◇3話 計測
「勇者様、既に主様は来ていらっしゃいますよ」
「それは申し訳ありません。腹の調子がどうも安定しなかったもので……」
「それは仕方の無い事です。ご安心ください、寛容な主の事です。恐らく責める事は無いでしょう」
さて、どこまでが本音なのだか。
予想の範疇から出はしないが執事は個室に篭もる俺の様子を確認しているはずだ。中では動かずにただ考え事をしていたが……それでどこまで騙せているのだろうか。
最初はこの人を味方に付けようと考えた。
だけど、今の発言を考えてやはり否定的な考えを持った俺が正解だったな。どこまで行っても執事の主は王族だ。手を貸してもらおうとしてもどこかで裏切られて終わる。
本音を言えば話をする気なんて少しも無い。
だって、どのような理由があっても自分の都合のために異世界から人を呼び寄せるような相手だ。俺を相手にしていたのならまだ許せはした。だけど、その標的が俺の大切な生徒となると……本当に吐き気がする。
でも、身の振り方を考えるとなると接触しないという手は無い。相手に力を貸す気はサラサラ無いとはいえ、それなりに甘言を宣えば俺の味方になりそうな人と出会う可能性もそれなりに増える。最悪なのは最初から全てを否定する事だ。
「貴様が異世界から来た勇者か」
中に入ると先程までとは内装が一変していた。
元々あった大人数がいられそうなものとは変わり、広い室内の真ん中に丸い机があり、奥側に恰幅の良い、王冠を付けた明らか王様のような存在が豪華な椅子に座していた。そして王様(仮)の左右に転移した時にいた美男美女が一人ずつ。
なんというか、仮に勇者だとしてもその横柄な態度は変える事は無いんだな。それに転移の時と同じく護衛らしき人は数人程度、やっぱり俺の案内をしていた執事もかなりの実力者だったのかね。
さてさて……面倒だな。頭を下げるべきか、それとも手を貸さないという部分から下げないでいるべきか。……いや、この世界は異世界、日本の常識が通じないと考えた方が良いか。もしも、頭を下げただけで俺のデメリットが大きくなっても困ってしまう。
「いえ、私はただの異世界人ですよ」
「なるほど、異世界人は無礼者が多いと聞いたが本当だったとはな」
「申し訳ありませんが私の住んでいた世界では王族という最上位の存在はいませんでした。その点で貴方様方の誇りを傷付けてしまうかもしれません。遅ればせながら謝罪させては頂けませんでしょうか」
「……よい、我は寛大がゆえ、許そう」
偉そうなオッサンに「至極光栄です」と返した。
もちろん、少しも思ってはいない。ただ、オッサンの言葉に対して謝罪をしたくなかっただけだ。だから、非礼な俺の行動に対して謝罪をした。それに事前に無礼を許して欲しいと伝えているからな。これで礼儀に対して文句は言えなくなったはずだ。
今だって頭までは下げていないからな。
果たして……この行動に対してどこまで考えを巡らせているのだか。そこら辺は目の前の存在達が優秀か無能かで大きく左右されそうだ。少なくとも執事には俺の意図はバレているだろうな。
「して……話に聞いたが貴様は異世界人ではあるものの勇者では無いそうだな」
「はい。私は一介の教員でした。生徒と会話を楽しむ中で現れた魔法陣から守りたい一身に押し出した結果が転移というものでしたので……申し上げにくい事ではありますが勇者は魔法陣が現れた私の生徒に対してでしょう」
「ふむ……何とも面倒な事をしてくれたものだな」
なるほど、そこら辺を隠しはしないか。
まぁ、最初から手を貸すつもりは無かったが余計に好感度はダウンですよ。和奈が転移されなくて本当に良かったと思えてしまうな。こんなクソ野郎に俺の大切な生徒が汚されて溜まるか。
「それは誠に申し訳ない事をしてしまいました。どのような事が起こるかは分からないとはいえ、貴方様の邪魔をする気は無かったのですが」
「よい、だが、その分だけの働きは求めるぞ。貴様を召喚するために生贄に捧げた者は王国の中でも屈指の腕利きであった。その者達を供物に捧げた貴様の力は嘸かし高いのであろうからな」
