5-5 ダンジョンとコーネリアの授業


【5月1日】ダンジョン初回調査スレ PART1


1、ニーテスト

 ここはダンジョンの調査用のスレッドだ。

 主に調査期間中の連絡用に使いたい。調査終了後はタイトルを変えて運用してくれ。

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340、タカシ

 行きたい行きたい行きたい行きたい! うぇええええんえんえんえん!


341、ジャパンツ

 ニーテスト様! 俺は役に立つ男です! 具体的なことは言えませんが、とにかく役に立ちます!


342、名無し

 ふわっふわやん。


343、クライブ

 是非とも俺に先陣を切らせてくれ!


344、ジャスパー

 僕が行けば鉱石なんかを調査できます!


345、名無し

 これが賢者と云われる者たちの実態である。


346、名無し

 ミニャちゃんは村民さんにちゃんと注意できるくらい成長して、子供たちはあんなに聞き分けが良かったのに……。


347、平和バト

 いいなー。学校がなかったら僕も行きたかったです……。


348、名無し

 学生は今日も学校か。


349、闇の福音

 ハト、自由に探索できるようになったら一緒に入ろうぜ。


350、平和バト

 はい、お願いします!


351、名無し

 お前ら仲いいな。


352、ニーテスト

 とりあえず、15名はこちらで決める。残りの15名はクエストを発行するから早い者勝ちで受けろ。ただし、もしもの時は肉壁になる覚悟があるヤツだけ受けてくれ。クエスト発行はこの後8時18分から20分の間だ。


353、名無し

 全員分クエストで良くない?


354、ニーテスト

 良くない。ダンジョンの中では賢者の入れ替えなども行なうが、クエストで募集すると入れ替えするヤツが文句言うだろ。


355、名無し

 い、言わないよ?


356、名無し

 ちなみに今日のミニャちゃんたちは何するの?


357、ニーテスト

 予定表を見るように習慣づけろよ。午前は授業。午後は焼成炉が完成したから、焼成人形を作る手伝いをしてもらう。まあ泥んこ遊びだな。


358、名無し

 なにそれクッソ参加してぇ……っ!


359、名無し

 2桁ナンバーの俺氏、ミニャちゃんと土人形を作ったら泣く可能性がある。


360、名無し

 決めた。俺はミニャちゃんの周りで仕事しよ! 入るのは調査が終わってからでいいや。


361、名無し

 昨日入った新人でもダンジョンに行けますか?


362、ニーテスト

 いや、賢者になって最低でも4日間経った者とする。戦闘や長距離行軍をしたことがない賢者は、まず体に慣れるように努めてほしい。


363、名無し

 まあ、冒険者の盾になれるくらいに動けなければダメだよな。


364、名無し

 あたしはミニャちゃんたちとの思い出を優先します!

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 そんなこんなで人員が決まった。


 ニーテストが選んだ人員は。

 リーダーに覇王鈴木、副リーダーにネコ忍のサスケ、回復役としてホマズンとネコ忍のゲンロウ。他はネコ忍や必要な魔法を持つ賢者、検証用の人材など計15名。

 それ以外はクエストで募集した15名が参加して、計30名が選出された。


「それじゃあ行ってくる」


「よろしくお願いします!」


「「「いってらっしゃーい!」」」


 出発するザインとバールに、子供たちがエールを入れる。

 2人の格好はリュックに武器の携帯と、ミニャンジャ村では見なかった姿だ。


「おっちゃん、死ぬなよ!」


「低層なんかで死なんわ!」


 スノーが生意気なことを言い、ザインがツッコンだ。たぶん、フラグではないはず。


 ちなみに、賢者の中で最強の男サバイバーや、冒険者のセラとコーネリアは行かずに、ひとまずは村に待機。

 彼らはダンジョンができたことで周辺の魔物がどう動くか念のために警戒するつもりだ。ダンジョンに魔物を惹きつける効果なんてないが、ダンジョンを設置した時に派手な光が生じたため警戒をする。結果を言えば、これは杞憂に終わったのだが。


