4-19 本日のミニャンジャ村
一方、本日のミニャンジャ村。
ミニャが『人形倉庫』でフィギュアをほとんど持って行ったので、本日ミニャンジャ村で活動する賢者たちは、石製人形や木製人形に宿って活動していた。
これらの人形の活動時間は3時間から4時間なので、賢者たちは地球でミニャの生放送を見守りつつ、気軽にクエストを受けていく。
「もぐぅ……」
モグブシンのモグは、ちょっぴり寂しそうに南下するお船を見送った。
『クロエ:モグちゃん。ミニャちゃんが帰ってくるまで私たちと遊びましょうねー』
『ケモッチ:あーよしよし、寂しいね。あーよしよし!』
動物好きな賢者たちは寂しんぼモグラの様子にキュンキュンである。当然、スキンシップは多め。
モグのお世話は本日のメインクエストの一つだ。
村への小道を体感グリズリーぐらいの大きさに見える生物とお散歩し、たまに立ち止まっては道端に咲く花を一緒に眺める。その花にチョウチョが飛んできて、賢者たちは精神年齢を極限まで下げて一緒にチョウチョを追いかけた。
村に帰ると、モグとお世話賢者は畑に訪れた。
鬼芋など森の植物の栽培の実験をしている小さな畑だ。
「ももももも!」
モグは土を掘りたいようで、まだ硬い地面を爪で耕し始めた。お世話係は本日の遊びを土いじりと決め、モグと一緒に土を耕した。
土から虫が出てきて驚いたり、それを食べるモグを心配したりしつつ。
2時間ほど土いじりをすると、ちょっと早めのお昼ご飯。鬼芋とお魚と山菜の犬ご飯風ランチである。
ご飯を食べたら、木陰に敷いた干し草の上でお昼寝だ。
ミニャンジャ村は夏なので、周辺に魔法で水を撒いて気温を下げ、やはり魔法で風を生み出して涼を取る。
ヘソ天で寝るモグに抱き着くと、そのままホールドされる。片胸に1名ずつのプレミアムシートだ。
『ローズ:あぁ、ダメになっちゃう~』
『タンポポ:最高の休日ですぅ~』
マイナスイオンがドバドバの森の中、女子2人が短毛と肉の布団によって脳がダメになっていく。
【222、名無し:これでお仕事ポイント貰えるとかヤバいな】
【223、ケモッチ:なに言ってんの! モグちゃんのお世話は重要任務だよ!】
【224、ジャパンツ:ほんの数十m離れた場所では建築クエストが進んでいるわけですが】
【225、名無し:これが格差社会か】
モグが寂しくないように遊んであげる。
これも重要な任務なのである!
村の中では、他に倉庫の建設も行なわれていた。お昼寝しているモグと賢者たちから数十mの距離である。
倉庫は、子供たちが最初に寝泊まりしていた竪穴式住居がリフォームされることに。子供たちの家を作っている間に少しずつ改築は進んでおり、本日は仕上げの段階。
食料は食料庫があるのでこちらには運び込まれないが、布などの貴重品が大量に運び込まれる予定だ。
『中条さん:コルンの防虫剤を持ってきましたー』
『わんこ侍:ありがとう。こっちもそろそろ終わるから、終わったら取り付け始めよう』
ミニャンジャ村で使われているコルンの木の樹皮は強い防虫効果があるので、この倉庫の建材にも使われている。そのうえで、コルンの樹皮から作られた防虫剤も室内に置くことにした。布を虫に食われたらたまったものではないので。
お昼過ぎには床や壁が石パネルで覆われた竪穴式住居が出来上がった。天井の縁や壁に作られたポケットには、防虫剤が入れられ、室内は強い木の匂いが漂った。
『オメガ:おー、良い感じだなー』
『わんこ侍:だろ?』
『士道:俺たちからすると大型倉庫みたいだな』
『オメガ:じゃあ、これでもうラックを作り始めていいのか?』
『わんこ侍:ああいいよ。それじゃあ資材を運び込むか』
工作班の賢者たちはこれからラックを作ることになっている。
期限は明日のミニャが帰ってくるまで。昼過ぎの帰還を予定しているので、24時間後くらいだ。割とすぐだが、魔法で物を作るのに慣れてきた賢者たちに焦りはない。
この倉庫に物がいっぱいになる様子を想像しながら、賢者たちはせっせとお仕事を進めた。
本日の重要なクエストの1つに、湖までの道の整備があった。
山道は歩く者がいなければ草が簡単に茂る。今はもう夏に入ったようなので、その速度も早い。
整備係の先頭で、火属性たちが草に火を放つ。
その火は指定した草だけを燃やし尽くし、それ以外の草木には決して延焼させない。
『バルバリ:うーん、賢き炎だっけ? その魔法ヤバいな』
『火剣:だろ!? なんか草刈りの仕事を奪っちゃってごめんね?』
