5-11 遠足


 5月4日。


 歓迎会をした昨日は、「クリームシチュー美味しかったねー」と子供たちが幸せそうに感想する夜となった。

 一夜明け、朝ご飯を見て、クリームシチューじゃないかーみたいな気配が出たのは仕方のないこと。


 さて、この日はお勉強を午後からにし、午前中は川へ遠足に出かけることとなった。


 いち早く準備を整えたのはミニャとクレイ。

 クレイの装備を見て、ミニャが目をキラキラさせた。


「クレイ君、剣持ってる!」


「剣ってほどの物じゃないですよ。訓練用の木剣です」


 クレイは毎朝、ミニャたちよりも早くに起きて、木剣で素振りをしていた。剣王の血筋だけあって、剣が好きなのだ。

 その太刀筋は、日本の10歳児では勝てる子がいないんじゃないかと思えるほど鋭い。


 ネコ忍の中には日本や中国の剣術を修めている者もいるが、クレイへの指導は行なわれていない。異世界となると全然わからないので、どういった剣術なのか観察中なのだ。いずれは何かを教えてあげられるかもしれない。


 クレイと話していると子供たちが集合した。

 子供たちはネコミミヘルメを被り、年少組は背負ったリュックの肩紐に手をかける小学1年生の構え。リュックの中にはおにぎりも入っているので、ワクワク感は増量中。


 整列した隊員さんを見て、ミニャちゃん隊長は言う。


「今日はこれから川まで行きます。賢者様たちが道を作ってくれたけど、その道から出て森の中に入らないようにしましょう」


「「「はーい!」」」


 隊員さんの元気なお返事にミニャちゃん隊長はうむぅ!


「それじゃあ、しゅっぱーつ!」


 こうしてミニャちゃん冒険隊はミニャンジャ村を出発した。

 メンバーはザインとバール以外の村民さんとモグ、護衛賢者80名+斥候賢者100名。ザインとバールはダンジョンが楽しいようで、今日から1泊2日のダンジョン入りだ。


 そんな賢者の中には、子供たちが作った本焼きフィギュアも混じっていた。子供たちは自分が作った人形がお気に入りで、その期待に応え、宿っているのも社交性のある近衛賢者だった。


 なお、よちよち歩きのモグは移動速度が遅いので、コーネリアがリュックに入れて背負っている。リュックから顔だけ出し、子供たちとお話するように鼻をひくひくさせる。


 さて、ミニャンジャ村の北、3、40mの場所には枯れた川がある。

 ミニャたちはその枯れた川沿いを北西へ向けて歩き、上流へと遡った。


 川沿いは草木が伐採されており、両側3mずつくらいの道が造られていた。賢者たちが昼に伐採し、夜に根を処理して、24時間エンドレスに働いて作った道である。


 途中まではトロッコの木製線路があり、やがて焼成窯が見えてきた。


「なんか焼いてる!」


 焼成窯はモクモクと煙を出していた。

 窯の前にいた賢者たちは仕事を放って、ミニャちゃん陛下御一行をお見送りするために道まで出ていた。その姿は沿道で歓声を上げる市民のよう。


「またお人形焼いてるの?」


『工作王:いや、今日はレンガを焼いてるんだ』


「レンガかー。四角いヤツ?」


『工作王:そうだよ。家を作ったり、水路に敷いたり、これからたくさん必要だからな』


 お仕事をしている賢者さんとハートフルなやりとりをしつつ、ミニャちゃん冒険隊は再び歩き出す。


 しばらく歩くと、木製トロッコの終点に着いた。

 そこでも石運びの賢者たちが出迎えてくれた。賢者たちはそこら中でお仕事をしているのだ。


『雷光龍:ミニャちゃんじゃん! これからおでかけ?』


「うん、川まで行くの!」


『雷光龍:おー、いいねー。気をつけていくんだよ』


「うん!」


 たくさんの賢者たちに『いってらっしゃーい!』とお見送りされるミニャちゃん冒険隊。なお、雷光龍はおでかけかと問うたが、川まで行くのは当然周知されている。


 トロッコの終点からはミニャたちも入ったことがない地域。


「猫じゃらし!」


 道端に猫じゃらしを発見!