 居残りのコーネリアには、今日の授業で子供たちにとあることを教えてほしいと賢者たちから要請があった。それはひとまずおいておき。


 ダンジョンである。


「それじゃあ賢者様、ダンジョンポールに触れますんで、足にでも触っていてください」


 ザインの肩にバールが手を置く。

 どうやら、ダンジョンポールに触れる者に接触しておくことで、一緒にダンジョンに入れるようだ。

 本から知識を得た賢者たちだが、得られたのは運営方法ばかりで、こういう基礎的な部分は何も知らなかった。


 賢者たちもわらわらとザインの足にしがみつく。

 30人分なので団子だ。


「えっと、半分くらいバールの方に行ってくれますかね?」


 どうやらダンジョンポールに触れる人でなくてもいいらしい。


 バールにも群がったのを見届け、ザインはダンジョンポールに触れた。


 10秒ほどそのまま待機していると、唐突に賢者たちの視界が別の光景へと変わった。

 その急激な場面変換に、ザインの足にしがみついていた賢者が木から落ちたカブトムシみたいにポトリと地面に転がった。


『覇王鈴木:洞窟タイプか……?』


「いや、洞窟を抜けて外に出る場合もあります。いまのところ判断はつかないですね」


 ザインが腰の剣鉈に手をかけて油断なく周りを見ながら、そう教えてくれた。


 ダンジョンの中は洞窟のような場所だった。

 かなり広く、二車線のトンネル程度の幅や天井の高さがある。もちろん、洞窟なので常に一定の広さではないが、想定していたよりもずっと戦いやすそうだ。光源は見当たらないが物の姿ははっきりと見え、ひとまず松明は必要なさそうである。


 バールが賢者たちに言う。


「賢者さん、適当に探索しつつ、階段と女神像を探しますぜ」


『覇王鈴木:そんな感じでお願いします。俺たちは後ろについていく感じでいいですか?』


「そうっすね。それでお願いしやす」


 村に慣れたバールはちょっと言葉遣いが三下風になったが、普通に気の良い男である。


 賢者たちは、ザインとバールがどれくらい強いか正確にはわかっていなかった。人物鑑定をするとある程度の指標は出てくるものの、その指標自体がよくわかっていない。なので、バールの提案を受け入れて、お手並みを拝見することにした。


 一行は出発し、洞窟の中を歩き始める。

 2人は警戒しているからか歩みも緩やかで、歩幅の小さな賢者たちとしても丁度いい。


【438、名無し:ワクワク】


【439、名無し:光源がないけど、ずっとこんななのかな?】


【440、覇王鈴木:スレッドを見た限りだと外部はちゃんと生放送が見えているんだな?】


【441、名無し:問題なし。ちゃんと見えてるぞ】


【442、ニーテスト:各検証は敵と一戦交えてからにする。引き続き警戒態勢で頼む】


【443、覇王鈴木:了解】


【444、名無し:早速現れたみたいだぞ!】


 賢者たちがそんなやりとりをしていると、ザインたちの前方に体長50cmくらいの二股大根の化け物が現れた。


「イコーンか」


 そう言ったザインは、バールと一緒になってホッと息を吐いた。


『覇王鈴木:闇人、魔物鑑定は?』


『闇人:イコーンで間違いない。評価もかなり弱い』


 そっくりな強敵とかでもないようで、賢者たちもホッ。

 伝説のダンジョンだけあって、最初から強い魔物が出てくる可能性を心配していたが、どうやら杞憂のようである。


 ザインは特に気負うことなく近づき、イコーンを剣鉈で払った。

 イコーンは真っ二つになって光の粒になって消えた。


 よっわと賢者たちは思った。

 忌避感を抜きにすれば、攻撃魔法を持つ賢者で勝てない者はいないだろう。おそらく、ミニャでも圧勝するくらいに弱い。


 光の粒の跡には特に何も残っていない。

 それを賢者たちはよく観察した。


 ダンジョンの魔物は、外の魔物と違って死体が消えてしまう。

 賢者たちが物を食べる時や女神像に捧げた物が消えていく様子と酷似しているので、光の粒になって世界あるいはこのダンジョンの中で循環するのだろう。


 ただし、死体が必ず全て消えるわけではない。

 ゲームのようにドロップ品を残す場合があるのだ。ダンジョンに入るような冒険者はこれをひとつの収入源にしている。


【471、ニーテスト:問題なさそうだから検証を始める。検証班以外は引き続き警戒を続けろ。イレギュラーがいてもおかしくはない】


 賢者たちが知りたいのは、『ダンジョンという特殊な空間でも賢者の入れ替えが可能なのか』だ。これは非常に重要なことだった。


 というのも、ダンジョンは地上に戻るのは一瞬だが、行きは基本的に最初からになるのだ。途中から始めるには厳しいルールが必要で、『毎日50階層を往復して稼ぐ』といったような気軽に使えるものではなかった。