『バルバリ:いや、それは別にいいんだけど』
今までの草刈りは風属性が一番だったが、指定した物や範囲だけに影響を及ぼす『賢き炎』を覚えた火属性は草刈り最強に躍り出ていた。
どんどん進む彼らの後ろを、他の賢者たちがトンボのような物を引っ張って歩いていく。
賢者は小さいため、このトンボは木製の柄の代わりにロープが等間隔に5本ついており、数人で引っ張って歩く造りになっている。
その特製トンボが大地の起伏に乗り上げてガタゴトと揺れ、起伏となっている部分を見つけ出す
『ゼル:ほい、穴掘り圧縮』
『絶狼:ちょっとここは凹んでるな。土持ってくるわ』
起伏部分は土属性の賢者が魔法で平らに均す。
前を歩くトンボ係は、地面を平らにするような人員ではなく、平らかどうかチェックしているのだ。
そして、地面を補修している土属性たちの背後でもう1台のトンボ係が歩いていた。彼らは最終チェック係である。
この集団が歩いた道は、非常に綺麗で平らな道に仕上がっていた。
『ギーンズ:生き物はやっぱり市場には売ってなかったみたいだぞ』
スレッドを見ながらお仕事をする賢者もいる。それが周りとの会話の潤滑油になった。どうやらミニャの方では市場見学が終わった様子。
『ブリザーラ:ミニャちゃんの話だとランバだったっすよね?』
『ギーンズ:ああ。まあ聞く限りロバみたいだけどな』
『ブリザーラ:やっぱり売ってるとしたら町の外っすかねー』
『ギーンズ:ぱっと見て牧場は見えなかったから、結構西の方にあるのかもな。もしくは輸入か』
今回の訪問で、賢者たちは荷運び用の生き物を購入したいと考えていた。
ランバはミニャ曰く、『馬のちっちゃいの!』とのこと。ミニャのいた地方特有の動物の可能性もあるので子供たちにも聞いたが、この辺りでも家畜にされているらしい。
そんなふうに各々お喋りをしたりスレッドに参加したりしつつ、まったりとしたお仕事。子供たちがいないのはつまらないが、たまにはこういう日もありといえばあり。
道の途中には女神の像が設置されている広場もある。
ここの整備もしっかりと行なわれ、来訪者に備える。威圧という意味で。
工作班はラック造りの他にも重要な仕事を受け持っていた。
荷車作りである。
領主は贈り物をミニャンジャ村へ運び込む人員として冒険者を雇っていた。しかし、ミニャが町に来たことで話が変わり、これがあやふやになっていた。
これは領主館の監視で知った情報なので、運んでくれることをミニャたちは知らないことになっている。なので、運んでもらうのなら人足を雇うなど、お願いする必要があるだろう。大判金貨1枚もあれば、おそらく簡単に手配できるはずだ。
なお、ランバが買えたとしても、慣れない船に乗ってストレスも生じるかもしれないので、当日中は使わないことを想定している。
なんにせよ、ずっと背負って持ってきてもらうのは非常に申し訳ないし、購入した量を考えると何往復もしてもらうことになってしまう。
そこで、崖の上に荷車を置き、それを使ってもらうことにした。道も、その荷車が走るためにも平らにしているわけだ。
材料はクーザーの船から手に入れた板がメインだが、自分たちでカンナ掛けして製材した木材も含まれている。
ミニャが出発してからすぐに作り始め、第一号が完成したのはお昼前。
出来上がったのは、4輪の荷車。
荷台となる部分の下に、ただ真っ直ぐな軸と車輪を取り付けた物だ。
『サガ:割と難しかったな』
『ジェノム:サカタが木工旋盤を作りたいって言ってたけど、早急に必要だろうね。魔法だけの工作もここら辺が限界だよ』
糸車などの車輪は作ったが、あれは木の幹を輪切りにして円形に整えただけなので簡単だったが、さらに直径を大きくした台車用の車輪は手こずることになった。魔法は便利だが、魔法一本でなんでも作れるのは難しそうだ。
『サガ:とりあえずちょっと引いてみるか』
『ジェノム:そろそろ時間が終わるから急ごうぜ』
工作班は荷台部分についたフックに、ロープを引っかけた。
賢者たちがこれを使う場合は、高い位置にある持ち手は持てないので、ロープを引いて運ぶことになる。
賢者10人で引っ張ると、カタコトと控えめな音を鳴らしながら荷車が動き出した。
『ジェノム:おー、良い感じじゃん!』
『サガ:あとは耐荷重試験だな。町の人に使わせている時に壊れたら、俺たちの沽券にかかわるぞ』
『ジェノム:それは次の組だな。もう時間だ』
『サガ:久しぶりに人形に宿ったけど、やっぱり短いなー』
