54(2024.12.23)

「それじゃあ、お留守番よろしくね。サム」そう言って、お母さんは買い物へ出かけました。

 家の中にはサム一人だけ。怒られる心配のない、自由の身です。

 さあ、何をして遊ぼうか。

 いつもであれば、そう言っておもちゃ箱をひっくり返しに行くところですが、今日はやるべきことがあります。リビングのテーブルに置かれたさまざまな装飾品。きらきらのベル、ヒイラギのリース、縞模様のステッキ……。そうです、クリスマスの準備です。

 リビングには、大人の背丈ほどもあるクリスマスツリーが裸で鎮座しています。これをバランスよく飾る作業を、サムはお母さんに懇願して勝ち得たのでした。

「いい? 手の届く範囲だけお願いね。無理して高いところまで付けなくていいからね」お母さんの言葉をよそに、サムは自分一人で完璧なツリーを作ってやろうと気合十分です。台所から踏み台を運んできて、さあ始めましょう。

 ベル、リース、ステッキ、オーナメントボール、キャンドル……。一箇所に固まらないようぐるぐる回り、踏み台を上り下りしながら、ツリーをどんどん彩ります。我ながら上手いじゃないかと自画自賛しつつ、最後に残ったのは金ぴかの星。やっぱりてっぺんに付けたいところですが、踏み台に乗ってつま先立ちしても、あと少しのところで届きません。

「危ないよ」唐突に、あらぬ方向から高い声が聞こえて、驚いたサムは足をつるりと滑らせました。背中から床へと落ちて、まだ昼間だというのに夜が視界を覆いました。

 目を覚ますと、そこは子供部屋のベッドの上でした。知らない人たちがサムを囲んでいます。彼らが運んでくれたのでしょうか。室内なのにコートを厚く着こんでいます。「ケガはない?」枕元に立ったジンジャーブレッドマンがサムに訊ねます。その声は、気を失う寸前に聞いたものでした。頷くサムに、「よかった。急に倒れるから心配したよ」

「目覚めて早々に悪いが、君に頼みがある」マフラーで顔面をぐるぐる巻きにした男が歩み出ました。「我々は国際サンタクロース研究連盟だ。その名の通り、サンタクロースの研究を目的としている。紀元二六〇から二七〇年頃に初めてサンタクロースが観測されて以来、その実態を掴むべく努力に努力を重ねたものの、今日まで失敗に終わってきた」

 なぜ、ぼくに協力を? 不思議がるサムに、今度はニット帽を顔面に装着した女が、「サンタクロースには、クリスマス飾りに惹き寄せられる習性があるの。特に、立派なツリーがあるとベストね。で、この家は、現在、世界で唯一クリスマスツリーを飾っている家なの」

「人々の心からクリスマスが失われつつある」マフラー男が後を続けました。「信仰を失ったサンタクロースは消えるほかない。研究対象を失った我々もまた然りだ」

「そうなる前に、私たちはサンタを捕獲、いえ、保護しなくちゃならないのよ」自分でツリーを用意すればいいのに、という問いには、「雑念の籠ったツリーでは効果がないの」

「お願い。ボクらに力を貸して!」ジンジャーブレッドマンはそう言うなり、自身の肘から先をポキリと折ってサムの口に放り込みました。砂糖の甘みと生姜の刺激的な風味に、なんだか頭がふわふわしてきました。「協力してくれるかね?」マフラー男の問いにサムは、

 いいよ~。

 さて、こうしてサンタ保護プロジェクトに巻き込まれたサム。果たして、サンタを捕まえることはできるのでしょうか? サンタの正体とはいったい何なのでしょうか? そして、サムはクリスマスプレゼントを受け取ることができるのでしょうか?

 残念ながら、ここで時間となりました。続きはまた、いずれお話しするとしましょう。

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