 道作りをした賢者たちに許された雑草だが、ミニャちゃん陛下は生意気にもふよふよ揺れる猫じゃらしを決して許さず、ぶっこ抜いた。


 猫じゃらしが3本手に入ったので、パインとルミーにも1本ずつあげる。

 ひゅんひゅんさせながらご機嫌な様子で歩き出すミニャ。イヌミミ姉妹は同じようにひゅんひゅんしながら尻尾もブンブン。

 羨ましくなっちゃったマールや双子も猫じゃらしをゲットして、第一次猫じゃらしブームが到来。


 雑草で喜び、大きな岩を見れば大発見のようにはしゃぎ、枯れ川の土手に謎の穴が空いていればワクワクする。その様子はまるで田舎の小学生の夏休みのよう。


「賢者様、これ持っててー」


 時にはパインやルミーから猫じゃらしを預けられるという重大任務を任される賢者も現れる。朱槍持ちの如く他の賢者たちからは羨望の的である。


「そういえば、この川はなんで枯れてしまったんですか?」


 シルバラがミニャに問うた。

 ミニャは「なんで?」と賢者に問うた。


『ネコ太:なにかが原因で川の道筋が変わっちゃったんだと思うよ。昔のこと過ぎてなんでかはわからないな』


 賢者たちもこの枯れた川を遡って調査したが、10年やそこらで枯れたようではないと推測していた。


「昔過ぎて賢者様もなんでかはわからないって」


「そうなんですか」


 すると、セラが補足した。


「ドラゴンみたいな大きな魔物が移動すると、地形を変えてしまうことがたまにあるの。このくらいの小さな川の跡っていうのは、結構あるものよ」


「ドラゴン!」


 ミニャは聖鞭猫じゃらしをシュバッとさせた。

 一方のシルバラは不安顔。


「この辺りにもそういう強い魔物は出るんですか?」


「めちゃくちゃ強い魔物は約束の石板がある地域には滅多にやってこないわ。そういう魔物は女神の森の奥地で濃厚な魔力でできた物を食べて生きているのよ。約束の石板があってもやってくるのは、伝説にも出てくる邪竜とかね」


「邪竜!」


 ミニャは聖鞭猫じゃらしをシュババッと払った。足元の賢者がコロン!

 一方のシルバラの不安ゲージはムクムクした。女神の使徒が近くでシュババッとやる気を示しているのに、なぜ。


「あとは、中途半端に強い魔物とかは来ちゃうわね。でもまあ、邪竜が出たらどこにいても大して変わらないし、中途半端に強い魔物なら賢者様がぶっ飛ばしてくれるから、心配するだけ損よ」


 セラの口ぶりから、賢者たちではまだドラゴンは倒せないと判断している様子。ただ、女神の使徒がドラゴンを倒した伝説はあるので、ミニャにも同じ程度のポテンシャルはあるはずだ。


 やがてミニャたちが歩く道は終点に辿り着いた。枯れた川はそのまま続くが、その川沿いに道は続いていないのだ。


「橋だ!」


 その代わり現れたのは5本の太い木を使った丸太橋。

 そんなの子供が喜ばないはずもなく、ドキドキしながら渡る。尤も、橋の下は枯れた川なので橋を歩かずとも渡れるのだが。


 橋を渡ると、ははーんとミニャが次なるルートを見破った。


「次はあっちでしょ!」


 枯れた川沿いの道は無くなったが、橋を渡って北東方向へ道ができていた。

 橋を渡った先に切り開かれた道は、そんな右側の川へと続いていた。


 さっそくそちらへ歩を進めると、変なのを発見した。


「これなぁに?」


 それは工事現場によくある木の柵のようなものだった。

 その名称と存在意義を知らないネコ太は、素早くサバイバーの肩を叩く。お前が答えろと。


『サバイバー:これは丁張りだね』


「ちょうはり!」


 ミニャはインプットとアウトプットを高速で行ない、脳に焼き付ける。


『サバイバー:家を作る時に、ミニャちゃんも地面の上に糸をピンと引いてくれただろう?』


「やった!」


『サバイバー:ああやって目印を付けると、完成した時の姿をみんなが想像しやすくなって、作業に間違いが起こりにくくなるんだ。でも、地面に線を引くだけだと雨風で消えちゃうから、こうやって木を打ち込んで工事の目印にしているわけだよ』