 こういう仕様のため、賢者が地上と同じように人員を入れ替えられるなら、凄まじいアドバンテージを持つことになるわけだ。


 検証の結果、賢者の入れ替えは問題なくできた。

 そのあとも検証を続けるが、ミニャのオモチャ箱のシステムは地上となんら変わらずに使えるようだった。


「おっ、ドロップだ」


 イコーンを蹴散らしながらしばらく進んでいると、倒したイコーンからドロップが落ちた。

 それは小指の爪ほどの小さな赤い石だった。


「魔石だな。賢者様、初物ですぜ」


 バールが膝を着いて賢者たちに見せてくれた。

 賢者たちはカチカチカチと拍手やバンザイして、喜んでおいた。


 賢者たちは魔石についていろいろな考察をしていたが、基本的に魔物から手に入れるものだった。ただ、死んだ魔物が埋まることで、地中から発見されることも普通にある。

 弱い魔物の場合は魔石を持っている確率が低く、強い魔物ほど持っている確率が高い。


 地中から発見されることもあるわけだが、これが長い年月を経て他の石と交じり合い魔魂石になる場合もある。以前、ジャスパーが発見して村に保管されている物だ。これは交じり合った鉱石で価値が大きく変わるものの、いかなる場合でも通常の魔石よりも高い価値を持つことが領主館の本で知れた。


 閑話休題。


 30分ほど適当に歩くと、下に続く階段と帰還用のダンジョンポールが発見された。


「あっさり見つかったな」


「ああ。まずは一安心か。ところで賢者様、賢者様だけで帰ることってできるんですかい?」


 ザインが問う。

 それは賢者たちも検証してみたいことだった。


『覇王鈴木:ちょっと待ってください』


 覇王鈴木はその検証をするように検証班へ指示した。

 賢者の一人がダンジョンポールに触ると、先ほどと同じように10秒ほどでその姿が消えた。


『覇王鈴木:問題ないようですね』


「「おーっ!」」


 ザインとバールは喜びの声を上げた。

 生放送を見るニーテストたちの口角もニヤリと上がる。


 これには理由があった。


 途中から始められないダンジョンの仕様上、深い階層まで潜るには長い時間が必要である。そのため、パトラシアでは必然的にひとつの商売が成り立っていた。

 ダンジョンポールの前で待機し、複数の冒険者から荷物を預かって外に運び出す職業である。当然、深い階層ほどその手数料は高くなり、ドロップ売却額の半額程度は当たり前の場合もあった。そんなふうに高い料金だが、彼らの利用者はとても多い。


 他にも、荷物が貯まったら途中でパーティーから抜けるポーターの需要がかなり高く、深く潜る冒険者たちは数人のポーターを一度に連れていくのが普通だった。


 そこに新しい可能性を投げかける賢者という存在が現れた。

 回復、攻撃、防御とサポートをしてくれる上に、荷物を外へ運び出す役割もしてくれる存在——これはダンジョンに潜ったことがあるザインたちにとって、革命的なことだった。


 それからも1階層のダンジョン探索は続き、20分ほどで目当ての物その2も発見された。女神像である。


 それはミニャがダンジョンシードを捧げた女神像と全く同じ姿をしていた。ダンジョンの発生に使われた女神像は全ての階層に同じ形で現れるのである。

 そして、女神像の周辺には水が湧き、魔物が近寄れないエリアになる。ただし、このエリアから外に向けて攻撃することもできない。

 そんな理由もあって、この女神像は工作班たちが相当気合を入れて作っていた。


「……何回見ても神々しいな」


 ザインとバールがお祈りを始めたので、賢者たちもそれに倣った。


「来年あたりから、王都の女神巡礼者は減るかもしれねえな」


「少なくともグルコサから行くヤツは減るだろうな。この女神像は一生に一度は見ておくべきだ」


 バールの言葉に、ザインはそう答えた。


 女神巡礼。

 それはこのパトラシアにおいて、極めて重要な要素のひとつだった。




 一方その頃、ミニャンジャ村では社会科の授業がされていた。

 講師はコーネリア。


「えーっと、今日は私が先生をします。よろしくお願いします」


「「「よろしくお願いします!」」」


 いつもはみんなと向かい合う席のミニャだが、今日はみんなと一緒の方を向いての授業。その代わりに教壇にはコーネリアが座っていた。


「えー、私が教えるのは魔法についてです」


 コーネリアが本日の授業内容を告げると、ミニャやイヌミミ姉妹はお耳をピョコンとさせ、他の子供たちもお目々をキラキラ。


「パイン、魔法使いたい!」


「ルミーも!」「あたしもー!」


「ミニャも使いたーい!」


「僕も使いたい!」「俺も俺も!」


 年少組がワキャワキャし、年長組もそわそわ。

 なお、ミニャは究極とも言える魔法を使っているが、魔法らしい魔法ではないので自分で使っている認識は薄かった。


 子供たちのワキャワキャに圧されて怯むコーネリアだが、それをなんとか手で制して、説明を始めた。


「魔法が使えるようになる方法は3つあります。ひとつは生まれ持って魔法が使える人。これは滅多にいません。もうひとつは女神様に会って直接魔法の力を授かる人。つまりミニャ様みたいな女神の使徒ですが、これは同じ時代に2人いることが珍しいほどレアな人です」


