5-10 歓迎会
アメリアたちが来た日から時間を少し遡り、グルコサから帰ってきて2日後、ダンジョン設置の1日前の料理番たちのスレッドにて。
【4月30日】料理番スレッド PART1
1、トマトン
ここはミニャンジャ村の料理番のための雑談・連絡用スレッド。料理番以外の人も食べたい物があれば書き込みOK。採用するかは難易度次第かな。
2、トマトン
毎日の食事のクエストは、前日の15:00~15:30に発行します。
3、トマトン
■直近イベント■
5月1日・朝:ダンジョンの設置
仕事——朝に探索用のおにぎり製作
5月3日・昼:クレイ君たちの歓迎会
仕事——5月2日より仕込み開始
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【20時少し過ぎ】
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709、ミッソ
うわぁあああ! トマトンさん、誘ってくれてありがとうございますぅううう!
710、ウォッカ
なんだ新人か?
711、トマトン
あたしが誘ったミッソさん。味噌作りが得意な人。
712、ラディッシュ
名前まんまじゃん……っ!
713、ケアリア
よろしくお願いします!
714、ミッソ
はい、こちらこそ仲良くしてください!
715、ステア
料理賢者も増えたわねー。
716、フロスト
あれ、だけど大豆ってありましたっけ?
717、トマトン
大豆は見つからなかったよ。だけど、味噌は大抵の豆なら作ることができるんだ。落花生の味噌がそこそこ有名かな。田舎のお婆ちゃんとかに聞くと、落花生とかエンドウ豆の味噌を作っていたみたいな昔話は割と聞けると思うよ。
718、フロスト
へー、知りませんでした。
719、ミッソ
ですです! 自分はいろいろな豆で味噌を作りましたから、お役に立てると思います。
720、ラディッシュ
どのくらいでできそうなんだ?
721、ミッソ
うーん、仮に1回で成功したとして半年から10か月です。ただ、仕込む時期が悪いですね。基本的に冬に仕込んで秋くらいに完成させる感じです。
722、ウォッカ
料理人のレベル2で『発酵』って魔法が手に入るぞ。あとは、氷魔法で氷室を作っているから、疑似的に冬の寒さは作り出せる。
723、ミッソ
へえ、それは凄いですね! ずばり発酵させる魔法ですか?
724、ウォッカ
そうなんだけど、詳しくはまだ研究中だ。少なくともレンジでチンするような魔法ではないことはわかっている。現在は玉米と鬼芋と薬草で発酵を観察中だ。
725、ミッソ
たしかに、発酵は緩急がありますからね。味噌は寒い時期に仕込むと言いましたが、寒い時期の緩やかな発酵から始めて、夏の暑さで発酵を急激に進めます。
726、名無し
へえ、そうなんか。発酵魔法ペカーッ、完成! じゃないんだ。
727、名無し
毒されすぎや。
728、ウォッカ
ミッソは何か発酵で思いつくのはないか?
729、ミッソ
女神の森の植生図鑑を見たんですが、松が生えてますよね? それを使って松葉サイダーなんてどうでしょうか。砂糖かはちみつがあれば、短いスパンで研究ができるかと思います。
730、ウォッカ
あー、松葉サイダーか。知識では知ってたけど、思いつかなかったな。
731、グラタン
へえ、そんなのあるの?
732、ウォッカ
松葉を洗って、不要な部分を処理して、瓶の中に砂糖水と一緒に入れておくと二酸化炭素を出してサイダーになるんだよ。俺も作ったことはない。
733、グラタン
発酵飲料ならアルコールは出ないの?
734、ミッソ
微量のアルコールが発生することもあります。子供たちに飲ませるなら、調査してからの方が良いですね。
735、トマトン
それじゃあミッソはウォッカと一緒に発酵の研究をして。研究員でも朝昼夕の調理クエストは自由に受けてくれていいから。あと、5月3日に歓迎会があるから、その際には研究は中断して手伝いをお願いね。
736、ミッソ
了解しました。ウォッカさん、よろしくお願いします。
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【21時の定例会議が終わってから】
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855、トマトン
それじゃあ改めて、皆さん本日はお疲れさまでした。これより、料理番会議を始めます。
856、トマトン
定例会議を見ていて分かっている人も多いかと思いますが、5月3日に予定していた歓迎会ですが、丁度その日にグルコサから注文した品の納品便が来ます。なので、振舞い用の料理が必要になりました。
857、名無し
キャパ超えない?
