5-12 ペイントフィギュア


【5月4日】生産スレッド PART4


1、ふともも男爵

 ここは生産好きのための雑談スレッド。生産関連なら話題は自由です。また生産系の賢者ではなくてもアイデアがあれば受け付けます。次は970がスレッドを立ててください。


2、ふともも男爵

『お知らせ:4月21日改定分コピペ』

・生産系の常設クエストは前日の15時から翌日分を全て発行します。

・特殊案件クエストは本スレッドで相談の上でクエストを発行します。

・各クエストで増員などが必要な場合は『生産賢者チャットルーム』にて要請をお願いします。

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488、百太郎

 研究所より報告。41番から80番のレンガの耐久試験が終わった。データは図鑑に記載しておく。釉薬についてはハイイロ君がいままとめてくれているはずだ。


489、名無し

 お疲れっす!


490、鍛冶おじさん

 こう見ると、魔物素材を多く入れたら良いわけではないんだな。


491、百太郎

 うむ。魔物素材を多くし過ぎるとどこかしらに大きな欠点が生まれるな。基本は地球と同じようにベースの土に長石や草木灰などの粉末を含ませ、魔物素材は全体の15%程度までに留めるのが良いだろう。この15%に何を含ませるかが重要な印象だね。


492、名無し

 15%か。それでも結構な量を集めないとダメそうだな。


493、百太郎

 あと、70番以降の魔石紛のデータを見てもらえばわかるが、別々の魔物の魔石紛を用いるのはあまり良くないようだね。含まない物よりも強化は期待できるが、同種のみの魔石紛を使ったほうが全体的に良い結果に落ち着いた。


494、名無し

 なにが原因なんだろう。ゲーム的に考えれば、属性、種族、ランクとかで相性があるのかな?


495、百太郎

 原因は気になるところだが、現状では研究が難しいな。ひとまず、ミニャンジャ産の魔石紛は同種で統一し、ダンジョンでヘビやスライムの別種が発見されたら、その時に研究を再開する形で良いと思う。


496、鍛冶おじさん

 それが良さそうだな。了解しました。


497、工作王

 次のレンガが明日には焼き上がりそうです!


498、百太郎

 了解した。


499、工作王

 建材としての土の研究はこのあたりで大丈夫そうですか?


500、百太郎

 ダンジョンがある以上は上を求めたらキリがないからね。明日の試作レンガが最終で良いと思うよ。その中から量産するレンガの配合を決めればいいだろう。


501、工作王

 了解しました。


502、鍛冶おじさん

 これから水路建設が始まるし、焼成窯が一基じゃあ少ないと思うんだが。


503、名無し

 北の川付近と湖付近にあれば便利だよな。レンガを遠くまで運ぶ必要もなくなるし。


504、工作王

 その話は持ち上がっているから、定例会議で土木賢者の予定を確認してみるよ。


505、名無し

 話をぶった切るけど、ネムネムとルナリーちゃんの生放送見ろ、凄いぞ!


506、サカタ

 ネムネムって今日は何してたっけ?


507、リッド

 昨日、顔料やニスが届いたって大はしゃぎして、今日は朝からずっと研究してたよ。


508、サカタ

 ほう、ということはつまりフィギュアに肌色がつくのか? こうしちゃいられねえ!

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 アメリアがついてきた5月3日の納品便の中には、顔料や塗料が大量に入っていた。

 これに喜んだのは、ネムネムやルナリーのような絵が上手い生産賢者たちである。


 しかし、デジタルで絵が描ける昨今、顔料から色を作るという技法を熟知している賢者は誰もいなかった。一応、美大で習ったという賢者もいたが、別にそれを専門でやっているわけではないので、知識だけある感じ。


 スライムゼリーが繋ぎ剤になるという情報はすでに得ているので、それを頼りにあれこれやり、ネムネムたち研究班は顔料を溶くことができるようになった。それから色を混ぜ、乾かした時の色合いや撥水性を観察し、納得いく成果を出した。地球だとアクリル絵の具に質感が近いだろうか。


 そして、現在、1体のフィギュアの色を塗っていた。


『ルナリー:おー、ネムネムさん凄いです……』


 同じ分野が得意なルナリーに褒められるが、ネムネムにいつものお茶らけた様子はなく、真剣そのもの。


 ネムネムは生産属性として、他の賢者よりも立体物を作る腕前は劣っていた。

 製作されるほとんどのフィギュアのラフ画を描いたり、文字を覚えて異世界人との意思疎通を買って出たりして活躍してきたが、パトラシアで真に自分の作品を作っているとは言い難いとネムネム自身は思っていた。