 そう言われて注目されたミニャは、コロンと転がって体をウネウネさせて恥ずかしがった。コーネリアが続きを話し始めたので、ミニャは照れを止めてシュバッと着席。


「そして、最後に誰でも覚えられる方法です。特定の日にダンジョンへ入り、女神像の下へ巡礼に行くという方法です。みんなが魔法を使うには、この方法を取る必要があります」


 それを聞いて、子供たちは「そうだったんかー」みたいな顔。

 領主の息子であるクレイはそのあたりのことは知っていた。むしろ、スラムの子がそんなことも知らないことに驚いていた。

 一方、賢者たちは、本にもこの件がかなり詳しく書かれていたので知っている。


「といっても、そう難しいことではありません。女神像は各階層にあるので当然1階層目にもあります。女神像に巡礼する際には兵士や冒険者が同行するので、子供でも参加できます」


 王国の王都に限らず、ダンジョンがある町はこの女神巡礼で賑わうことになる。

 ただ、グルコサの場合は船旅が必要なので、貧しい人はそれを知っていても子供に教えないことがよくあった。往復の船賃がかなりかかるからだ。


「先ほど特定の日と言いましたが、その日は女神の月です。いまだと夏の女神の月がそろそろですね」


 この世界の暦は、30日が12か月で等分されており、7月と8月、12月と1月の間に女神の月という合計で5日間の特殊な月が存在した。全て合わせて365日となる。


 要は、この5日間にダンジョンへ入って女神像にお祈りすれば、魔法が使えるようになるのだ。当然、ミニャンジャ村のダンジョンでもこれは行なえる……はず。


「1階層目にある女神様の像に参拝することで生活魔法が必ず手に入ります。生活魔法について知っている人はいますか?」


 ルミーがシュバッと手を上げた。


「おみじゅが出せうの! ルミー見たことあうもん!」


「そうですね。水生成も生活魔法のひとつですね。とても便利な魔法です」


 ルミーはむふぅとした。

 ちゃんと聞いてくれる生徒に、コーネリアは快感を覚えた。


「生活魔法はたくさんありますが、どの魔法を覚えられるかは資質で決まります。これは魔法を手に入れてみるまでわかりません」


 ルミーが再びシュバッと手を上げた。

 スノーはハラハラしたが、ルミーは良い質問をした。


「ルミー、ミニャお姉ちゃっみたいにおにんにょうさんの魔法をちゅかいたい!」


「うーん。残念ながら、ミニャ様の魔法はルミーちゃんには絶対に使えません」


 残酷なその回答にルミーはシュン!

 コーネリアはおふと思った。


「女神の使徒の魔法は、その子孫に受け継がれていきます。だからルミーちゃんにはミニャ様の魔法は使えません。でも、ルミーちゃんも昔の女神の使徒の魔法が使えるかもしれません」


「……ホント?」


「はい。割とそういう人は多いですよ。例えば私もそうです」


 コーネリアはトランクケースのような箱を人差し指でトンッとノックした。それだけでフタが開き、中から子供服を着た50cmほどの木人形が出てきた。コーネリアがわずかに指を動かすと、木人形が立ち上がり、優雅にお辞儀をした。

 そんなトランクの中にはナイフなどちょっと物騒な物も入っている。大道芸のようにも見えるが、冒険者なわけでこの人形こそが武器であり、領主に雇われるくらいだからかなり強いと思われる。


「「「おーっ!」」」


 子供たちが歓声を上げる。


「私は人形使いの女神の使徒の血を引いています。このように、女神の使徒の血を引いた人は特殊な魔法を覚えることがあります。クレイ様も剣王の血を引いているので、剣王の魔法が使えるようになるでしょう。当然、複数の女神の使徒の血を引いている人もいますね」


「クレイ様凄い!」


「いいなー、剣王様の魔法!」


 ラッカとビャノが目をキラキラ。男の子なので剣をブンブンしたいのだろう。クレイはちょっと自慢げだ。


「新しすぎる時代の女神の使徒の魔法は子孫が少ないので使える人はあまり世の中にいません。ミニャ様は今を生きる女神の使徒なので、使い手はミニャ様だけなわけですね」


 子供たちはふむふむと学ぶ。

 さすがにルミーやパインは幼過ぎるのであまりよくわかっていないが、ラッカやビャノは理解している様子。賢い。


「とにかく、重要なのは自分の資質を理解していっぱい練習することです。そうすれば、ちゃんとした暮らしができるようになるでしょう」


 とまあ、そんな話をしてもらったわけで、子供たちには近々やってくる女神の月にダンジョンへ遠足に行くことになる。

 そのためにも、賢者と冒険者はダンジョンの探索を進めるのであった。

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