858、トマトン
まあ、歓迎会と同じメニューじゃなくても良いみたいなので、おにぎりとスープで良いかなと思います。ただ、前回に苔鹿を出してしまったので、たぶん荷運びに来る人は期待していると思います。あまり恥ずかしい物は出せません。
859、ラディッシュ
まだ歓迎会のメニューも考えてないのになー。
860、ステア
おにぎりは具を変えるか炙るくらいしか変えようがないよね。そうすると問題はスープか。
861、グラタン
はい! コンソメの素を作るのはどう? そのまま歓迎会にも使えるし、普段使いもできるし。
862、トマトン
天才か! それでいいと思うけど、他に何か案はある?
863、ステア
グルコサのスープは魚ベースが多いみたいだし、コンソメの素は良いわね。
864、名無し
いま調べてみたけど、牛肉とかトマトが必要みたいだけど、材料が揃わなくない?
865、グラタン
そのあたりは魔物肉で代用するからどうにかできると思うよ。
866、トマトン
それじゃあグラタンはコンソメの素の開発を始めて。良い感じなのができたら、ミニャちゃんたちに料理体験をさせてあげよう。
867、グラタン
オッケー。他に2、3人ちょうだい。
868、トマトン
わかった。それじゃあグラタンと他3人でクエストを出すからね。
869、ケアリア
振舞い用のおにぎりに使うお米の等級はどうするんですか?
870、トマトン
通常等級で良いと思うけど、そのあたりは明日の定例会議で聞いてみるよ。
871、ラディッシュ
それじゃあ、荷運び人への振舞い料理はおにぎりとコンソメスープで決まりか。歓迎会用のメニューはどうする?
872、グラタン
コンソメを作るのなら、いよいよあれを作るしかないでしょうが!
873、ウォッカ
クリームシチューか!
874、ラディッシュ
クリームシチューだな。
875、ステア
クリームシチューしかないわね。
876、グラタン
えぇ!?
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5月3日昼。
おにぎり作りを終えたミニャたちと年少組は、器運び係に任命された。
子供たちにいろいろなことを体験させている賢者たちだが、年少組に料理の運搬作業はまだ早いと判断。給食をぶちまけた経験のある賢者たちが、あれほど辛い想いはミニャたちにさせたくないと訴えたのだ。うぅう……廊下に広がる茶色の海……飛び交う罵声……泣き出す女子……うぅうう……っ!
というわけで、料理の運搬はお兄さんお姉さんの仕事。
本日の昼食は青空食堂である。
夏だが、森の中ということもあってそこまで暑さも感じない。まあ暑いには暑いが。
年少組はうんしょうんしょと真剣な顔で器を運び、広場のテーブルに置いた。当然、一日村民さんを体験中のアメリアもお手伝い。
広場のテーブルは、椅子に座るがローテーブルに近い高さ。製材に着手できていないので、足は木と石で、天板は石で平らに作られている。そんな席が7席3テーブルある。
『ネコ太:ミニャちゃん、このカップは全部あっちに持っていこう』
ネコ太が指さす方を見て、ミニャはキュピン!
そこでは、賢者たちが台に乗り、大鍋でスープを作っていた。
ミニャたちはカップを大鍋の近くへ運ぶと、質問した。
「なに作ってるのー? 美味しいヤツ?」
『ラディッシュ:昨日ミニャちゃんたちが食べたコンソメスープだよ』
「あの美味しいヤツ!? ハッ、あの匂いだ!」
『ラディッシュ:期待しているところ悪いけど、これは荷物を運んでくれている人たちへの振舞い用だよ』
「ふるまい用っ! ふ、ふるまい?」
『ラディッシュ:ご苦労様ですって食べてもらう物さ。ミニャちゃんもお手伝いした後にお礼で美味しい物を食べられたら嬉しいだろ?』
「嬉しい!」
『ラディッシュ:まあそういう感じのもんだな。村長さんなら覚えておくといいよ。何でもかんでも振舞えば良いってわけでもないけど、大きなお仕事のあとにやると喜んでもらえるから』
「わかった!」
ミニャはまたひとつ賢くなった。
『ラディッシュ:味見するか?』
「するーっ!」
料理番の賢者はカップに注いでいき、子供たちに味見を任せた。