そんなこんなで完成した荷車を、次に召喚された賢者たちが検品する。
「ももぐぅ!」
『ホクト:うわ、ちょ、揺れる!』
『ジャパンツ:乗り心地ひどいな!?』
モグや他の賢者たちを荷台に乗せ、100人+1匹が乗っても大丈夫だと証明された。ついでに賢者たちの三半規管がやられた。
『ウォッカ:こりゃラノベの主人公もサスペンションを開発するわ』
『リッド:湖への道は綺麗に均されたし、あそこを通る分なら平気でしょ』
『ウォッカ:まあとりあえず、これで運べることは証明できたし、2号車を作り始めよう』
荷車は2つ作られる予定であった。
賢者が入れ替わっているので、1号車のよりも良い感じの物を作ろうとみんなやる気だ。ネコミミっぽい柵を取り付けようとアイデアを忍ばせている者もいる。これでミニャちゃんが乗るのは、自分たちが作る2号車になるに違いないとほくそ笑む。
3~4時間のクエストを受け、生放送を楽しみ、スレッドで議論し、ミニャちゃん陛下の町訪問イベントは瞬く間に過ぎていった。
そして、夜。
大崖の階段上では、見張り隊がスレッドを見ながら任務に就いていた。
月明かりだけの暗い湖を見下ろす形で行なわれる見張り任務は、どうしても心霊的な想像を掻き立てる。
【453、ダーク:こちら湖見張り隊。幽霊がいてこわたにえん】
【454、名無し:ホンマや!】
【455、名無し:やっぱり水死者の幽霊なのかな?】
【456、名無し:現世を彷徨う条件ってなんなのかな。アンデッドってわけでもなさそうだし】
【457、名無し:怖いからミニャアメコンビの寝顔見てこよ】
【458、名無し:なに言ってんだお前。ミニャちゃん民はずっとサブウインドウに表示するもんだぞ】
闇属性のダークは、雑談スレッドにそんな投稿をしてみんなの興味を引きつつ、別のウインドウでは拡大定例会議に参加していた。見張りをしろ。
本日の定例会議は『拡大』とついているだけあって、21時から始まった会議は23時を過ぎてなお行なわれていた。
本日の議題は、明日行なわれる会談の修正がメイン。
本日の会談は主にグルコサ側の要望を聞かされたので、明日はこちら側からの要望を告げることになる。
他にも、いつもの報告会では、購入した物の目録が出来上がったことが告げられたり、領主との条約がまとめられた物が発表されたり、ニートが大半を占めているとは思えないちゃんとした会議を行なっていた。
とはいえ、定例会議で議論される方針は賢い賢者が考えてくれるので、普通の賢者は雑談スレや生放送を見ながら参加するのが一般的である。お風呂タイムに使う賢者もいるくらいだ。
ダークと一緒に見張りをしているタカシも普通の賢者で、雑談スレを読んで問うた。
『タカシ:湖の幽霊ってどのくらいいるの?』
『ダーク:今日は2体だな。あそことあそこ。霊視使ってやろうか?』
『タカシ:いやいい。怖くてお風呂に入れなくなる』
『ダーク:女子かよ。慣れればそんなに怖いもんでもないけどな』
『タカシ:お前、幽霊がいてこわたにえんとか書き込んでたじゃん』
『ダーク:あれはノリだよ。日本でも町を歩いてれば普通にいるし』
『タカシ:やめろー! 俺んちの前に墓があるんだよ!』
『ダーク:墓には不思議といないんだよな。3つ寺巡りをしたけど、墓じゃなくて住職の家の屋根に1人見つけただけだったな。墓石にはいなかったぞ』
『タカシ:ひぇ! いま、背後で草が鳴らなかった!?』
『ダーク:森なんだからそりゃ鳴るだろ。湖から風も吹くし』
そんな幽霊談義をしつつ見張りをする2人。
本当に見張りはできているのか甚だ疑問だが、その嫌疑は次の瞬間、晴らされることになった。
最初にそれを発見したのは、タカシだった。
『タカシ:ん? ちょ、ちょっとダーク。あれは何だと思う?』
『ダーク:え? なんだあれ?』
北東の水平線上に何かの影がある。
暗視性能を持つ賢者たちだが、それでも遠すぎてよくわからない。
しかし、1分ほどで困惑は驚愕に変わった。
『タカシ:おいおいおい、嘘だろ!?』
『ダーク:タカシは定例会議に報告して!』
ダークに言われて、タカシは大慌てで定例会議のスレッドに書き込みを行なう。
【591、タカシ:湖の見張りから緊急連絡! 北東方面に謎の船団を発見した!】
会議で議論されている内容をぶった切り、緊急事態の書き込みが投下された。
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