◇6話 模索
「ありがとうございます。やはり、マレイ様に聞いて正解でしたね。詳しく的確に教えていただけるとは無能の身ながら感服するばかりです」
「だから……世辞は要らないのよ」
「世辞ではありませんよ。教師として働いていた私であってもマレイ様のように、事細かく上手に教える事は出来ませんでした」
そこに関しては本気でそう思っている。
この子は見た目通り、クラスの中にいたら秀才として扱われていたであろうくらいには頭が良い。必要な点だけを簡単に、それでいて細かく教えてくれたんだ。教えてくれた内容だけで他の人と話をしたとしても困りはしないくらい、三十分程度で様々な事を教えられた。
「すごいですよ。本当に王女として飼い殺しにさせたくない程度には優秀な、貴方だけの才能があります。これは本気でマレイ様を外に連れ出してあげないといけませんね」
「口が本当に上手いのね。……でも、ありがとう。貴方の言葉はどうしてか嘘のように聞こえないわ」
「本心だからですよ。それに……俺は味方に対してはハリボテの姿で接したりしません」
やれ態度がどうだの、やれ生徒を見ていないだの、私の子供は後回しだの……そんな事を言うだけのアホ共にどうして素でいられるかって。そこまで言うのなら自分でどうにかしろよ。俺から助けを借りようとするな。他人には色々な事を求める癖に自分では何もしないゴミしかいない。
まぁ、それはどうでもいい話だ。
それよりも重要な事が分かったからな。試したい事も幾つかあるし……ここは情報開示と行こう。どうせ、マレイは俺の協力者となるんだ。多少は情報公開したところで不安な点は無い。いや、信じるという択が一番、生き残る可能性が高いと言った方がいいかな。
それに……多少ならバレても問題は無い。
「実はマレイ様の説明の最中に幾つか確認していました。その中には確実に勇者とまではいかずとも十二人を贄に捧げただけの、異世界人と呼べるだけの特異性もあったんですよ」
「それが私の自由に繋がる、と」
「俺達の自由に繋がる、ですね。王女の座を捨てて一人で外に出ても不幸になるだけです。地位が確立するまでは一緒に行動した方が楽でしょう」
その方が俺もマレイもウィンウィンでいられるからな。ある程度の戦闘技術があるとしても女性一人で生きていけるだけの世界だとは思えないし、俺だって確認した事実が正しければ他者との関係性が重要になってくる。
「俺の能力である指導術ですが、それは人に対してスキルや情報を教える固有スキルです。そのスキルというのに難易度の差異はありません。簡単に言えば魔族特有の固有能力である魔眼でさえもマレイ様に教える事が出来ます」
まぁ、それはマレイに才能があるからだ。
簡単に言えば指導術は誰かに何かを教える際に知識だけを俺に与えられる。そして教え方一つで生徒に対して熟練度という期間を無視してスキルを覚えさせられるって能力だ。加えてスキルを覚えさせられたのであれば教えたスキルと、三時間のみ生徒が既に所持しているスキルを扱えるようになる。
ここに生徒のステータスの十分の一が俺に加わるとなればどうだろうか。初期のステータスが低い事も納得出来てしまう性能だ。そりゃあ、そうだよな……十二人の信者を生贄にして召喚された相手がただの無能で済むわけも無い。
「俺は貴方に教える事で貴方を鳥籠の中から出してみせます。つまり、マレイ様が手を貸してくれないのであれば城から連れ出すという約束も守れないという事ですね」
「なら、問題無いわ。こう見えて勉強をする程度ならば胸を張れるくらいには自信があるの。どれだけリョウの教え方が下手でも上手く噛み込んで見せるわ」
「……その時には王女と平民ではなく教師と生徒という立場になりますが、それでも宜しいですか」
「地位に拘りは無いわ。それに貴方は私の掛け替えの無い協力者、本当に人を馬鹿にする発言で無い限りは許すわよ」
その言葉に嘘は無いだろうな……。