「はー、なーほーねぇ」


『ネコ太:へえ』


 ミニャと一部の賢者たちは感心した。

 賢者の中には工事現場に忍び込んで丁張りを破壊したクソガキ時代を送った者もおり、時を超えて反省した。


「ミニャさん、これなんだって?」


「これはねー」


 マールから問われたミニャは、さっそく子供たちに教えてあげた。


 丁張りを見ながら30mほど歩くと、その川は見えてきた。かなり水量の多い川だ。


「おーっ!」「わぁ!」「すっげー!」


 クレイと双子兄弟の男子組がワクテカした。


 川幅は5mほどで、水量は多いが流速はあまり速くない。

 大きい石も見られるがゴロゴロしているというほどではなく、日本なら中流域のような風景だ。


 枯れてしまった川と、いまミニャたちが見ている川。

 川辺の石の状態から、この2つ川はかつて2つの流れを形成していたと賢者たちは分析していた。過去に何らかの原因で片方の川がせき止められ、1本の川となって現在に至るという推理だ。


『ネコ太:ミニャちゃん。賢者さんたちはね、いま歩いてきたその道に溝を掘って、あの枯れた川にこの川から水を流し込むつもりなんだよ』


 そう、賢者たちは1本になった川を再び2本の川にしようと計画していた。ミニャたちが見た丁張りはその水路のためのものだった。


「はえー。そうすると……ミニャンジャ村にも川ができるの?」


『ネコ太:そう。みんなが石を拾っているあそこが川になっちゃうの!』


「おーっ!」


 ネコ太から説明を聞いたミニャはとりあえず喜びの舞。


 賢者たちが今回の遠足を決行したのは、着工の前にそんな歴史をミニャたちに知っておいてもらいたかったからだ。以上、遠足の社会科見学フェーズはあっさりと終了。


 続いて始まるのはお遊びタイムだ。


『釣りっぽ:ミニャちゃんたちにはこんな物を用意しました!』


 すでにそう発表した賢者の名前からして激しくネタバレが完了していた。


「にゃんだこれ!?」


『釣りっぽ:釣り竿です!』


「釣り竿! ミニャ知ってる! でもやったことない!」


 釣り竿の長さは3mほどの木製の竿。しなりは十分だが大物との戦いには不安な一品。

 釣り糸と釣り針の方はグルコサで買った物で、竿よりは信頼性が高い。浮きや錘は賢者たちのお手製だ。


 というわけで、釣り大会が始まった。


「ふんふん。みんな、こうやって持つんだって」


 釣っぽが小さな竿で実演して、釣竿の持ち方からちゃんと教わる。何も知らない子供に釣り竿を持たせたら、高確率で釣り糸を持たずにフラフラさせてしまうので。


 続いて、セラや賢者にエサの付け方を教わりつつ、みんなも自分でやってみる。


 エサは賢者たちが川の石をひっくり返して事前に集めておいた川虫だ。

 石の器の中に濡れた布の切れ端と一緒に川虫が入っているが、一部の賢者が頑張ったので軽いグロ画像。


 しかして、異世界女子はポケットにバッタを突っ込む程度には虫耐性が◎である。石の器から素手でひょいと取って、釣り針に刺す。


 もちろん男子も余裕で触れるが、これは日本の虫業界でも男子小学生を見たら全力で逃げろと子々孫々教わるほどなので、異世界男子だから特別なわけではないだろう。


 子供たちがキャッキャとエサをつける様子を見て、虫耐性を失って久しい一部の賢者たちは足をガクつかせた。


「こうやって片手で釣り竿を持って、もう片手で持った糸を離すと……」


 セラが見本を見せる。

 手から離された仕掛けは振り子のように動いて、川へと着水した。


