色褪せた夢

シズクが向かったのは、森のさらに奥だった。

俺が子供の頃、「あぶないからはいっちゃだめ!」とシズクに止められた場所。

俺はふと立ち止まって考える。

…この先に進んで、本当にいいのだろうか。

俺のカンは引き返そうと言っている。

そうだ、過去の俺だったらどうする…?

日が傾きはじめた夕刻の森に、正体のわからない存在と二人きり。

このまま日が暮れたら?夜の森なんて、何が起きるかわからない。

懐中電灯もない。

いつもならくらくて入れなかった森の奥…だけど、今のオレなら…


うっそうと生いしげる森は、おもってたよりもずっと深かった。

シズクは道のない茂みを慣れた足取りで進んでいく。

ふと急に、シズクが消えたような気がした。

「シズク、おまえさ…急にきえたりとか、しないよね…?」

「どうだろ、わからないかも…」

「オレ…なんでだろ。シズクがきえちゃったら、この森から出られない気がするんだ…。」

…いや、だいじょうぶ。

シズクはオレの最高のともだちだ。消えたりなんてしない。

そう思いながらも、どこか謎の不安にかられていたオレは、自然とうつむき気味で歩いていたらしい。

「ねぇ、みて!」

そう言われてふと顔を上げると、そこには綺麗な月色になった森が広がっていた。

「わぁぁ…!」

これが、よるの森…?

「ね!きれいでしょー!」

得意げに言うシズクが、なぜか懐かしく感じられた。

星たちが歌い、月明かりが二人を優しく照らす。

そうだ、少しひらけた原っぱで寝転がって、流れ星でも数えよう。

満点の星空は、不思議な世界へいざなってくれるから。

夢のようで、魔法のようで、心地いい。

「ずーっとこうしていられたらいいのになぁ!」


****


「ねぇ…待ってよ…」

突然シズクの声が聞こえて、オレは飛び起きた。

星空はいつのまにか消えていて、綺麗だった森は闇夜色のまっくら森になっている。

どこからか、泣き声が聞こえてくる。

「え…」

シズクが、泣いている。

「ね…お願いだから…、僕を…」


*****


いつの間にか、あの秘密基地の小屋に戻っていた。

…いや、おかしい。

俺はさっき、森の奥に行ったはずだ…あぁそうか。

きっと、夢を見ていたんだ。


全て夢だったんだ。


気づけば外は明るくなっていて、シズクの姿は消えている。

なるほど。

“シズク”も最初から、いなかったのだ。

俺の幻覚だった。


俺は森を出ようとして、ようやく異変に気がついた。

「嘘だろ…?」

ない。

森の出口が、なくなっていた。

…と言うより、わからなくなったと言う方が正しいのか。

俺が集落を出てから他の住人がいつ離れたのかは知らないが、この森は少なくとも、何年か放置されていたはず。風景が変わるのは当然のことだろう。

…だとしても。

それなら、どうやってここに入ったと言うのか。

入った時と異なる点は、ただひとつ。

「シズク…」

彼が全く変わらない見た目だったと言うことは、この森の風景も含めて俺の夢だったのだろうか?

いや違う、それだとこの小屋にいる理由がわからない。

少なくとも、入ってきた位置があるはずだ。


「シズク…どこにいった?」

この森から出るには、彼を見つけなければならない。

そんな気がした。

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水溶少年 はるりぃ*。+ @harury_0315

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