だって、この子の魂は青く染まったままだ。説明を聞いていて分かってきた事がある。それは見た相手の才能の有無と魂による嘘の判別だ。マレイ相手に試してはいたが真実であれば青、嘘であれば心臓の部分にある魂のような炎が赤く染まる。
そして説明外で学んだ事が一つ……。
「加えて先程の説明の中で一点だけ正したい事があります。それは大陸戦争の原因は旧アウストラル王国にある事です……マレイ様ならこの意味がよくお分かりになられますよね」
「それは……文献が違うって事かしら」
「はい、俺の指導術は正しい知識を他人に与えようとするのでしょう。正しい知識を学ぶために試しに発動させていましたが、その一点だけにおいてはスキルが発動しました」
嘘だ、質問を返した時に勝手に発動しただけ。
それでも話を聞いたり、質問を行ったりしているだけで溢れんばかりの知識が頭の中を駆け巡ったんだ。そして指導術に対して教えようとした今、その知識が頭の中に入ってきた。なるほどな、確かにこのスキルは低いステータスすらも凌駕するような能力だよ。
「自身の都合の良い過去を伝えるために文献を改竄させた、そう考えると確かに幾つかの違和感も解消できるわ」
「……自国を貶されて怒りはしないのですね」
「時期に無関係になるもの。それに私は王国に対して価値なんて感じていないかしら。こんなにも多くの命を生贄に捧げなければ成り立たない国にどうして胸を張れるのか教えて欲しいものだわ」
形は変われど、どこも似たようなものなのか。
所詮は表向きにされない一パーセントにも満たない数少ない強者と、虐げられて苦しみながら生き続ける残りの弱者達のみ。……その強者の立場を捨てるだなんて本当に馬鹿らしいな。だけど、だからこそ、少しだけ好意を持てる。
「それにしても消された過去さえも掘り起こす能力……確かに化け物じみた固有スキルね」
「それを持つ存在が味方になったのですよ。心強いとは思いませんか。少なくとも俺はマレイ様を味方に出来て心底、助かったと思いましたよ」
「そうね、この能力がバレれば多くの者が貴方を欲して、そして邪魔に思うでしょうね。だから、貴方が死ぬまでの間は有用活用させてもらうかしら」
「つまり、マレイ様が死ぬまでという事ですか」
マレイは否定もせずにクスリと笑った。
だって、そうだろ。この能力の詳細が分かった今、俺は本当の意味での無能では無い事がよく分かったんだ。あの世界にいた時のような弱者ではなく、強者として世界を制圧出来るだけの才能が俺にはある。
「ああ、遅くなったけれど私の部屋に盗聴の類は一つたりとも無いわよ。普段は私の魔力以外では部屋が開かないようにしてあるし、外から音を聞こうにも魔力の壁で通過しないようにしてあるから不可能かしら」
「知っていましたよ。頭の回るマレイ様が何も対策せずに王国の恥ともなる発言をなさるとは思っていませんでしたから」
「もう……本当に褒め言葉に慣れていないのよ。それと協力者として認めるのならマレイでいいわ。さっきも言ったけど、地位を捨てるつもりなのに地位に拘る気なんて無いもの。二人しかいない時くらい伸び伸びとしていたいかしら」
それは……さすがに立場上どうだろうか。
もちろん、こうやって俺とマレイしかいないって条件付きだろうけど、それでも許していい範囲から明確に外れているだろ。多少は冗談を口にしても許されるのかね。
「お姫様、は嫌いですか」
「貴方が私だけの騎士になるのなら許すかしら」
「はは、それは難しいですね。この顔に生まれ変わってしまった今、貴方だけの騎士にはなれそうにもありません」
少し悲しそうな顔をするのはどうしてだ。
アレか、一人になる事がそれだけ怖くなったか。嫌われるよりは圧倒的にマシだが別に好かれたいわけでも無いんだよなぁ。依存されても困るだけだろうし……そこら辺は追い追い考えていけばいいか。
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