エピローグ どうやらこの関係は続くらしい……
さて、その後の話だ。
落陽暗部はリリギアによって壊滅が大々的に告知された。
どうやらマジであの作戦に全戦力をつぎ込んだらしく、何から何まで確保できちまったって話だ。
ただし、連中が壊滅するきっかけは表向き明かされてない。迂闊に明かすと囮で展開された爆破予告の件とか、俺とブレイドの共闘についてもばらさなきゃいけないから、そこを隠すためだろう。
俺としてはありがたい。正義の味方とつるんで悪の組織を潰した、なんて悪評が出回ったら再就職が大変になっちまう。
次にリリシンについてだが、ライブイベントで見せた舞奈のソロパフォーマンスは大反響を呼んだ。
トレンド入りするくらいだから当たり前だ。過去のライブ映像を中心に、舞奈のパフォーマンスを再評価する動きも出始めてる。
惜しむらくは舞奈が良くも悪くも大いに踊りまくったことか。
初っ端の大ジャンプを筆頭にカメラが追いきれないトコがあまりに多くて、配信勢に彼女の魅力がイマイチ伝わらなかったのだ。
俺もライブ後、振り返りにアーカイブ配信を見て若干ショックを受けるレベルだった。
そんなわけでまだ多くのリリシンファンには、「舞奈はちょっと微妙」という評価がこびりついてる。
納得いかないオチだが、それでも今までを思えば大きな前進だ。
円盤の発売とか次のライブイベント辺りから、じわじわと変わっていけばいいと思う。
それはそれとして。
(我ながらやらかしたなぁ……)
家でゴロゴロしながら端末をいじってた俺は、大いにため息をまき散らす。
(
短期間に一つのエリアで二つの組織が潰されるなんて異常事態だ。
再就職候補にして賢明な組織はどこもかしこもだんまり状態。
しかもこの事態を引き起こしたのが他でもない自分自身となれば泣くに泣けない。
(金についてはそうそうなくならないと思うけど、最近は物販のボリュームも膨れてるわ狙い所わかってる品も増えてるわで、出費が避けられないからなぁ……久々にバイトとか探すか?)
絶妙な世知辛さを感じる今後を憂いていたが、ふとチャイムが響いて思考中断。
鳴らすのはほとんどが宅配便だけど、今日は荷物待ちの予定はないはず。
さて誰かな、と考えながら玄関に向かい、ドアガードをはめた状態で「はいはい」と外を覗く。
「こんにちは、響也」
速攻で閉めた。
しかしドアガード直上に刃が入り込む。
「開けなさいっ、でないとドアを斬るわよっ」
「うっそだろお前……っ! わかった、開けるから一回閉めさせろっ!」
「5秒以内に開けること、ごー、よん……」
刃が引っ込むと同時におそろしいカウントが始まり、慌ててドアガードを外す。
カウント2でドアを押し開けると、開いた景色には風にたなびく黒髪ロングが立っていた。
「緩んだ格好ね」
「家なんだから当たり前だろっ」
開幕飛び出た理不尽へ反射的に噛みつく。
実際問題、こちとら俺の家である。いくら推しとは言え、何もかも受け入れるわけには行かない。
「つーかなんでここまで来た、誰かに見られたらどうする気だっ」
「なんでここまでって失礼ね? こっちは新しいお隣さんに挨拶しに来たんだけど?」
「はぁ? なんだそれ一体――」
状況が飲み込めずに聞き返した直後、嫌な予想が脳裏を走る。
慌てて身を乗り出せば、隣の部屋のドア前にはスーツケースに旅行用手提げ鞄。
まさかと舞奈を振り返ると、どうだと言わんばかりのドヤ顔が待っていた。
「今日からそこの部屋で暮らすことになったから。よろしくね、お隣さん」
「あ……え……いや……」
思考フリーズ。
すぐに立ち直って
しかし状況が飲み込めない。
隣はリリギアの監視員が住んでたはず。そいつはどうした。
というか俺の隣で暮らすって何のつもりだ。
ロクな返しもできずにうろたえてると、舞奈がふふんと含み笑い。
「どうしてこういうことになってる、って顔ね?」
「そ、そりゃあ、まぁ……」
「流石にこのままだとわからないでしょうから説明するけど、アナタをリリギアに引き込むための次フェーズ、ってトコね」
「……次、フェーズ?」
「そ。この前の落陽暗部の一件、覚えてるでしょ?」
覚えてるも何も、我ながら感情のままに突っ走ったしくじりである。
自然と苦虫顔になってしまうが、舞奈はまるで気にしてない。
「あの時のアナタと連携戦闘、きちんと解析させてもらったの。そしたら予想以上に私との相性がよかったみたいで、司令がますます勧誘に乗り気になってね」
「うへ……いや、待て? まさか……」
「想像通りよ。『何が何でも鏡 響也を引き込みたい』ってことで今まで以上にこっちから仕掛けることになったの。その一つが私の引っ越しよ」
そう言って彼女は旅行鞄を指さす。
「というわけで今日からお隣さんよ。よろしくね、響也」
「よろしくね、じゃねぇ!」
一体なんつー状況だ。
どうか夢なら覚めてくれ。いや無理か、残念ながら俺は起きてる。
「マジで何やってんだお前! いくらなんでも隣に越してくるとかバカかよ!? 何度でも言うが敵だぞ敵!」
「だからその『自称:敵』を引き込むためよ。諦めなさい」
「自称じゃねぇよ事実だよ! つーか俺は阿澄に言ったんだぞ、『アイドルとファン個人を近付けさせるな』って! 何言われるかわかったもんじゃねぇだろこんな状況!」
「言ったらしいわね? でも司令言ってなかった、『言い聞かせた所で聞くかな』って? もちろん答えはノーよ。アナタを引き込むって決めた以上、聞くわけないじゃない」
「いや聞けよマジで! 頼むから俺をただのファンでいさせてくれよ!」
「無理よ、お互いの身の上話だって聞いてるんだし、長いことぶつかり合った間柄だもの。とりあえず友達みたいなものでしょ」
「ちくしょうこの頑固者ぉ……っ!」
思わず額を覆って呻く。
推しにして宿敵が外堀を埋めにかかってくる。この状況、どうすればストップできるのか教えてほしい。
もちろんそんなこと心の中で嘆いた所で解決策なんざ出てこないわけで、今の俺には「諦める」以外の選択肢はなかった。
だってこうなった彼女は梃子でも動かないこと、知ってるんだもの。
(辛い……っ! 就職先もそうだが宿敵で推しの相手がやたら関係深めてくるのが辛い……っ!)
この状況、今後の俺はどうなるのか。
全く予想はつかないが、少なくともこの「宿敵にして推し」との厄介な関係は長く続く。
それだけは確信が持てた。
正義な推しアイドルに更生を迫られてる俺だけど世界征服は諦めたくない! 妄想腐敗P @trpg4989
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