よくもまぁ、流れるように言えるもんだ。
今の言葉を聞いてどうして手を貸してやろうとなんて思えるのだか。こういう時だけ自分が無能で良かったと思えるよ。ステータスとやらは未だに見れていないが明確に王族達が喜ぶようなものでは無い事だけは勘で分かる。
こう見えて勘だけは冴え渡っているからな。
何度、この勘で進みたくない道を選ばずに済んできたか。申し訳ないが和奈のように大切に思える生徒達の次くらいには俺の勘を愛している。俺に対して無用に求めてきていた家族よりも、もっと大事なものだ。
「……伝えにくいものではありますが私は日本という国にて無能と呼ばれた存在。恐らく貴方様方が喜ぶ結果にはならないでしょう」
というか、手を貸す気なんて無い。
アレだ、スライムが起き上がり中身たりたそうにコチラを見ているっていう訳でも無いんだ。俺が仲間になるとしたら数人の生徒が相手の時のみ、少なくとも目の前にいる自分勝手なゴミのためでは無い。
「それも良い。例え、そうであったとして貴様の体には十二人の供物となった傑物の魂が組み込まれているのだ。無能であるわけが無かろう」
「その期待……恐らく間違いでしょう」
その言葉で王様はムッとした表情をした。
だけど、それは本気で俺が思っている事だ。日本にいた時で半人前にすらなれなかった俺が、十二人の魂を貰って勇者になれると思うか。いや、確実に無理だね。だって、俺が俺に対してそこまでの自信を持てていない。そして勘が……それを強く否定するんだ。
「あまり大きな期待をしないで頂けると助かります。巨大な王国を守護する方々の目が曇っているとは言い難いですが、それでも私如きに大きな期待感を抱くのは間違いなく狂気の沙汰です」
「……よい、それも時期にわかる事だ」
ああ、そうだろうな。俺は俺のステータスを知らないんだ。それが分かるようになる道具があったとしても何ら不思議では無い。そして……俺は違う意味で期待を持っているんだ。
俺は俺のステータスが勇者並みだとは思っていない。だけど、それが他の分野になれば勇者並みになるかと思えば違う。俺のステータス以外の部分でシワ寄せは来ると思うけど。
だって、王様(仮)の言葉が正しいのであれば、生贄の数によって召喚できる存在の価値が大きく変動するって事だ。勇者のために作り出した魔法陣とはいえ、召喚したのが俺一人となると何かしらの恩恵を受けていても不思議では無い。
まぁ、あくまでも希望的観測だ。
それでも何かしらの特異性がある事だけは確信的に感じている。ここまでお膳立てされて、ハイ何もありませんだなんて有り得るわけが無いだろ。まぁ、そこら辺も少ししたら分かる事か。
「この水晶玉はアーティファクトと呼ばれる、神々の時代から残された秘宝。この魔道具に手を翳すことによって力を持たない異世界人にもステータスを与える事が出来るのだ」
所々で異世界人へのディスリスペクトが混じっているな。アレか、本音では異世界人に助け何て求めたく無かったって事か。それなら圧倒的な力を持つとはいえ、異世界人をアテにするなよと言いたいところだけど……まぁ、いい。
「従って貴様にはこの魔道具に手を翳してもらいたい」
本当に言葉通りの事が起こるのだろうか。
この水晶玉にだって言外の能力があって後々に触れた事を後悔する可能性も……いや、今の状況下で触らないって選択肢は取れないな。それにステータスというものが無いと困るのも確かな事だ。
静かに首を縦に振って水晶玉に手を乗せた。
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名前 オオクボ リョウ
職業 指導者LV1
年齢 10歳
レベル 1
HP 100
MP 100
物攻 10 物防 10 魔攻 10
魔防 10 速度 10 幸運 100
固有スキル
【指導術】【予感】
スキル
【指揮術1】
魔法
____________________
ステータスが現れた瞬間に全員が絶句した。
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