「美味しい!」
「わっ、このスープ、とっても美味しいです!」
ミニャたちと一緒に立ち飲みしたアメリアは、目を真ん丸にして言う。
そんなことをしていると、食堂から配膳係さんが料理を運んで出てきた。
配膳係はスノー、レネイア、シルバラ、クレイと冒険者たち、それからアメリア付きのメイドのメアリー。クレイにも雑用をさせていくスタイルだ。
そんなクレイを見て、フェスはあわあわした。
ジール隊長やアメリアの護衛はそうでもない。領主が戦場の最前線に立って指揮をするお国柄、キャンプをするなら貴族の子弟だって働くみたいな意識が軍人にはありそうだ。
ミニャたちがいるコンソメスープの場所にも、おにぎりがたくさん運ばれてきた。
「おーい、お前ら! 集合しろ!」
ジール隊長が木陰で休憩している荷運びの人たちを呼んだ。
振舞いの料理があると理解していた彼らは期待した顔ですぐにやってきた。
「任務ご苦労だった。ミニャ様から振舞い料理を頂いた。感謝していただくように」
「荷物を運んでくれてありがとうございました! いっぱい食べてください!」
「「「ありがとうございます!」」」
声を揃えてお礼を言われ、ミニャはピョンとしてからニコパ。
ミニャはちゃんと村長さんをしていた。
「このスープはもう完成しているということなので、各自、自分でよそうように。あと、手洗い用の水とシャボンマッシュも用意してくださったので使わせてもらえ」
賢者は小さいので、そこらへんはセルフにした。
そんなお仕事を終え、ミニャも子供たちと一緒に宴会の席へ戻った。ジール隊長もこちらの席だ。
そこではどんどん料理が配膳されており、子供たちは夏の太陽に負けないほど瞳をキラキラ。
本日の料理は。
4種の具材のおにぎり、クリームシチュー、コジュコジュの一口ソテー、湖のお魚のフライ、山菜サラダ。クリームシチュー以外は勝手に食えスタイルだ。
ドリンクは氷入り麦茶とハーブ茶。冒険者とシルバラは希望があればアルコール。
「白い!」
「チャウダーでしょうか? でもなんだかぽってりしてますね」
見たままの感想を言うミニャに、アメリアは知っている料理名を口にする。
『トマトン:それはクリームシチューだよ』
「くりーむしちゅー。ねえねえ、これクリームシチューって言うんだって!」
ミニャが教えてあげると、子供たちはクリームシチューと連呼して脳裏に刻み込む。
『トマトン:超美味しいんだよ』
「にゃー、超美味しい……」
どんな味だろうとミニャの期待はムクムク。
ルミーがスプーンを握って食べようとするが、コーネリアがそれを止める。フライングは不味い。
グルコサで仕入れた物の中には、小麦粉、バター、羊乳があった。グルコサは牛の放牧をしておらず、乳製品は全部羊乳だった。
トマトンたちは料理番を名乗るだけあって当然ベシャメルの作り方を知っており、これらの材料さえあれば作るのは容易だった。味付けには、昨日にミニャたちが作ったコンソメの素が使用されている。
配膳もすっかり終わり、ネコ太がミニャに言う。
『ネコ太:ミニャちゃん、今日はクレイ君や冒険者さんが村にやってきた記念の宴会なんだよ。いただきますをする前に何か言ってあげよう』
「むむむっ!」
お誕生日席に座るミニャは、村長さんのあれだな、と腕組みを始めた。
クレイ君と冒険者さんがこれから一緒に住む。ならば、どんなことを言われたら嬉しいだろうかと、ミニャの脳内子猫たちが本体と同じように腕組みをして考える。
うむと頷いたミニャは、腕組みを解いて言った。
「ミニャはクレイ君と冒険者さんたちがミニャンジャ村に来てとっても嬉しいです! これからもよろしくお願いします! あと、アメリアちゃんとジール隊長とフェスさんとメアリーさんが遊びに来てくれて、ミニャはとっても嬉しいです!」
素敵な挨拶をもらってクレイや冒険者たちは笑顔になり、拍手した。それに続いて、子供たちやアメリアたち客人も拍手する。
ニコパと笑うミニャを見上げるのは、優先的にこの宴会に参加させてもらえている新人賢者たち。ちゃんとご挨拶できる系幼女の姿に、背筋をぶるぶるさせる者が続出。これが王の器!