 ネムネムが色を付けているのは、よく磨かれた石製フィギュアだ。もちろんそれもネムネムがデザインしたフィギュアであり、肌の色や髪の色は頭の中に入っていた。


 平面を描くいつもの癖で陰影を入れそうになるが、立体物なのでそれは必要ない。それよりも重要なのは血の通った人に見える仄かな肌の赤み。


 たくさんの賢者たちに視聴される中、ネムネムは筆でフィギュアに色を付け、命を吹き込んだ。


『ネムネム:ふぅ……完成だ!』


『ルナリー:ふひゅっ』


『メリン:えっろ。最高かよ、ネムネム』


 女子たちがキャッキャ。

 ネムネムがペイントし、女子高生なルナリーからちょっとヤバめな笑い声が上げさせているそれは、子犬系のイケメンフィギュアであった。全身に色を付けたので、当然全裸。なお、男性の象徴はついていない。

 それに伴い、生放送を視聴する多くの女性賢者に「ほーん、えっちじゃん」と呟かせ、逆に男性賢者の多くは失望した。


 乾燥の魔法で乾かしてから、メリンがスーピィ布で作っておいたハーフパンツとパーカーを着せる。解釈一致の女性賢者もいれば、執事服が良いとか制服が良いとか和服が良いとか好き勝手言うヤツもいる。男性賢者からすれば激しくどうでもよく、早く女性型フィギュアを塗れとブーイング。


 ネムネムはさっそくニーテスト専用スレッドに連絡した。


【121、ネムネム:ニーテスト見てるぅ?】


【122、ニーテスト:見てるぞ。なかなか良いじゃないか】


【123、ネムネム:おっ、ニーテストわかってんじゃん】


【124、ニーテスト:誰か宿せばいいのか?】


【125、ネムネム:あたしあたし!】


 というわけで、ネムネム自らが宿ることに。

 今まで宿っていたフィギュアからペイントされたフィギュアへと移し替えられる。


 むくりと起き上がった子犬系イケメンフィギュアに、周りにいる女性賢者はオタク的奇声をフキダシに表示させる。


 気を良くしたネムネムは、年下の友人であるルナリーの顎をクイッとした。

 女子高生は足がガクガクさせて腰を抜かした。なお、ルナリーが宿っているフィギュアも爽やか系のイケメンである。


『メリン:ね、ねえ、ネムネム、ちょっとあたしに壁ドンして』


『ネムネム:僕に命令していいのは僕だけだ!』


 壁ドン!

 やはりヤンチャ系イケメンフィギュアに宿ったメリンは、ビクンと腕を胸の前で畳み、壁に背中を引きずりながらへなへなした。


『ネムネム:こいつぁすげぇぜ!』


 たーのしぃー!


『ルナリー:ネ、ネムネムさん、大変です!』


『ネムネム:どったの? 自分の性癖が子犬系だったって気づいてしまった?』


『ルナリー:ち、違いますよ! そうじゃなくて表情が動いてます!』


『ネムネム:えっ、マジで!?』


 そう、顎クイした時は少し悪戯っぽく、壁ドンした時はどこか辛そうに表情が動いたのである。当然、壁ドンした時のネムネムはなんら辛くはなかったが、表情が変わらないと知っていながら心の中で演技をしていた。