 浮きが川の中をゆっくりと流れていき、セラが次の説明をしようと口を開こうとするが、それよりも早く当たりがきて、あっさりと釣り上げた。


「釣る人もいないからスレてないわね」


 これには子供たちから「すっげーっ!」と尊敬を集めた。


「これなんて魚?」


「ポトコ!」


 マールの質問に、ミニャちゃん魚博士がニコニコしながら答えた。ミニャは賢者たちが獲ってくる魚の名前を全部覚えているのだ。


「なにアンタ。釣りなんてできるの?」


 コーネリアが子供たちの尊敬を一心に集めるセラに問う。ちょっとズルくない、みたいな嫉妬が言外に垣間見える。


「逆にアンタできないの?」


「べ、別にできるし。冒険者だし」


「まあ王都の冒険者はダンジョンばっかりだからねー」


「できるって。よーし、モグちゃんに食べさせる分を釣っちゃうわよ!」


「もぐぅ!」


「なに言ってんの。アンタは私と一緒に小さい子のサポートよ」


「え!?」「ももぐ!?」


 モグは残念そうだが、それはそう。双子兄弟は器用なのですぐに覚えそうだが、イヌミミ姉妹は一人でやらせるには小さすぎる。


「それから川辺の石をひっくり返さない方がいいわよ。小さなカニがいるから」


「マジで!? わかった!」


 そんなコーネリアの治療は良好に進んでいた。

 1日の終わりにアレルギー物質が付いた布を外すのだが、昨日は外した跡に赤みは見られなくなっていた。健康鑑定ではまだ治っていないと出ているので、あと数日は継続する必要があるだろう。


 セラは子供たちに向き直り、釣りの仕方を教える。


「糸を垂らすと下流に流れていくから、魚が掛からずに流れてもその場から移動しちゃダメよ。ある程度流れたら糸を引き上げて、また最初からやるの。移動すると他の人の釣り糸に引っかかっちゃうからね。あと、糸は簡単に引っかかっちゃうから、草木の方には入れないようにね」


「「「はーい!」」」


 やり方を覚えたミニャもさっそくトライ。


「にゃしゅ! んー……にゃしゅ!」


 糸を手から離してにゃしゅ、仕掛けが着水してにゃしゅ。

 竿を両手持ちして浮きを見つめる目つきはいつもの陽気さはなく、真剣そのもの。


 少し川を流れた浮きが、ピュッと素早く水中へと沈んだ。


「にゃんですと!?」


 謎の現象に吃驚仰天なミニャだが、野生の本能か、竿を立てる。

 こいつはやべぇと魚も抵抗! バトルスタート!


「にゃーっ、ブルドルしとる!」


 手に伝わるブルドルとした激しい感触に、負けじとミニャはちっちゃい手で竿をグッと握る。


「うにゃ! にゃぅー……にゃしゅ!」


 ミニャの謎の掛け声とともに、魚が水面に姿を現した。


「みゃーっ!」


 釣り上げられた魚が宙を舞い、夏の日差しに煌めく。

 釣り糸に吊るされた魚は振り子運動し、ミニャを越えて背後へプラーン。それに合わせて賢者たちもわぁーっと移動。


「待て待てぇ!」


 ゲット!


「にゃー、キンナミカマズロだ! ミニャ、キンナミカマズロ釣った!」


 ミニャちゃん魚博士は魚の正体を瞬時に見破った。

 キンナミカマズロはマスのような形状で、体に金と赤の波模様があるのが特徴。


『ネコ太:ミニャちゃんすごーい!』


『釣りっぽ:これは大物だな!』


 釣りっぽが口から針を取ってあげ、キンナミカマズロは即席の生け簀に幽閉された。なお、大物と言われているが普通サイズ。賢者たちは褒めて伸ばすタイプなのだ。


「わきゃー! ミニャちゃん、これどうするの!?」


「むむぅ! 大変!」


 ミニャは当たりがきたマールの応援に走る。ド素人がなんの応援をするのかは不明だが、2人共楽しそうなのでヨシッ!


