55(2024.12.30)
「それじゃあ、お留守番よろしくね。サム」そう言って、お母さんは買い物へ出かけました。
家の中にはサム一人だけ。怒られる心配のない、自由の身です。
さあ、何をして遊ぼうか。
サムはおもちゃ箱をひっくり返しました。沢山のおもちゃがやかましく音を立てて床に散らばります。どれも自慢のお宝です。
そこから箱をひとつ、手に取りました。ファンタジーに登場する宝箱のような造形の、華やかな箱です。しかし、サムは箱を開けることなく廊下に出ると、それを床の上に置きました。隣にはご丁寧に鍵まで添えて。子供部屋に戻り、扉をわずかだけ開けて、その隙間から箱を観察するサム。さて、何が始まるのでしょうか?
しばらくして、階段をピョンピョコ上ってくるものが現れました。兎です。チョッキだけを着た二足歩行の兎は、箱に気付くや否や、目を輝かせて文字通り跳びつきました。
「おやおや、こんなところに宝箱があるぞ。もしかしたら、ずっと欲しかった腰穿きが入っているかもしれない。開けてみよう」兎は前脚で器用に鍵を抓むと、蓋を開けました。
その途端、中から勢いよく飛び出したのは、目をひん剥いてベロを垂らした巨大な顔! もうお分かりですね。これはびっくり箱だったのです!
さあ、慌てふためくさまが見られるぞ。期待するサムでしたが、「おお、これは」兎の喜んだ声を聞き、次いで彼がびっくり箱の顔からベロを引っぺがすのを見て、逆にサム自身が驚いてしまいました。ベロを腰に巻き、「うん、これは良いスカートだ。ちょっとヌメヌメしているが、じきに慣れるだろう」そう言うと、兎は小躍りして去ってゆきました。
作戦変更だ。サムは宝箱の中身を別のものと入れ替え、再び扉の裏に潜みました。
しばらくして、階段をガッシャンガッシャン上ってくる者が現れました。騎士です。厳めしい鎧をまとった騎士は、箱に気付くや否や、兜を輝かせて駆け寄りました。
「おや、斯様な所に宝箱があるな。もしや、探し求めたものがあるやもしれぬ。開けてみようか」騎士は手袋越しに鍵を抓むと、蓋を開けました。
その途端、中から勢いよく飛び出したのは、ひどく痩せこけて蒼褪めた形相の女性! 幽霊を模した人形が仕込まれていたのでした。
さあ、恥ずかしい慌てぶりが見られるぞ。期待するサムでしたが、「おお、姫!」騎士の力強い声を聞き、次いで彼がびっくり箱のバネを剣で一刀両断するのを見て、またもサム自身が驚いてしまいました。人形を抱きかかえ、「嗚呼、憎き敵国に攫われて以来、長きに渡り探し求めた姫よ! かような所に幽閉されていたとは! さあ、国へ戻り、その冷たく痩せ衰えてしまったお体をお癒しください」声を掛けながら、騎士は階段を下りてゆきました。
サムは宝箱の中身を別のものと入れ替え、再び扉の裏に潜みました。懲りない性分ですね。
しばらくして、階段をえっちらおっちら上ってくる者が現れました。今度は能天気な兎でも、堅物の騎士でもなく、ごくごく普通の町民のようです。いけるぞ!
「あら、こんなところに何かしら?」町民はしゃがんで鍵を拾うと、蓋を開けました。
その途端、中から勢いよく飛び出したのは、泣く子も黙る怪獣のフィギュア! しかし、接続が甘かったのか、フィギュアがバネからスポンと外れてしまいました。発射された勢いそのままに空を飛んだ怪獣は、タワーではなく町民の顔面と正面衝突しました。
しかし町民は倒れませんでした。地の底から響く声でただ一言、「……サム?」
大怪獣ママゴンは、悪い怪獣とサムをまとめてやっつけ、町に平和をもたらしたのでした。
サムズ・デイズ 間貝瞑 @MagaiTsumuri
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。サムズ・デイズの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます