4-34 アジト潜入
アジトがある孤島は断崖に囲まれた孤島だった。
地質学者が見れば、『大昔に女神の森から切り離されたのでは』などと想像を膨らませそうな形だ。島の上には小規模な森も形成されている。
島の直径は150mほどあり、断崖の高さは30m強。
断崖には大きな裂け目があり、その周辺にいくつかの桟橋があった。
桟橋に数名の賊の姿が見えたので、桟橋の下から顔を出し、ひとまず話を聞いてみることにした。
「もしかして追手と戦ってるのか? しかもあれは全力だろ。魔法を使いまくって後先考えてねえ」
「それにしては妙だぞ、お頭の魔法しか飛んでねえ。追手と戦ってるならあんなもんじゃすまないはずだ」
「変なキノコでも食ったんじゃねえのかぁ?」
「見ろ、合図だ。……えぇ、救助要請?」
「どういうことだよ。もう船なんてねえぞ」
「さっき何隻向かったんだ?」
「8隻だよ。全部」
「……どうすりゃいいの?」
「さあ? 見張りの話じゃ帰還したのは3、4隻だってことだから、そのうち遅れてきた船が拾うんじゃねえか?」
居残り組の賊たちも困惑の様子。
『ブレイド:やっぱり居残り組は状況をよくわかっていないようだな』
『サバイバー:細かな光信号がないんだろう』
『水神王:ライデン、これからどうするんだ?』
水神王がスレッドへ尋ねる。
【250、ライデン:まずは人形作りでござる。どこか良い場所を探して10体ほど増やしてほしいでござる】
【251、サバイバー:わかった。場所を探してみよう】
というわけで、4人はアジトの外観を遠目に見ながら、人形作りに良さそうな場所を探す。
入り口は2つ。
片方は断崖を削って作られた階段から入れる場所。この階段は断崖の上まで続いており、途中に断崖内部へ続きそうなドアがあった。
もう片方は、断崖にできた裂け目の洞窟。この洞窟は水路となっており、島の内部に続いていた。
2つの入り口から見て、この島の内部にアジトがあるのだと窺える。断崖の上にもあるいは建物があるかもしれない。断崖には窓らしきものもたくさん見えるが、やはり明かりは見えず、万が一に備えているのがわかる。
【260、サバイバー:個人的には洞窟を少し入ったあたりが良いと思う。他の場所だと、魔力を察知できる賊がいた場合に調べるのが容易過ぎる】
【261、ライデン:ではそこで】
【262、サバイバー:それじゃあ秘密工房を作る人員を寄越してくれ】
賢者を入れ替え、4人は水中から洞窟へと進んだ。
洞窟は20mほど進んだ先に松明が掲げられており、明るく広いスペースがあるのが窺えた。遠目に見たところ、おそらく小さな港だと思われる。
片方の壁には桟橋の通路があり、賢者たちはその向かい側の岩壁を『石材変形』で変形させ、秘密工房を作り始めた。
土属性2人で岸壁に足場を作ると、4人ともそこに乗り、水中移動の魔法をかけていたサバイバーや水神王も土属性の賢者に入れ替わる。
あっという間に2m程度の横穴の奥に作業スペースを作り上げてしまった。
そこからは生産属性の戦場。
『ふともも男爵:さあここからは僕たちのターンだ!』
『ビヨンド:水蛇め、生産賢者の恐ろしさを見せてくれるわ!』
『髑髏丸:ふふふっ、罪人を追い込むにふさわしい人形を作ってやろう』
『鍛冶おじさん:おい、捕まっている人も見るかもしれないんだから普通のにしろよ?』
全員が生産属性に入れ替えられ、競い合うように石製人形を作り始めた。
始まりの賢者たちにとっては散々作った石製人形なので、その手際はプロのそれである。各人が10分で1体を作り、待ってましたとばかりにその石製人形へ新たな生産属性が宿り、20分目にはフィギュアが4体、石製人形が12体になっていた。賢者を1体でも潜入させてしまうと爆発的に増えていくのである!
この秘密工房の壁は岩なので、材料には事欠かない。
小さな作業スペースだった秘密工房は1体作るごとに大きくなっていく。
フィギュアが4体、石製人形が28体になると、次なる作戦に移行した。
【301、ライデン:それではアジトの攻略を開始するでござる。その場に石製人形4体を残し、引き続き人形製作を。残りの28体は2部隊に分かれてアジト探索を開始するでござる。石製人形は魔力が少ないでござるから、危険域に入ったらどんどん入れ替えるでござるからね。あと、生産属性は影響制限にも注意するでござるよ】
ライデンの号令で、賢者たちは2チームに分かれて行動を開始した。
両チームともに半数は闇属性レベル2。影潜りができる人員だ。
秘密工房の穴から影たちが壁を這って移動していく。
サバイバーをリーダーにしたチームは、このまま洞窟から潜入。
覇王鈴木をリーダーにしたチームは、洞窟を出て断崖の階段にある部屋から潜入。
サバイバーチームは、洞窟の奥へと進んだ。
洞窟は結構広い水路があり、桟橋はその奥へと続く。
20mほど進むと広い空間に出た。
『雷光龍:ボス専用の港ってところか?』
『サバイバー:あとは積み降ろしやメンテナンスの際に入るくらいじゃないかな。この規模じゃ21隻も絶対に入らないし』
洞窟の奥は松明が灯っており、そこには高速船が3隻泊められる程度の小さな港があった。規模が小さいので、ほとんどの船は外の桟橋に停泊するものだと推測した。
港の一部は1隻分の船揚げ場となっており、どうやら船のドックのようだった。そこで3人の男が何やら準備を進めていた。
『サバイバー:この場には幻魔とフレアを残すから、男たちの調査を頼む。他の者は港内の調査だ』
港の岩壁には階段や、四角く繰り抜かれた穴が空いていた。サバイバーたちはそこを手分けして調べることに。
一方、火属性のフレアと闇属性の幻魔は男たちの近くで調査を開始した。
なお、フレアは新人賢者、幻魔は賢者ナンバー27番の初期メンバーである。
影が男たちの近くへ移動していると、階段から1人の男が駆け込んできた。
男はドックで仕事をする男たちに近づいた。
「おい! おい! 大変だ!」
小声で叫ぶように言う男。
フレアたちは影から外へ出て、近くの岩陰に隠れて耳をそばだてた。影の外に出たのは魔力の節約のためだ。
「ガーランドの船がたぶん沈没したぞ!」
「なんだって!?」
「シッ! 声を抑えろ」
「す、すまん。それでそれは本当か?」
「ああ、状況はよくわからないけど、近場の岩礁で他の船と一緒に難破したみたいだ」
「はははっ、ざまぁねえや!」
「バカか! 自慢の船が沈没したんだぞ? ガーランドは相当キレているはずだ。捕まっているヤツらが八つ当たりで何人も殺されるかもしれない。その一番の候補はガーランドの船の整備をしている俺やお前たちだぞ!」
「い、いやいやいや、冗談じゃねえよ!?」
その会話の内容に、フレアと幻魔は顔を見合わせた。
すると、すぐに状況が変化した。
「おい、お前ら!」
「へ、へい、なんでしょう?」
桟橋から戻ってきた賊が、4人の男たちに声をかけたのだ。
「すぐに船を作り始めろ」
「へ? え、えっと、釣り船なら外にありますよね?」
「よくわからねえが、救助に向かったのにまだ救助要請がずっと続いてんだ。8隻とも沈没したかもしれねえ」
「そ、それは……いや、ですけど、さすがに船を作れと言ってもすぐにはできません」
「筏でもなんでもいい。朝までに仕上げろ」
「いやいやいや、朝なんてすぐですよ!? 筏だってとても」
「口答えしてんじゃねえ! ぶん殴られてえのか!?」
「つ、作ります!」
どうやらドックで働いている3人と追加の1人は、凄く立場が弱いようだった。
指示を言い終えた賊が離れ、あとには頭を抱える4人の姿があった。
『幻魔:とりあえず、あの4人は冥府の鎖は巻き付いていないし、幽霊もついていない。そっちは?』
『フレア:3人は罪科がありませんが、後から来た1人は窃盗があります。ただ、軽度ですね』
『幻魔:となると、水蛇に捕まった職工みたいな人たちか』
『フレア:捕まっている人たちが殺されるって言ってましたから、他にそういう人がいるのも確定ですね』
【319、幻魔:ライデン、この人たちとコンタクトを取るか?】
【320、ライデン:いや、今の会話の内容からではそやつらの素性が確定していないのでダメでござる。そこの見張りのフォローは秘密工房から人員を送るから、お主らはサバイバー殿と合流するでござるよ】
重要な情報を得られ、すぐに全ての賢者に共有される。
一方、港を調査し始めたサバイバーたち。
『サバイバー:これは天然の洞窟に手を加えた感じだね』
『百太郎:掘削の痕が相当古いし、最近掘られた物ではないな。少なく見積もっても50年以上は経っているだろう。しかし、賊のアジト候補としてサーフィアス王国が思いつかないとなると、50年では利かないだろうがね』
誰ともなしに呟いたサバイバーの言葉を拾い、民族建築学を教えていた元大学教授の百太郎がそう分析した。
『サバイバー:となると、ほったからしにされていた遺跡に賊が住み着いたパターンですか』
『百太郎:そう考えるのが妥当だろうな』
小さいとはいえ港なわけで、この空洞は洞窟としてはかなり広い。天井はゴツゴツした岩肌をしているが、地面や壁は成形されている場所が多く見られた。
四角く繰り抜かれた場所は倉庫や鍛冶場となっており、人はいなかった。
『ダーク:サバイバーに報告。昇降エリアには、上への階段とその隣に真っ直ぐの廊下がある』
『サバイバー:了解。それじゃあ一度、全員で階段前に集合だ』
洞窟組の賢者たちは階段前に集まった。
『サバイバー:覇王鈴木班が推定2階部分の探索を始めた。なので、雷光龍は他に3名を率いてこのまま階段を登ってほしい。この4名の任務は、この階段が覇王鈴木班のいるエリアと繋がっているか確認する役割だ。覇王鈴木班を見つけたら、次は階段を探して何階構造か先んじて確認してほしい』
『雷光龍:了解。火属性1名と闇属性2名で行くぞ』
『サバイバー:ああ。他のメンバーはこのまま1階の調査を続ける』
というわけで、サバイバー班は2手に分かれて行動開始。
1階を探索するサバイバーたちは影から出ての行動。
カチカチと若干の音が鳴るものの、そこまで目立つものではない。
『百太郎:おそらく、捕まっている者がいるとしたらアジトの外側ではなく内側だろうな』
『フレア:どうしてですか?』
『百太郎:外側だと魔法で壁を壊されるかもしれないからだよ。脱獄してどうにかなる場所でもないが、捕まっている人たちは大岩礁地帯にいるなんて知らされていないだろうから、外側の部屋だとそれを全力でやる恐れがある。湖賊は船を大切にするそうだし、脱獄して船を奪われたら事だろう』
『フレア:たしかにそうですね。奪われた船はすぐに岩礁にぶつけちゃうでしょうし』
『百太郎:うむ。もうひとつ大きな理由として、外側は窓があるはずだ。これから売る人間に外の情報を与えたくはないだろう』
『フレア:じゃあ、あのドックで働いていた4人は……』
『百太郎:外に岩礁があるのを知っていたようだし、賊の仲間でないのなら二度と外に出すつもりがない労働者だろうな』
『サバイバー:人が来る! 影潜りで隠れろ!』
サバイバーの警告を受けて、賢者たちは影の中に潜り込む。
それとほぼ同時に分かれ道の角からランプを持った賊がやってきた。
「一体どうなってんだ!?」
「俺が知るわけねえだろ! それよりも早く救助を出さないと幹部連中に殺されるぞ!」
「クソッ、俺たちのせいじゃねえのに!」
「しかたねえ。俺たちも船作りを手伝うぞ」
「今日はこれから宴会になるんじゃなかったのかよ、クソ!」
そんな愚痴を言いながら、影のそばを通り過ぎていった。
賊たちが見えなくなると、再び影の中から賢者たちは抜け出してホッとした。
その頃になると、別動隊の調査でアジトが3階層と崖の上の森部分で構成されているのが判明した。合流した覇王鈴木班からも4人出され、8人で3階部分も同時に調査され始める。
各階層では分かれ道を見つけるたびに人員を送り、人海戦術でマップを広げていった。
生放送を見る外部班はマップをどんどん書き加え、見つけた人間の名前をメモしていった。
【120、名無し:案外、魔法に気づくヤツがいないな。人を見つけるたびに見てるこっちがビクッとするけど】
【121、名無し:魔法の発動の察知は魔法の扱いに長けた人間じゃないと難しいみたいだからな。そういう人材は略奪のエースなんじゃないかな】
【122、名無し:つまりここにいるのは下っ端も下っ端か】
【123、名無し:うお、2階で女の人を多数発見した! 冥府の鎖はなし!】
【124、名無し:捕まえられた人が料理をさせられているのか。もしかしたら別のこともさせられているかもしれないけど】
【125、名無し:いちいち胸糞悪いわね。今の私なら賊も殺せるような気がするわ】
雑談スレッドでも情報がやり取りされている。
どうやら2階では多くの非戦闘員が働いているようだった。
『サバイバー:妙な遺跡だな。百太郎さんはどう見ますか?』
『百太郎:ああ、廊下が広すぎるな。居住地に使うのなら、こんな廊下は必要ないだろう。まるで砦のような印象を受けるが、岩礁地帯に砦を置く必要性があるのかよくわからん』
サバイバーたちが進む廊下は人が2人は並んで歩けるくらいには広かった。すれ違うのも容易だろう。部屋も、港エリアのような例外を除いて、綺麗に並んで作られている。
『幻魔:湖の東西の水上戦で岩礁地帯を抜けて背後を突くための砦とか?』
『百太郎:その戦術はとても面白いが、わざわざ岩盤を掘って、これだけの砦を作る必要があるのか疑問だ。我々が通ったルートを見る限り、岩礁地帯は容易に封鎖できてしまうから、その戦術が通用するのも1、2回がせいぜいだろう』
『フレア:じゃあ、宗教施設とかはどうでしょう。地球でも岩盤を削って作られた寺院って結構ありますよね』
『百太郎:そのセンはあるが……はてさて、この施設はなにか大きな秘密があるかもしれないな』
『幻魔:2階の生放送を見ているヤツの書き込みを見ると、ホテルみたいな印象を受けているみたいですよ』
『百太郎:なおさらわからんなぁ』
サバイバーが進む直進ルートは、30mほど行くとドアがあった。
1階にはドアがいままでなかったのでとても怪しい。ドアを作るのは相応に技術がいるため、ここでは入り口に布をかけているのだ。
『サバイバー:向こう側も廊下だな。影潜りで下の隙間から入り込もう』
賢者たちは影に潜り、ドアの下の隙間から向こう側へと入り込んだ。
そこは廊下なのに椅子が一脚あり、その向こう側に鉄格子があった。そして、その先の廊下には木の柵で仕切られた部屋がいくつもあった。
最奥は崩落でもあったようで、通行できなくなっている。
【350、サバイバー:1階班に通達。牢屋エリアを発見した。各員はそのまま探索を続けて、探索する場所がなくなったら最初の廊下の先にあるドアの向こうへ来てくれ】
【351、ふともも男爵:秘密工房から6体くらい君のところに送ろうか?】
【352、サバイバー:あー、じゃあそうしてくれるかい?】
ふともも男爵からの増援を待たず、先に調査を進めた。
『サバイバー:百太郎さんはあそこの鉄格子を石で開かなくしてください』
『百太郎:承知した』
『サバイバー:あと、生放送を見ている人は凄惨な場面が映るかもしれないから注意してくれ』
賢者たちは石で固定された鉄格子を小さな体ですり抜け、エリアに踏み込んだ。
『百太郎:見たところ、ここは元々牢屋ではないな。賊たちが後付けで作ったのだろう。牢番の待機所が廊下を仕切って作られているのが良い証拠だ』
予想通り、木の柵の向こうには人がいた。
寄り添っている子供や壁に寄り掛かっている女性、倒れている男性エルフなどなど、14名が発見された。賊たちからすれば商品なので、酷い状態の人はいなかった。
【371、サバイバー:1階で牢屋に捕まっている人たちを発見した】
【372、闇の福音:3階でも牢屋に入っている人たちを発見したぞ】
【373、サバイバー:おそらく家族を分けることで逃亡を防止しているんだろう。2階の調査の進捗は?】
【374、覇王鈴木:すまん、2階は賊の移動が多くてちょっと手こずっている。たぶん、2階が下っ端の賊の居住エリアなんだと思う。ただ、料理人っぽい人たちは10人発見した。2人は水蛇の一員っぽいが8人には犯罪歴はない】
【375、サバイバー:やはり規模が規模だから働かされている人っぽいのがかなり多いね】
【376、ライデン:では、1階と3階は牢屋の近くで人形を10体ほど増やすでござる。それと同時に牢屋に入っている人とコンタクトを取るでござる。誰が強制労働で、誰が賊なのかを明確にしたいでござるよ。2階は引き続き探索を】
【377、乙女騎士:一応報告しておきます。グルコサは空が白けだしました。そろそろ日が昇ります】
【378、覇王鈴木:夏だから早いな】
【379、ふともも男爵:洞窟入り口の秘密工房は順調に増やしているよ。岩礁の賊が泳いできても、もう容易には入れないと思う】
方針は決まり、各階層で任務は継続する。
ふともも男爵が送ってくれた増援が到着し、サバイバーたちは改めて捕まっている人たちの情報を得た。
『フレア:みんな目立った罪科はないですね。軽犯罪はしている人もいますけど、水蛇とは関係なさそうです』
『幻魔:おそらく、最初から重い罪科を持つような人物はそのまま水蛇の一員になってしまう心のハードルが低いんじゃないかな? だから牢屋に入っている人は軽度の罪科がせいぜいなんだと思う』
『フレア:そうかもしれません』
賢者たちはさっそく牢屋に捕まっている女性に話を聞くことにした。
途中の部屋でパクってきた紙に、あらかじめ『静かにしろ。助けに来た』とパトラシア文字を書くと、賢者たちは女性の前に姿を現した。
ソバカスが可愛らしい赤髪の女性で、膝の上にタヌキのような獣耳を持つ子供を2人寝かせ、自身は壁に寄り掛かって眠っていた。
筆談をするのは光属性の竜胆。竜胆はサバイバーが宿っていた石製フィギュアに宿り、神秘性を演出。サバイバーは代わりに石製人形に宿った。
ライトの魔法で部屋を照らし、女性を起こす。
体の揺れで意識を浮上させ、眩しさで一気に覚醒する。
人形たちを見た女性は、ひゅっと息を呑んだ。
竜胆はすかさずズイッと紙を前に突き出した。
女性は紙に書かれた文言を読むと、その目を大きく見開いて涙ぐんだ。
「た、助けに……?」
かすれた声で問う。
竜胆は力強く頷いた。
そうして、紙に文字を書く。
『グルコサの町が水蛇に襲われた。しかし、我々はやってきた水蛇を壊滅させた』
「本当ですか!?」
その声が大きかったので、竜胆は『静かにしろ』の文字をペシペシ叩いた。
女性はハッとして口を押えた。
『我々は逃亡した水蛇を追い、このアジトに潜入した。いま、このアジトに私のような人形の仲間たちが散らばって調査している。すぐにでもこのアジトを制圧することはできるが、敵と味方の区別がつかない。話を聞かせてほしい』
女性はコクコクと頷いた。
竜胆は文字を書く。
『まず、このエリアの牢屋にいるのは全て捕らえられた人か?』
「そ、そうです。西の国に売るのだと聞きました」
『2階にも捕まっている人たちがいる。これは知っているか?』
「ほ、他にも捕まっている人がいるのはなんとなく知ってます。この子たちのお母さんもこのアジトのどこかにいるはずです」
『賊のために働いている人たちがいる。これらはどういう理由だ?』
「たぶん、無理やり働かされているんだと思います……。でも、あたしはここ以外の場所は知らなくて……」
女性はシュンとした。
『十分だ。よく話してくれたね。それでは最後の質問だが、ちょっと待ってほしい』
竜胆は確認が取れている強制労働っぽい人たちの名前を綴っていく。
『この中で知っている名前はあるか?』
「ボブさんはあたしと一緒の船に乗っていた同じ村の人です。あと、コロンさんはこの子たちの母親の名前です。他の人はわかりません」
『わかった。それでは、これ以降は我々が君たちを守るので、安心していたまえ』
「は、はい。ありが、と……ごじゃい、ます……っ!」
女性は唇を震わせながらお礼を口にし、眠っている子供たちを抱きしめて泣いた。
この女性の協力を得たことで、1階の牢屋でスムーズに聞き取り調査が続けられた。その過程で回復魔法が必要なら惜しげなく使われた。
それが終わる頃になるとアジト全体の間取りも調査ができた。
1階の牢屋が一番大きく、2階と3階の牢屋は小規模。働かされている人たちは24人だと推測される。
屋上部分である島の上にはいくつかの畑があり、見張り台があるほかにボロい家屋も数軒あった。
アジトにいる賊の数は15名を確認。
全ての部屋を確認したので、見逃しがあったとしてもプラス5名程度だろう。
全てが整ったので、賢者たちはいよいよ賊たちの排除に動き出す。
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