5章 お正月特別編
ある夜のこと。
トントコトントコ……トトントトントン……。
ピーヒャラピーヒャラ……。
『ネコ太:ミニャちゃんミニャちゃん。起きて起きて』
「にゃ……うみゅ……?」
トントコトントコ、トトントトントン!
ピーヒャラピーヒャラ、ピロリロピロリロ!
賢者たちに起こされたミニャも、その賑やかな音に気が付いた。
「にゃ、にゃにぃ?」
ミニャはふにゃふにゃな返事をしながら起き上がると、準備運動を始めるように控えめにズンズンし始める。
『ネコ太:お祭りが始まるよ!』
「おまちゅい……」
はて、おまちゅいとはいったい何だったか、とミニャは寝ぼけながらほわほわと考える。その間にも体はズンズンビートを刻み続け、激しさを増していく。
「おまちゅい……おまちゅり……」
ズンズズズンズズ……。
「おまちゅりおまちゅり」
ズンズズズンズズ。
「おまつりおまつり!」
ズンズズズンズズ!!
ズンズンと上下した腕がギュワンと大回転し、バシーンとポージング。
「にゃんですと!?」
寝ぼけ虫が吹き飛んで全てを理解したミニャはにゃんですと。ミニャだってお祭りくらい知っているのである。
『ネコ太:早く早く!』
「にゃん!」
ネコ太に連れられてお外へ出たミニャが見たものは、焚火の周りをグルグル回りながら踊っているたくさんの賢者の姿だった。ミニャもその輪に加わって踊り出す。
「お魚お魚、ミニャちゃんのお魚! 美味しいお魚キンナミカマズロ。賢者様がよく取ってくるのはセグロラーヌイ」
曲目はお魚ダンス。
極めて適当な歌を歌いながらミニャがズンズン、賢者もズンズン。
するとどうだろう、ミニャの前にビチビチとイキの良いお魚が現れた。
「キンナミカマズロだ! にゃしゅ!」
ミニャは、1mはあろうという巨大なカマズロを抑え込んで大興奮。
「ビチビチしとる!」
こいつはいかんとミニャは勇ましく巨大カマズロに跨った。
すると、巨大カマズロは空を飛び、ミニャの馬となってズンズンダンスを賑わせる。
一頻り踊ったミニャは、巨大カマズロさんを賢者たちに引き渡した。
一緒に踊った? それはそれ。
さっそく賢者たちが巨大カマズロを焼いてくれる。
お祭り料理はそれだけではない。
待っているミニャの前に、クリームシチューやおにぎり、お肉、普通サイズの焼き魚、フルーツ盛りとたくさん並ぶ。賢者たちがほぼ毎日出す山菜は何故かない。
「にゃー、しゅっごー」
目の前に並んだ料理を見て、ミニャは目をキラキラさせた。
しかし、まだ手を付けない。
「ねえねえ、賢者様。みんなは?」
だってまだ村民さんたちが来てないから。
『ネコ太:みんな寝ちゃってるんだよ。今日はミニャちゃんだけの内緒のお祭りなの』
「え……」
ミニャは指遊びを始めた。
「だけどだけど、賢者様。ミニャ、みんなと一緒に食べたい。呼んできてもいい?」
『ネコ太:でも冷めちゃうよ?』
「冷めても良いよ」
ミニャはダダッと駆け出して、レネイアとマールのお家に入った。
なぜかエルフ姉妹以外に他の子供たちも眠っているが、ミニャは気にせず起こしにかかった。
「マールちゃん、ご馳走があるよ。ルミーちゃん、美味しいお魚がいっぱいだよ」
ミニャはそう呼びかけるが、誰も起きない。
しばらくそうしたが、結局誰も起きなかった。
ミニャはトボトボとお祭り会場の広場に戻った。
『ネコ太:起きなかったでしょ?』
「うん……」
『ネコ太:だってこれは夢だもん』
「夢……にゃんですと!」
『ネコ太:夢の中なんだから、ミニャちゃんだけ美味しいのを一杯食べていいんだよ』
そう言われたミニャは、油がテカテカと輝く巨大カマズロを見てゴクリと喉を鳴らした。その隣には甘い香りのクリームシチュー。
「賢者様も食べる?」
ミニャは指遊びをしながら問う。
『ネコ太:ううん、私たちも食べないよ』
「みー」
ミニャはめそめそし始めた。
グシグシと涙を拭いながら、チラチラと名残惜しそうにご馳走を見つめていたミニャだが、意を決したように「んっ」と気合を入れた。
「ミニャ、みんなと食べたいな。賢者様、夢から覚めてもクリームシチューとおっきい焼き魚作ってくれる?」
『ネコ太:うん、いいよ』
「ホント?」
『ネコ太:うん』
「じゃあミニャ、ここで食べない。お腹いっぱいになっちゃうもん」
ミニャがそう宣言すると、パァーと天から光が降り注いだ。
「みゃーっ!」
ミニャと賢者たちはその光の中に吸い込まれていった。
次の瞬間、ミニャはクワッと目を開けた。
『ネコ太:ミニャちゃん、起きた!? なんかすんごい寝ぼけてたよ。大丈夫?』
そう問いかけるネコ太をワシッと掴み、ミニャは問う。
「ミニャ、ちゃんと起きた?」
『ネコ太:え? う、うん、起きたけど。もしかして夢を見てたの?』
「うん、変な夢見た」
『ネコ太:どんな夢?』
「えーっとねー」
ミニャは賢者たちに夢の内容を語った。
「そんでねー、みんなが起きないから、ミニャ、起きたらクリームシチューとおっきい焼き魚を作ってって賢者様と約束したんだ」
夢の内容を聞いた賢者たちはペタンと尻餅をついた。
これが聖属性。夢だとわかれば、賢者たちならとりあえず食べていただろう。
「でも夢だったんだってー」
ミニャはしゅんとした。
夢なら約束もなにもない。
だが、賢者たちはこのカワイイ約束を叶えないわけにはいかなかった。
【345、名無し:おい、ニーテスト、わかってんだろうなぁ!?】
【346、ニーテスト:わかったわかった。好きにしろ】
【347、釣りっぽ:よーし、ミニャちゃんは大きな魚をご所望だ! 気合入れていくぞ!】
【348、トマトン:誰か、クリームシチュー用のコジュコジュを狩ってきて!】
賢者たちがワイワイと動き出す。
その日の夜、村民さんたちはクリームシチューを堪能し、ミニャはおっきいお魚を食べてニコパと笑う。
「賢者様、ありがとう!」
ミニャは賢者様はやっぱりすごいのだと思いながら、脂がのった焼き魚に舌鼓を打つのだった。
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