。

 大学卒業後就職したが、仕事についていけず一年で退職。その後はパートをしていたが、稼ぎが少なく定職を探していたとの事だ。


 何度かマキちゃんと目が合い、彼女はどこか照れくさそうに目を逸らした。


 俺は確信した。マキちゃんが俺の彼女として用意された子なのだろうと。

 確かに好みの顔だし、なんでも言うことを聞いてくれそうな扱いやすさもある。


 が、先程アヤナちゃんと出会ってしまったことで、俺の欲は大きく膨れ上がっていた。




「明日までにここを片付けてパーッと歓迎会をしよう」


 という高松の指示で、その日は途中で作業を切り上げて家に帰ることになった。


 そして俺はすぐにケータイを取り出した。

 電話をかけた相手はもちろん──。


「お電話ありがとうございます。ヒーロードットコム人生逆転課のカトウです」

「俺だよ、カトウさん、お願いがある」

「如何なさいましたか?」

「金が欲しい」

「お金、ですか」

「確かにあんたは俺好みの女を用意してくれたが、もっと欲しい女が居るんだ。そいつを手に入れるためには金がいる」

「そろそろ代償が嵩んできますが……」

「そんな事はいいんだよ!いいから俺の願いを叶えろ!」

「……かしこまりました」


 俺は電話を切ってケータイを叩きつける。

 仕事も女も金もある。高松のポストを奪ってアヤナちゃんも手に入れる。これで俺の欲しいものが全て揃う。




 翌日、俺は金の出処を探して周囲を注意深く観察しながら会社へ向かった。


 ところが、途中には大したものもないまま職場に着いてしまった。


 そこでは既に高松、アヤナちゃん、マキちゃんがダンボールを開封して、荷物の整理をしていた。


「遅いぞー遅刻遅刻」

「集合時間なんて言ってなかっただろ」

「あ、そうだった」


 適当な高松は放っておいて、俺も荷物の整理を進めた。



 作業も終わりかけた頃、高松が「ちょっと買い出しに行くんだけど、誰かついてきてくれない? 荷物が多くてさ」と声をかけた。


「あ、私行きます」


 マキちゃんが即座に手を挙げる。

 新人社員特有の頼まれたら何でも率先してする姿勢だな。

 何やら張り切っているマキちゃんを横目に見る。


「じゃあ、二人は留守番よろしくね」

「はーい、行ってらっしゃい」


 アヤナちゃんはひらひらと二人に手を振った。



 そして気が付けば二人きり。

 アヤナちゃんと俺だけになっていた。



 話す内容も思い浮かばず黙々と作業していると、開封した一つのダンボールから思わぬ物が出てきた。


 鍵が掛かっていないアタッシュケースと、その中に複数の通帳。

 金額はトータルでざっと数千万。


 高松の資金だろうか。何のお金だろうか。


 そんな事を考えるよりも先に、俺の体は動き出していた。


「アヤナちゃん」

「ん? どうしたの?」


 俺はアヤナちゃんの腕を掴んだ。


「この金持って俺と一緒に暮らそう。俺と結婚してくれ。必ず幸せにする」


 アヤナちゃんは何が起こったのか分からない様子で目を泳がせる。


 俺はアタッシュケース片手にアヤナちゃんを無理やり連れて行こうと力を込めるが、少しずつ状況を飲み込んできた彼女に抵抗された。


「ちょっと!どうしたの!? それはこれから必要なお金で」

「俺と二人で暮らすための金にしよう。毎日お前を愛してやる。高松よりも絶対に幸せにしてやるから」


 俺の言葉は彼女の平手打ちによって遮られた。



 そこで怒りが頂点に達した俺は、気が付けば彼女を殴っていた。



 状況を理解したのは、高松が戻った頃。


 彼女の叫び声を聞いた誰かが警察を呼んだんだろう。

 横たわるアヤナちゃんとそこに駆け寄る高松。


 マキちゃんは恐怖からか、部屋の隅で動けなくなっていた。



 手錠を掛けられた俺を睨む高松の目を、俺は一生忘れられないだろう。





「ってなわけで、見事にお前の顧客は逮捕されたらしい」


 くるくると椅子の上で回りながら、茶髪の男が言う。


「にしてもお前酷いよなー、ちゃんと代償について教えてやらないなんてさー」

「僕は教えようとしましたよ。彼が勝手に勘違いしただけです」


 咎められるように言われ、黒髪の男は不服そうに答える。


「そうでなくても、ああも簡単に自身の負の面に呑まれるようじゃ、どの道大成できませんよ」

「ほんとひでーやつ」


 茶髪の男は机の上の紙切れを手に取る。


「今回の顧客は……要求が仕事、女、金か。よくある願いだな。代償は……強欲さ、嫉妬心、暴力衝動ってお前、とんでもないもんプレゼントしてんな」


 呆れた表情の茶髪の男をよそ目に、黒髪の男は表情ひとつ変えずにパソコンに向き合っている。


「むしろ、人生の成功には必要なものだと思いますけどね。実際に強欲さを糧とし、仕事への意欲に昇華した方や、嫉妬心から他者に負けじと努力した方も居ますから。あの方はそこに至れなかっただけです。暴力衝動はそのお仕置です」

「やっぱひでーやつ」


 黒髪の男は『事例報告書』と書かれたページを保存して立ち上がった。


「僕はこのヒーロードットコムで、本当にヒーローが誕生するところを見たいだけですよ」

「今のところ悪魔ばっかだけどな」

「残念です」


 黒髪の男は茶髪の男から紙切れを取ると、それをシュレッダーにかけて部屋を去った。




 お電話ありがとうございます。こちらヒーロードットコムでございます。当サービスは人生を変えたいお客様をヒーローに変身させ、心機一転新たな人生を歩んで頂くことが出来ます。ただし、ヒーローには時間制限や弱点が付き物。それなりの代償はお覚悟頂くよう予めご了承ください。そして、代償に呑まれたお客様は、それなりの人生を歩んで頂くこと可能性もございますので、重々、お忘れなきようお願い致します。

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