新人賢者たちをわからせたので、ネコ太がいただきますの音頭を促した。
「それじゃあ、いただきます!」
「「「いただきます!」」」
食前の挨拶を終えて、まずは全員がとても気になっている白いヤツを食べてみた。
木のスプーンに乗った白いヤツを口に運んだミニャは、その瞬間、ピシャゴーンとした。
「にゃ、にゃん……っ?」
慌ててもう一度、白いヤツを食べる。
ピシャゴーンで舌の準備運動ができていたミニャは、2口目を食べるとブルリと体を震わせる。
「う、うみゃ……」
もう一度、白いヤツを食べる。
3口目でようやっと脳と舌がシンクロし、ミニャはクワッと目を見開いた。
「うみゃー!」
めちゃくちゃ美味しかった。
クリームシチュー。
それはキッズに超特効性能を持つ魅惑の食べ物。しかもベシャメルからコンソメまでオール手作りの激うま仕様。
羊乳というのは牛乳よりも味が濃い。それは一歩間違えれば味のバランスを損なうが、料理番賢者はしっかりと調理してみせ、市販のクリームシチューを遥かに凌駕した味わいへと導いた。
『ケアリア:れ、レネイアちゃん、おかわりはたくさんあるから、ゆっくり食べてね』
近衛賢者がビビりながら語り掛けるのは、エルフ姉妹。猛烈な勢いで食べている。むしろ飲んでいる。しかし、これはエルフ姉妹だけではなく、子供たちと冒険者もガツガツだ。
しつけが行き届いているクレイやアメリア、フェスはセーフ!
しかし、クリームシチューだけ食べられても困る。
賢者たちはおにぎりが乗っている器を持ってテーブルの上で移動する。賢者式ターンテーブルである。
視野が広い大人から順番にハッとしておにぎりやおかずも食べ、子供たちもそれに倣ってクリームシチューの罠から脱出した。
そうすると見えてくる最適解。クリームシチューとお米やおかずとの絶妙な親和性。うみゃーである。
一方、振舞い料理を食べている荷運び人たちも満足そう。
おにぎりという面白い米料理を2つも3つも食べ、なんだか凄く濃厚なスープを堪能する。前回振舞われた苔鹿のような高級食材を期待していた人もいたが、それを上回る満足感。
「あっ、ミニャ様が食べてるの、私が作ったおにぎりです!」
アメリアがふと気づいて言った。
ミニャはもぐもぐゴックンしてニパッと笑う。
「中身がお魚だった! 凄く美味しいよ」
「本当ですか? えへへ」
「アメリアが作ったのは他にどれだ? 俺も食べたい」
「うーんとこれとこれも私が作ったのです」
おにぎりメーカーは賢者たちの手作りなので、個体差があったようだ。それをアメリアは覚えていた様子。
クレイとメイドのメアリーがそのおにぎりを食べて、幸せな気分になる。
テーブルの上のお皿がすっかり綺麗になると、満腹な子供たちはほえーとした。
午後はもう動けなさそうだ。
料理番に任された宴会は、大成功で終わるのだった。
アメリアは物凄くお泊まりしたそうにしていたが、相手は6歳児のジョブ・深窓のご令嬢。まあ当然、親が許すはずもなく、賢者通信で帰還するように諭された。
シュンとしながら帰ることになったアメリアには、お土産をたくさん持たせた。
翌日の夕食のこと。
領主館では2つの料理が食卓に並んだ。
ひとつはアメリアが領主館の台所で作ったおにぎり。
領主館に置いてあるフィギュアに料理番賢者たちが宿ってサポートし、お土産で持ち帰ったおにぎりメーカーでアメリアがコロンとさせたおにぎりだ。
そして、もうひとつは羊乳のクリームシチュー。
領主館の料理長にベシャメルの作り方を教え、お土産に渡した秘伝のミニャンジャコンソメで味付け。
どうやら、サーフィアス王国は、動物の乳を利用し始めてあまり歴史が長くないようだった。魔物がいる世界なので畜産の苦労は大きいのだろう。
そのため、乳を使った料理のレパートリーが少ないのだと料理長は語り、応用が利くベシャメルソースの作り方は大層喜ばれた。ただし、ミニャンジャコンソメの製法は教えていない。
「これは物凄く美味いな」
「クレイはこんなに美味しい物を食べさせてもらっているのかい?」
領主や兄のソランはクリームシチューを食べて驚いている。
クレイがちゃんと良い物を食べさせてもらっていると知って、母のアマーリエはニコニコだ。
「そっちのおにぎりも食べてください。それは私が作ったんですよ。そうですよね?」
テーブルの上にいる賢者はアメリアに圧をかけられて、コクコクと頷いた。作ったというほどのものではない、とは言えない雰囲気。
「むっ、塩気があって美味いな」
「本当だ。アメリアは可愛いのに料理まで上手なんだね」
「まあっ、中にお肉が入っているんですね。とっても美味しいわ、アメリア」
と、箸でバラしながら食べる領主ファミリー。上品だが情緒はない。
おにぎりが好評でアメリアは上機嫌だ。
歓迎会だけでなく領主館でも料理が褒められ、料理番たちも大満足であった。
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