 他の子供たちもある程度の間隔を開けて釣りを楽しむ。

 セラとコーネリアはイヌミミ姉妹や双子兄弟のサポートに回り、楽しそう。


 そんな子供たちと一緒にキャッキャする賢者もいる一方で、鋭く周辺を警戒している賢者たちもいる。対岸の森はもちろん、空からの襲撃やヘビなどが音もなく近寄るのも許さない。


 こういった任務にはネコ忍が非常に重宝されたが、最近は普通の賢者の中にも『警戒をする』という行為を具体的にどうやればいいのかわかってきた者も現れ始めた。これも森の中で生活しているおかげか。


 そんな賢者たちの努力のおかげで、今日も子供たちはキャッキャと遊べるのである。




 釣りを終えると、今度は大自然のお料理体験。


 といっても、この場の子供はミニャ以外スラム出身だ。自炊はできるし、魚も捌ける子は多い。料理のりの字も知らないのは体が弱かったルミーとお坊ちゃんのクレイくらいなものだ。


 ただ、ほとんどが独学なので、ナイフの使い方や調味料の使い方など案外教えることは多い。


「スノーちゃんは魚を捌くのが上手だね」


「えへへ、よくやってたからね。任せてよ」


 驚くミニャにポロッとそう言ってしまったスノー。だが、その捌いた魚の入手経路は基本密猟だった。まあ賢者たちも誰も何も言わないが。

 そんな魚捌き班の子供たちは、魚の血や内臓を全く恐れなかった。串通しするのもまったく躊躇がない。これが異世界キッズ。


 一方のスープ係さんたちは。


「この茶色のブクブクしたのをお玉で取るんだって」


「これ? こうかな?」


 コーネリアが賢者の説明を通訳して、マールに灰汁取りを教える。


「これがあると味にえぐみが出たり、出来上がった時に色が悪かったりするみたいよ」


「へえ、知らなかった」


 異世界人が灰汁取りを知らないわけではない。実際に領主館では普通に行なわれていた。日本でだって小学校の家庭科実習で初めて灰汁取りを知る子供がいるように、単純に子供たちやコーネリアが知らなかっただけである。


 そうして出来上がったのは具材たっぷりコンソメスープ。


 子供たちは火の周りに車座で座り、お魚が火あぶりの刑に処されている様子をジュルリと見つめる。


『グラタン:ミニャちゃん、そろそろおにぎりを用意しよう!』


「ハッ! みんな、おにぎりだって! 準備して!」


 それを聞いた子供たちもいそいそとリュックからお弁当箱を取り出した。木の皮を編んで作られたお弁当箱で、紐を解いてパカリと開ければ、中に敷かれた葉っぱの上におにぎりが並んでいた。

 パァッと顔を笑う子供たちの姿を見て、賢者たちは幸せな気分になった。


「はい、モグちゃんのお弁当箱!」


「ももぐ!」


 ミニャはモグのお弁当箱も一緒に運んできたので、フタを開けてあげた。

 中には無塩おにぎりが。

 モグは喜びすぎてコテンと背後に転がってジタバタした。


「モグちゃん、いただきますしてからだからね」


「もぐぅ……もっ!」


 理解した様子。

 魚が焼け、コンソメスープが配られ、おにぎりもセッティング完了。


「それじゃあ、いただきまーす!」


「「「いただきます!」」」


 ミニャはさっそく自分で釣ったキンナミカマズロにかぶりついた。

 焼きたてアツアツな焼き魚の味に、さしものミニャちゃん陛下も「にゃー」と口から猫っ気が飛びだした。


 おにぎりをはむっと頬張り、お口の中でマリアージュ。

 口中調味と言われる行為だが、ミニャや子供たちは普通にやってニコニコだ。


 しかし、コンボは終わらない。

 もぐもぐゴックンしたミニャは、そこにお口にコンソメスープを叩き込む。


「にゃー」


 美味しい物質が脳内でペカーッと輝く。


「マールちゃん、美味しいねー」


「ん? うん!」


 ミニャが話しかけるが、マールは若干の上の空。必死である。

 ご飯中のマールはダメだと理解したミニャは、モグに声をかけた。


「モグちゃん、美味しいね!」


「ももぐ! もぐ! もっもぐぅ!」


 獣の方がお喋りしてくれる。

 どうやらお魚よりも無塩おにぎりが好きらしく、ミニャへ向かっておにぎりを見せてもぐもぐ言っている。


 川のせせらぎを聞きながら、他の子供たちもとても楽しそうだ。

 こうして、ミニャンジャ小学校における初めての遠足は無事に終わるのだった。

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