 これにはスレッドでも大騒ぎ。


【613、ビヨンド:ペイントが表情を変える要素だったのか!】


【614、ふともも男爵:これはミニャちゃんの生活がさらに豊かになるね!】


【615、鍛冶おじさん:こうなると、陶器フィギュアも上絵付をした方がいいな】


【616、工作王:おいおいおい、俺がレンガ作っている間に凄いことになってない!?】


【617、ビヨンド:これは、今日も眠れないな】


 賢者たちに激震が走る発見がされたが、ひとまずは検証をスタートした。


 するともうひとつ発見があった。

 体温機能が搭載されていたのだ。


『ネムネム:ルナリーちゃん冷たっ!』


『ルナリー:や、やめてください。こんな温かさを覚えたら戻れなくなっちゃう……っ!』


『メリン:うわぁ、あったかーい!』


 ネムネムがルナリーに抱き着き、そんなネムネムにメリンが背後から抱き着く。全員男性型フィギュアによるサンドイッチ。


【640、工作王:わかったから検証しろよ】


【641、ビヨンド:早くステータス開けや】


【642、名無し:男のフィギュアに女子を宿すとごっこ遊びがドぎついんだよな】


【643、名無し:これが女子の理想なのか……】


【644、名無し:あとで俺たちもやろうぜ!】


【645、名無し:やだよ。美少女でも中身お前らじゃん】


【646、工作王:ほら、ネムネム! 検証して!】


 スレッドで怒られ、真面目に検証が始まる。


 ネムネムは指を開閉したり、膝を見たりする。石の体そのものがそうであるように、関節の負荷でペイントがヒビ割れるといったことはない様子。

 体温や表情機能は宿ったが、肉の柔らかさはなく、素材そのままの硬さであった。


 表情は、口の形状や頬の変化、瞼の開閉が可能になった。

 口内については歯と舌が存在せずに、唇と同じ色になっている。


『ネムネム:あっ、ダメだ。人生で一番食べにくい』


 試しにそこら辺の葉っぱを食べてみたが、飲みこむ機能はなく、口内で光になって消えていった。それどころか食べるという行為自体が極めて難しかった。


『ルナリー:たぶん歯がないことよりも舌がないからじゃないですかね。舌は指先よりも器用だって何かの本で読んだことがありますし』


『ネムネム:なるほど、確かにこれは舌がないから難しい感じだわ。口内で物が動かせないもん』


 さらにスペック検証は続き、重大なことがわかった。

 それは、ペイントはあくまでも体温と表情機能をつけるだけで、能力値には影響を与えないという点だ。しかし、ミニャの人生を豊かにするためにもペイントを施すのはかなり重要なことだと、賢者たちは考えた。


 というわけで、お披露目の時間だ。


 ミニャが夕ご飯を食べ終えてまったりしている時間に、突撃。

 ミニャにも親しみやすいという理由でネコミミをつけた女性型フィギュアが色付けされ、それをラッピングしてミニャの下へ運んだ。服装はワンピース。


 玄関からワチャワチャと入ってきた生産賢者たちが持つ荷物を見て、ミニャの目がキュピンとした。


「プレゼントだ!」


 賢者たちが包みを持ってきたプレゼント。それはすっかりミニャの生活のお決まりになっていた。


『ルナリー:ミニャちゃんミニャちゃん! 開けてみてください!』


「にゃふぅ、わかった!」


 賢者たちに促されて、ミニャはズンズンと踊りを挟みながら布の包みを開いた。


「にゃーっ、お姉さんのお人形! すんごく綺麗!」


 色が付いた美少女フィギュアを見て、ミニャはテンションを上げた。賢者からすれば美少女だが、7歳のミニャからすればお姉さんなのである。それは日本の女児がアニメキャラを見て、年上の素敵なお姉さんと認識するのと同じだ。


「ふぉおおお……」


 ミニャは優しい手つきでペイントフィギュアを手に取り、じっくり鑑賞。

 ワンピースのスカートもペロッとめくってみる。


「パンツ!」


 ミニャは元気にパンツ宣言。

 賢者たちには肉感がないので食い込みを織り込み済みで設計される紐パンなどと相性が悪い。そのため、履いているのはドロワーズのようなタイプだ。


『ネコ太:ミニャちゃん、賢者さんを召喚してみよう』


「わかった!」


『ネコ太:ネムネムを召喚してあげるといいかも。ネムネムが色を付けてくれたんだよ』


「おー。さすがネムネムさん」


 ミニャがウインドウを操作して、ネムネムをペイントフィギュアに宿した。


 すると、フィギュアの目がパチパチと開閉し、ニパッと笑った。


「にゃ、にゃんですと!?」


『くのいち:どうしたのミニャちゃん!』


『ハナ:何かあったんですか!?』


 ミニャの驚きに、答えを知っている賢者たちはおおげさに反応した。


「笑った! ネムネムさんが笑ったの!」


『ネコ太:わっ、本当だぁ!』


 ミニャがわたわたとみんなに教えてあげる。

 ミニャが殊の外喜んでくれたので、無表情なネコ太たち近衛隊も心の中でニッコリ。これは早急に近衛隊にペイントフィギュアを配備しなくてはならないとネコ太たちは思った。


 さらに、ネコミミ付きのフィギュアはペイントをすることでネコミミがピコピコと動くようになった。これにはミニャのネコミミもピコピコだ。


『ネムネム:ミニャちゃんミニャちゃん!』


 ネムネムが腕を広げてピョンピョンするので、ミニャは抱っこしてあげた。


「む? むむ?」


 すると、ミニャは何か違和感を覚えて、ネムネムの顔をほっぺにくっつけた。周りの賢者たちが激しく羨ましがる中、ミニャは違和感の正体を見破った。


「にゃー、あったかい!」


 人肌機能に気づいたのである。

 ピトッとくっつけて「にゃー」を繰り返すミニャ。ペイントフィギュアではない人形とも比べてみたり。ミニャは人肌機能が気に入った様子。


 笑顔が表現できるようになったのは偉大な進歩で、笑顔のネムネムとズンズンセッションをするミニャもまた楽しそうに笑うのだった。



―――――――――――――――――――――――

【あとがき】

 本年も読んでくださりありがとうございました。

 また、サポーターになってくださった方々には深く御礼申し上げます。

 来年も精進しますので、どうぞよろしくお願いいたします。


 それでは皆様、良いお年をお過ごしくださいませ。

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